9日(火)。昨夕は中秋の名月でした あいにく曇天で月は拝めませんでしたが、娘が月見ダンゴを作ったので窓辺に飾りました。もちろん、今朝さっそくいただきました。月より団子ってか
閑話休題
昨日の日経朝刊・文化欄に「木工指揮棒作り 腕振るう~戦後創業の2代目、著名な音楽家からもオーダー」という見出しのエッセイが載りました 書いているのは荒川区にある「村松商店」の代表・村松恒至さん。超訳すると
「指揮棒にはガラス繊維やカーボングラファイトの素材もあるが、村松商店では戦後間もないころから木工の指揮棒を作っている 1本1本手作りで『ムラマツバトン』の名で販売している。素材としてカナダ産のメイプルを使用している。値段が手ごろで数は豊富にあり、曲がりにくくしなりもある。薄い色も美しく、利点が多い 先代からお願いしている職人さんがまだ現役で作っているが、新しい人が1人前になるまでには10年はかかるだろう 昔も今も学用品が中心だが、時々指揮者の方が直接オーダーに来る。フィンランド出身の指揮者エサ=ペッカ・サロネンが来たのは20年以上前のこと。亡きジャン・フルネも『急いで作ってほしい』とやってきた。日本人では大野和士からオーダーを受けた 佐渡裕も以前愛用していた。指の長さ、持ち方などに合わせた細かな違いを調整するのには時間がかかる 自社の指揮棒の値段は500円~1万円だが、それだけではとても生活できないので、テニススクールのコーチをしつつ、商売を続けている」
これを読む限り、職人さんによる手作りの木の指揮棒はやはり違うのでしょうね ところで”炎のコバケン”こと小林研一郎は折れた指揮棒に黒いテープで巻いて使っているので、ひょっとしたら木製の「ムラマツバトン」かな、と思いましたが、このエッセイに名前が出て来ないところをみると違うのでしょう
村松さんが書かれているように「ずっと棒もコルクも手作りでやってきたが、職人の高齢化、後継者不足が指揮棒作りにも響くようになる」でしょう。ムラマツバトンがうまくコン・タクトをとりながら若い世代へスムーズにバトン・タッチできるといいな、と思います
も一度、閑話休題
赤坂真里著「東京プリズン」(河出文庫)を読み終わりました この作品は毎日出版文化賞、司馬遼太郎賞、紫式部文学賞を受賞しています
日本の学校に馴染めないため、アメリカの高校に留学させられた16歳のマリだが、言葉や文化の違いに悩まされ、ここでも落ちこぼれてしまう そんなマリに高校のスペンサー先生は進級をかけたディベートを課す テーマは「天皇の戦争責任」という壮大なテーマで、しかも「天皇に戦争責任はある」という立場で論理を展開せよという指示だった。マリは「東京裁判」を振り返り、頭が混乱する中でディベートに臨む
マリはなぜ混乱しなければならなかったのか、について著者はマリに次のように語らせています
「『これ』を考えると思考停止になる、というツボがある。スペンサー先生はそこに触れてくる。おそらく私だけでなく、日本人全体にそのツボがある。そこに触れられるとフリーズしてしまう。日本の中学校では、近現代史に触れることは暗黙の、公然とした、タブーだった 事実は載せないわけにはいかないので教科書には載っている、けれどもつながりは教えない。誰もがそのことにおいては申し合わせたように足並みをそろえ、カリキュラムは卑弥呼から始めて明治維新あたりで時間切れになるようになっている この連携は見事というほかなかった。発せられる強いメッセージはたったひとつ、それは考えてはいけない問題だ、ということ。特に、子どもや学生が。まして、問うてはいけなかった。なぜ考えてはいけないのか、ということも。私たち子供がなぜそれを訊かなかったのかというと、訊くと大人が困ると思ったからだ」
われわれの世代の学校教育はまさにマリの言うような状況下にありました 赤坂真里さんは1964年生まれなので私より一回り下の世代に当たります。それでもなお、上記のような状況が続いたことが分かります。それはその後もずっと続いてきたのでしょう
「天皇に戦争責任はある」というスペンサー先生に対し、「それではヒロシマ、ナガサキに原爆を落としたアメリカの責任はどうなのか 長年にわたりベトナム戦争で残酷な行為を続けてきたアメリカの責任はどうなのか」と反論します。本論から外れる主張なのでルール違反であることは分かっていても、日本の読者としてはマリを応援したくなります
520ページを超える大作ですが、普段読んでいるミステリーと違って、なかなか前に進めませんでした いつの間にか、考えながら読んでいたからです。今年読んだ本の中で一番の”難敵”だった作品です
ちょうどこの本を読み終わった頃、記者クラブから、11日(木)午後6時から当ビル10階ホールで開催する「シリーズ企画『戦後70年 語る・問う』~赤坂真理さん、原武史さんによる対談」の案内が届いたので、参加の申し込みをしておきました 赤坂さんが「東京プリズン」の中で書いていたことも話題になると思うので、心して聞こうと思っています