6日(土)。昨夕、園内の蚊からデングウイルスが検出され、大部分が閉鎖された代々木公園に隣接するNHKホールに行きました。NHK職員もデング熱に感染した疑いがあるとのことですが、コンサートなので行かざるを得ません 渋谷駅から神南方面を目指して歩き、代々木公園を右手に見ながらNHKホールに着きました。途中の路上には「蚊にご注意ください」の立札が立てられていました。
そのNHKホールで「N響チャリティーコンサート HOPE」を聴きました プログラムは①チャイコフスキー「歌劇”エフゲニ―・オネーギン”よりポロネーズ」、②プロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第1番」、③プッチーニ「歌劇”ラ・ボエーム”」よりアリア、④チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」で、指揮は尾高忠明、②のヴァイオリン独奏は1994年生まれの大江馨、③のソプラノ独唱は人気の小林沙羅、テノール独唱は宮里直樹、④のピアノ独奏は2013年第82回日本音楽コンクール第1位の石井楓子です
いずれもこれからの日本のクラシック音楽界を担う若手のホープです
NHkホールに来たのは何年振りか思い出せないくらいかなり前のことです N響の定期会員でないのが最大の理由です。自席は2階C9列26番、センター右ブロック左通路側です。会場は9割方埋まっている感じです
コンマスはマロこと篠崎史紀、チェロの首席には向山佳絵子がスタンバイしています。N響正指揮者・尾高忠明のタクトが振り下ろされ、1曲目のチャイコフスキー「歌劇”エフゲー二・オネーギン”」から”ポロネーズ”が始まります トランペットとトロンボーンのファンファーレで華やかに舞踏会の幕が切って落とされます。若きソリストを迎えるコンサートに相応しい華麗な曲です。まずは名刺代わりといったところです
2曲目のソリストを迎えるに当たり、指揮者の横のスペースを空ける為、第1ヴァイオリンが後ろにずれるのですが、多くのオケでは、ステージマネジャーが椅子を一つずつ後ろにずらしていくのに対し、この日、篠崎マロと大宮臨太郎は自分で椅子を後ろにずらしていました プライドが高いN響にしては”セルフ・サービス”が意外でした
ソリストの大江馨が指揮者に伴われて登場します。スマートで颯爽とした佇まいです プロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、作曲者が26歳の時の作品です。第1楽章冒頭、ヴィオラのトレモロに乗せてヴァイオリンが抒情的なメロディーを奏でますが、これを聴いて、同じ作曲家の交響曲第7番を思い起こしました
この曲には「青春」というニックネームが付けられていますが、曲想が似ているように思いました
間を置かずに開始した第2楽章のスケルツォはプロコフィエフの独壇場です
アイロニカルでありユーモラスです。第3楽章のモデラート~アレグロ・モデラートはファゴットのユーモラスなメロディーに導かれてヴァイオリンがテーマを奏でていきます。かなり技巧的なパッセージがあり、ソリストの能力が試されます。大江は確かな技術力の裏付けをもって堂々と曲に対峙していました
休憩後の最初はプッチーニの歌劇「ラ・ボエーム」から「冷たい手を」「わたしの名はミミ」「愛らしい乙女よ」が、宮里直樹のテノール、小林沙羅のソプラノで歌われました 宮里は東京藝大首席卒業、日伊声楽コンコルソ第1位という経歴からも分かるように、声量もあり明るいテノールです
一方、小林沙羅も東京藝大卒で、すでに国内外で活躍している今売出し中のソプラノです
二人はプッチーニの感動的なアリアを思い入れたっぷりに歌い上げます。「愛らしい乙女よ」で、二人が腕を組んで歌いながらステージ袖に引っ込んでいくと、もう終わりかと勘違いした聴衆から拍手が起きました
その後もオケが音楽を奏で、舞台裏から二人のデュエットが聴こえると拍手が止み、オケの演奏が終わると再び拍手が湧きました
ピアノがセンターに運ばれ、チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番が始まります。ピンクの花柄模様のドレスをまとった石井楓子が指揮者と共に登場します 第1楽章冒頭からピアノと管弦楽が雄大な音楽を展開します。石井楓子のピアノは力強くもあり、技術的には申し分のない演奏です
聴いていて思ったのは、若い今のうちはいいとしても、今後ソリストとして生き残っていくためには他のピアニストと違う”個性”が必要だ、ということです
技術的に優れたピアニストは数知れずいます
たとえば、このチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番のような、誰もが知っている超名曲を演奏する場合は、並みの演奏をしていたのでは、「誰が演奏しても同じじゃん
」と言われるのがオチです。その人でなければ表現できない演奏が求められます
誰もが譜面通りに演奏するわけですから、そう簡単に個性を発揮するわけにはいかないでしょう。ポイントは「もう一度、彼(彼女)の演奏を聴きたいと思うかどうか」ということだと思います
この日は名前も知らない(小林沙羅を除く)若手の音楽家の演奏が聴けて良かったと思っています。素晴らしいソリストたちでした
帰りは、またごみごみした渋谷に戻るのは嫌なので、右手に代々木公園を見ながら原宿方面を目指して、蚊に刺されないように速足で原宿駅まで歩きました