昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十八) 八)あら、幸恵さん 

2013-10-25 18:40:10 | 時事問題
(八)

ニコニコ顔で答える小夜子、そして苦虫をつぶした顔で受ける茂作。
が、その中に少しばかりの安堵の色が浮かんでいる。

「ごめんください。小夜子さまは、お見えですか?」
「あら、幸恵さん」

小夜子が戸口に顔を出すと、幸恵がぺこりと頭を下げた。

「小夜子さま、今日お帰りになられるのですね?」

「えぇ、お昼の汽車に乗るつもりよ。でもどうしたの?」

突然に土下座をする幸恵。
驚いた小夜子が、幸恵を起こそうとするが、立ち上がろうとはしない幸恵だ。

「幸恵さん、やめて。一体、どうしたって言うの? 
怒るわよ、あたしも」

「ごめんなさい、ごめんなさい。小夜子さまに申し訳なくて」
体を震わせながら、涙声で謝り続ける幸恵だ。

「ひょっとして、幸恵さん。
正三さんのことなの? だったら、あなたが謝る必要なんかないのよ。
ご縁がなかったということよ」


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