(五)
シン公が、その先輩と交際をしているかどうか、それすら分かりません。
ほんとうのところは、シン公にとってのその先輩は、あこがれの女性であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。
学校ですれちがう時に、会釈をするだけなのです。
じつはアコの杞憂にすぎないのです。
シン公にとってのアコは、妹のような存在なのです。
まだ恋愛の対象としては、考えられないのです。
なにせ、アコが幼稚園児のころから、遊んでいるのです。
おなじ町内にいることから、アコの両親が共働きをしていることから、ずっと遊び相手になっているのです。
妹と見てしまうのも仕方のないことかもしれません。
でもいま、シン公の心に葛藤がうまれはじめています。
アコも、中学生になりました。
少女に、なりました。
少し、ニキビが出はじめています。
あやしかった雲行きは、とうとう雨を呼びました。
ポツリ、ポツリ、と降りはじめました。
そしてすぐに、本降りになりました。
シン公は、あわてて傘をひろげると、アコに寄りそいます。
街灯の灯りが、ふたりのかげを舗道にうかびあがらせました。
相々傘の、そのかげは、まるで恋人のようです。
「つめたい! シンちゃん、ぬれるわ!」
「ゴメン、ゴメン」
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