昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~地獄変~ (十一)朝食

2024-05-08 08:00:23 | 物語り

そうそうお話しておりませんでした、朝食のことでございます。
妻が寝込んでからは、止むなく麺類にしております。
うどんやらそばで済ませます。
いえいえ自炊が自慢なのではございません。
そのように先回りされましても。

実は、朝食をニ度頂いているのでございます。
いえ、お腹が空くからというわけではありません。
仕込みに一段落を付けての、ひと休みとしており……。
申し訳ありません、有り体に申し上げます。

娘でございます、娘が、娘が、申し訳ございません。
込み上げてきまして。
あの、あの朝のひと時が、わたくしの人生の華でございました。
なので、思い出す度に落涙してしまうのでございます。

さ、気を取り直して、お話を続けましょう。
二度の朝食と申しますのは、娘からの提案でございます。
「朝、一緒に食べてよ。
お母さん寝込んでるから、ひとりぽっちなの。
ちっとも美味しくないの、ひとりだと。
あたしが作ってあげるから、お父さんも食べてよ。
お母さんも、喜んでくれるから」

妻が喜ぶ? どういうことだ、それは。
ああそうか、そうか。
娘ひとりの食事が可哀相だから、仕方なく私にお相伴させようということか。
自分が起きたら、またわたしをのけ者にする腹でございましょう。

ふん、いいさ。
娘がわたしと一緒が良いと言ってくれるさ。
「お父さんの方が良いわ」と言われた時の妻の顔が見たいわ。

 



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