(吉岡一門 六)
明け六つの鐘が鳴るなか、吉岡又七郎が一乗寺下り松の地に着いた。
季節が春をむかえたとはいえ、まだ夜明け前では冷気が辺りをつつんでいた。
「若、ここにお座りください」
梶田は、決闘の場として指定した場を広く見渡せる大きな松の木の下に陣どることにした。
態勢は万全だった。
東西南北のいずれからムサシが現れたとしても、それぞれの要所に門人を配置していた。
「若。大丈夫ですぞ。このように、多数の門人たちがお守りいたします。
ムサシも、ここまではたどり着けませぬゆえに」
梶田がしきりに又七郎に声をかける。
まだ幼い又七郎では、緊張がとれぬのも致し方のないことと考えていた。
干からびた声で「たのむぞ」と、又七郎が答えた。
梶田が「ムサシの姿は見えぬか。あ奴のことだ、こたびも遅参するであろうがの」
そう言った矢先に、ガサガサという音が頭上から聞こえ、梶田が頭上を見あげると同時にムサシが飛びおりてきた。
そしてそのまま、又七郎に剣を振りかざした。
あっという間の出来事でしばらくの間、誰も事の成り行きが理解できずにいた。
「討ち取ったりいぃぃ!」
体を起こしたムサシががなり立てた。見事に策が当たった。
なんの防御態勢を取らせることもなく、又七郎を討ちとった。
しかしこれが裏目に出た。烏合の衆的な若い門人たちが
「幼子を手にかけるとは、何ごとか!」
「木の上にひそんでの襲撃とは、卑怯なり!」
と、いきり立った。
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