アイスランドは小国です。そしてその国民生活の舞台は小さな社会です。この「小さな社会」という言葉は「小国」とはすこし異なった意味合いを持っています。
「小国」というのは国の規模や経済能力、軍事能力を比較して使う言葉だと思いますが、「小さな社会」というのはそのような数字で表せるもの以外を含んでいます。
それは例えば人口三十二万強という、日本なら小さめの地方都市ぐらいの社会が「全国」であるということからくる関係の密加減や、そこから生じる都合の良さと逆に「疲れるー」というような生活感を表してもいるのです。
先週の火曜日にある事故があったのですが、その顛末をご紹介しましょう。
レイキャビク近郊にハフナフョルズルという古い港町があります。以前ブログにも書いたことがあります。
隣り街の話し
この町の中心に綺麗な大きな池があります。そこから水を導くための、日本でなら用水路と呼ぶかもしれないようなものが出て、途中水をせき止め流れを変える小さなダムのようなところがあります。ちょうど雪解けなどで水量が増えていて、今は高低差二メートルほどの滝のようになっています。
滝の下には多少の水深のあるたまりができており、小さいながらも渦を巻いています。これらの情報はニュースで得たもので、私自身はそこへ行ったことはありません。毎度のことで悪しからず。(^-^;
さて川の近くの広場で十二歳と九歳の兄弟がサッカー遊びをしていました。そしてご想像の通りボールがミニダムの下のたまりに落ちてしまいました。九歳の弟が一生懸命ボールを引き寄せようとしたのですがうまくいきません。
そしてついに弟は誤った判断をしてボールを取ろうと水に入ってしまったのです。「この年齢では水の恐ろしさを過小評価したことはあり得ることと言える」と警察発表にありました。弟はあっという間にたまりにはまってしまいました。兄は弟を助けようと必死になりましたが、手を握ったところでこれも逆に水の中へ引き込まれてしまったのです。
小さいとはいえ渦を巻いているくらいですから、自分で抜け出ることはできません。事故に気がついた兄弟の十六歳の姉が母親に電話。そこから警察へ通報が行きました。
警察は四分後に到着しましたが、それより先に通りすがりの三十代の男性が水にはまった兄弟を救出しようとしましたが、この人も逆に水に落ちてしまいました。
警察官六人が到着し兄と男性を救出。なにしろ氷のような水の冷たさですから、ふたりとも危険な状態でした。兄は呼吸困難になっていましたが、人口呼吸で一応息を吹き返しました。
さて救助の警察官六人のうちひとりは、まだ水の中に取り残されている弟を助けようといてもたってもいられず無理をし、これもまたたまりに落ち込んでしまいました。
残った全員が必死になって救出の試みを続け、ついに弟と警察官を引き上げました。弟はすでに相当危険な状態にあったらしく、搬送された病院でも人口呼吸器をつけられたまま意識不明の状態が続きました。兄の方は同日中に自分を取り戻し退院できました。
事故から三日目の金曜日。弟は意識を回復し、人工呼吸器も必要なくなりました。助けようとして水難に会った男性と警察官も回復したようです。
この事故はいわば四重事故となってしまったわけで(弟–兄–男性–警察官)、世間の関心を引きましたし、多くの人が事故の犠牲者の回復を願い祈りました。そういう状況の中で警察は事故の子細を報告する形で発表を出したのです。
発表はこのように締めくくられています。「警察と子供達の家族は、非常に難しい状況の事故現場で、救出のために信じられないような尽力と勇気を示してくれた方々に感謝します。また警察は兄弟とその家族に回復を願う挨拶を送ります」
この事故の顛末をご紹介したのは、ここにこの小さな社会の良い面が感じられるからです。恐ろしい事故で、生命が失われなかったことは本当に幸いなことでした。そしてこのような事故にも社会全体が注目して成り行きを見守るのです。
もう十五年も前のことですが、グリンダビクという南西部の町で六歳のネパールの女の子がプールの事故で亡くなりました。その葬儀のお手伝いをしたのですが、町の家々がそれぞれに半旗を掲げて喪に服していました。
痛ましい事故でしたが、その様子に別の灯を見た思いがしました。「ひとりの個人がひとりの個人としての価値を保っている」
私がアイスランドを気に入っている一番の理由です。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
