(五)
熱海の女将光子とは違った雰囲気を醸し出している、女将のぬい。
武蔵の虫が、ざわざわと騒ぎ立てている。
しかし新婚三日目の武蔵だ。いかな武蔵でも、暫くは大人しくしていようと思う。
思いはするのだが、むくむくと。
“戸籍上は新婚だが、実体は長いからなあ。
小夜子が転がり込んでから、何年になるんだ?”
一、二、と指を折り始めた時
「着きましたわ、旦那さま。
あらあら? 何を数えていらっしゃるのです?」
と、女将が声をかけた。
「え?いや、なんでもない。
女将のね、年勘定をちょっとね」
「お帰りなさい、女将さん。
あぁ、お客さまですか?」
玄関先を掃除中老人が、手を止めて女将を見る。
「治平さん、ただいま。
旦那さまがね、この雨に駅舎で立ち往生なさっておいでだったの。
でも、恵みの雨でした。
こうしてお客さまになっていただけたのだから」
熱海の女将光子とは違った雰囲気を醸し出している、女将のぬい。
武蔵の虫が、ざわざわと騒ぎ立てている。
しかし新婚三日目の武蔵だ。いかな武蔵でも、暫くは大人しくしていようと思う。
思いはするのだが、むくむくと。
“戸籍上は新婚だが、実体は長いからなあ。
小夜子が転がり込んでから、何年になるんだ?”
一、二、と指を折り始めた時
「着きましたわ、旦那さま。
あらあら? 何を数えていらっしゃるのです?」
と、女将が声をかけた。
「え?いや、なんでもない。
女将のね、年勘定をちょっとね」
「お帰りなさい、女将さん。
あぁ、お客さまですか?」
玄関先を掃除中老人が、手を止めて女将を見る。
「治平さん、ただいま。
旦那さまがね、この雨に駅舎で立ち往生なさっておいでだったの。
でも、恵みの雨でした。
こうしてお客さまになっていただけたのだから」
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