(十一)分からずじまいの方が
パタパタという軽やかなスリッパの音で、ようやく新一の呪縛からのがれられた。
きのうの回想からぬけでた。
新一とわかれてこの地に来て、おだやかな朝を迎えたわたしだ。
空気の美味しさを、いくどとなく繰りかえす深呼吸で、たんのうした。
まるで故郷にかえったかと錯覚させられる。
ふと思った。
気心の知れた者との、棘のある会話のなかにみいだす愛。
そしてまた、他人との穏やかな会話のなかにみいだす冷たさ。
新一に気づかされる、物事のうらおもて。
知らずにいた方が、分からずじまいの方が良いことも多々あるだろうに。
夢を見ることしかなかったわたしが、その夢を実現すべく立ちあがる。
そのための勇気を、新一からもらった。
そしてゆめが現実となったとき、たしかに快感をえる。
満足感にひたっている。
幸福感に満ちあふれてもいる。
がしかし、一瞬間きょらいする空白感をも、味わってしまう。
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