「小国」というのは国の規模や経済能力、軍事能力を比較して使う言葉だと思いますが、「小さな社会」というのはそのような数字で表せるもの以外を含んでいます。
それは例えば人口三十二万強という、日本なら小さめの地方都市ぐらいの社会が「全国」であるということからくる関係の密加減や、そこから生じる都合の良さと逆に「疲れるー」というような生活感を表してもいるのです。
先週の火曜日にある事故があったのですが、その顛末をご紹介しましょう。
レイキャビク近郊にハフナフョルズルという古い港町があります。以前ブログにも書いたことがあります。
隣り街の話し
この町の中心に綺麗な大きな池があります。そこから水を導くための、日本でなら用水路と呼ぶかもしれないようなものが出て、途中水をせき止め流れを変える小さなダムのようなところがあります。ちょうど雪解けなどで水量が増えていて、今は高低差二メートルほどの滝のようになっています。
滝の下には多少の水深のあるたまりができており、小さいながらも渦を巻いています。これらの情報はニュースで得たもので、私自身はそこへ行ったことはありません。毎度のことで悪しからず。(^-^;
さて川の近くの広場で十二歳と九歳の兄弟がサッカー遊びをしていました。そしてご想像の通りボールがミニダムの下のたまりに落ちてしまいました。九歳の弟が一生懸命ボールを引き寄せようとしたのですがうまくいきません。
そしてついに弟は誤った判断をしてボールを取ろうと水に入ってしまったのです。「この年齢では水の恐ろしさを過小評価したことはあり得ることと言える」と警察発表にありました。弟はあっという間にたまりにはまってしまいました。兄は弟を助けようと必死になりましたが、手を握ったところでこれも逆に水の中へ引き込まれてしまったのです。
小さいとはいえ渦を巻いているくらいですから、自分で抜け出ることはできません。事故に気がついた兄弟の十六歳の姉が母親に電話。そこから警察へ通報が行きました。
警察は四分後に到着しましたが、それより先に通りすがりの三十代の男性が水にはまった兄弟を救出しようとしましたが、この人も逆に水に落ちてしまいました。
警察官六人が到着し兄と男性を救出。なにしろ氷のような水の冷たさですから、ふたりとも危険な状態でした。兄は呼吸困難になっていましたが、人口呼吸で一応息を吹き返しました。
さて救助の警察官六人のうちひとりは、まだ水の中に取り残されている弟を助けようといてもたってもいられず無理をし、これもまたたまりに落ち込んでしまいました。
残った全員が必死になって救出の試みを続け、ついに弟と警察官を引き上げました。弟はすでに相当危険な状態にあったらしく、搬送された病院でも人口呼吸器をつけられたまま意識不明の状態が続きました。兄の方は同日中に自分を取り戻し退院できました。
事故から三日目の金曜日。弟は意識を回復し、人工呼吸器も必要なくなりました。助けようとして水難に会った男性と警察官も回復したようです。
この事故はいわば四重事故となってしまったわけで(弟–兄–男性–警察官)、世間の関心を引きましたし、多くの人が事故の犠牲者の回復を願い祈りました。そういう状況の中で警察は事故の子細を報告する形で発表を出したのです。
発表はこのように締めくくられています。「警察と子供達の家族は、非常に難しい状況の事故現場で、救出のために信じられないような尽力と勇気を示してくれた方々に感謝します。また警察は兄弟とその家族に回復を願う挨拶を送ります」
この事故の顛末をご紹介したのは、ここにこの小さな社会の良い面が感じられるからです。恐ろしい事故で、生命が失われなかったことは本当に幸いなことでした。そしてこのような事故にも社会全体が注目して成り行きを見守るのです。
もう十五年も前のことですが、グリンダビクという南西部の町で六歳のネパールの女の子がプールの事故で亡くなりました。その葬儀のお手伝いをしたのですが、町の家々がそれぞれに半旗を掲げて喪に服していました。
痛ましい事故でしたが、その様子に別の灯を見た思いがしました。「ひとりの個人がひとりの個人としての価値を保っている」
私がアイスランドを気に入っている一番の理由です。
応援します、若い力。Meet Iceland
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