昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 初恋物語り [レモンの夕立ち](五)

2023-02-05 08:00:56 | 物語り

(五)

シン公が、その先輩と交際をしているかどうか、それすら分かりません。
ほんとうのところは、シン公にとってのその先輩は、あこがれの女性であり、それ以上でもそれ以下でもないのです。

学校ですれちがう時に、会釈をするだけなのです。
じつはアコの杞憂にすぎないのです。

シン公にとってのアコは、妹のような存在なのです。
まだ恋愛の対象としては、考えられないのです。

なにせ、アコが幼稚園児のころから、遊んでいるのです。
おなじ町内にいることから、アコの両親が共働きをしていることから、ずっと遊び相手になっているのです。

妹と見てしまうのも仕方のないことかもしれません。
でもいま、シン公の心に葛藤がうまれはじめています。

アコも、中学生になりました。
少女に、なりました。
少し、ニキビが出はじめています。

あやしかった雲行きは、とうとう雨を呼びました。
ポツリ、ポツリ、と降りはじめました。
そしてすぐに、本降りになりました。
シン公は、あわてて傘をひろげると、アコに寄りそいます。

街灯の灯りが、ふたりのかげを舗道にうかびあがらせました。
相々傘の、そのかげは、まるで恋人のようです。
「つめたい! シンちゃん、ぬれるわ!」
「ゴメン、ゴメン」



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