(三)崩壊
少年には、奇異にうつった。
テレビ画面では見ていたが、まぢかに見ると大迫力だ。
二度目のこんやでも、やはり奇異にうつる。
なんの変哲もない単調なくりかえしのなかに、若者たちがその膨大なエネルギーをついやしている。
ほとんど無表情な顔のなかに、真っ赤にぬられたくちびる――うっすらと開かれてチラリチラリとのぞく無機質なしろい歯が、ある種の秩序さえかんじさせる。
無軌道さのなかにひそむ、潜在的秩序――せいぜんと整理され、すべてがあるべき場所におさまっている。
そう! 少年のへやにひそむ、潜在的な崩壊。
「よーお、坊や。また来ましたね!」
カウンターのバーテンの声とともに、少年の耳にはエレキギターの炸裂する破壊音――ジェット機の発出音とともにやぶれかけた陣太鼓の音が――とどく……。
おもわず耳をふさぎたくなるぶきみな――闇のなかからきこえてくる雑多な蛙のなきごえ――そう、ドラムとベースのシンフォニー。
バズトーンと称される音が、店内を縦横無尽にかける。
地獄の断末魔のさけびごえのように、内蔵からえぐりだされるような声、ボーカル。
朱と橙が混ざりあった黄赤色もみえる髪の毛から垣間みえるRay-Banのサングラスが、少年の目をとらえる。
それらが一斉に少年をおそった。
さながら、戦争のような騒々しさー機関銃の連射・手榴弾の風切り音・砲弾の炸裂音――は、いたるところで若者をしばりつけているようだった。
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