今回は先週のモルグンブラウズ紙のニュースからお伝えします。
アイスランド、特にレイキャビクでは住宅問題が深刻であることは以前にも書いたことがあります。五年前の経済崩壊と通貨暴落のあおりを受けて、住宅ローンが天文学的な額に急騰しました。
大きな家に住んでいた人たちが中くらいの住宅に移ったり、中くらいの家に住んでいた人は小さな家に移ったりして財政難を切り抜けようとしたのですが、ローンが返済できず銀行に家を差し押さえられてしまったり、借り家を追い出された人が多く出ました。
そこへもってきて観光業の繁盛を機会に、今まで賃貸住宅だった家屋を家主がホテルやゲストハウスにしてしまうケースが相次ぎました。結果としてもともと少なかった賃貸住宅がさらに少なくなってしまいました。
政府は住宅ローンの切り下げを実施中ですし、レイキャビク市は賃貸住宅の増加の方針を打ち出していますが、「今日の明日」というわけにはいきません。本当に「路頭に迷う」人が出始めてしまうようになってきているのです。
その前提での以下の報道です。
始めのニュースは小さい記事でした。ラグナ・エルレンドゥスドティールという「シングルマザーが路頭に迷う羽目になってしまった」というものでした。ラグナさんはこれまで三回「社会福祉的住宅」というものに申し込んできたのですがいずれも拒否されてしまったそうです。
「社会福祉的住宅」というのは市が生活困難者のために低額で斡旋するものなのですが、もちろんこれにも数の限りがありますので誰もが住宅を得ることができるわけではありません。
新聞の報道はプライバシーを尊重して、微に入り細に入り説明してはいませんが、ラグナさんは女の子ふたりのお母さんなようです。写真で見ると四十歳ぐらいで、上の娘さんは中学生、下の子は小学校低学年の感じがします。
ところがこの夏にもうひとりいた娘さんが難病との長い闘病生活の末、この夏に亡くなってしまったとのこと。そういう事情であったらなら、ラグナさんが働くだけ働く、という生活ができなかったことは容易に想像できます。あくまでも想像ですが。
ここしばらくは臨時の仮住まい住宅をあてがわれていたようですが、それも期限切れになり、先々週の週末からゲストハウスに滞在しているとの内容でした。「クリスマス前の時期に(自宅ではなく)ゲストハウスに宿泊しなければならないのは残念です。ここはシングルマザーのためのシェルターでもなければ、宿泊費が安いわけでもありませんし」とラグナさん。
この報道が流れたのが先週の月曜日(十二月一日)でした。そしてその翌日の新聞に続報が出ました。見出しは「無縁の人が住宅の使用の申し出」月曜日のニュースでラグナさん一家の窮状を知った人が住宅の使用を提供したとのこと。期限つきではありますが無料。
申し出はふたつあったようでひとつは市の東部のブレイズホルトという町の住宅、もうひとつは我が西街の住宅でした。結局ラグナさんは西街の住宅の申し出の方を受け入れたようですが、あくまでも「とりあえず」で今月の二十日までそこに滞在できるとのこと。
その住宅の持ち主はデンマークに住むソルヴェイさんという六十五歳の看護師の女性で、「クリスマス休暇には甥っ子の家族が滞在することになっているので、クリスマス期間中はずっとというわけにはいかないが、年明けにはまた住んでもらうことも考えられる」と語っています。
さらにその翌日、三日の水曜日の続報です。見出しは「ラグナさんにロットーの一部を寄付」レイキャビク出身で現在は老人ホームに住む年配の女性で、この方は匿名を希望しているそうなのですが、ニュースを見て自分が当たったロットーの賞金の中から五十万クローネをラグナさんに寄付したとのこと。
この老婦人はモルグンブラウズ紙に連絡を取り、ラグナさんの電話番号を得て直接に話を伝えたそうです。「それからすぐにラグナさんの口座に入金しました。今日できることは今日するのが主義で」とその老婦人は語っています。「でも他にも困っている人は大勢いることは知っているし、皆に同じようにできないのは残念ですが」
私は「本来アイスランドというのはこういう社会だったのだろう」と感じます。この老婦人達が慈善家気取りで援助を申し出たとは思いません。そうではなくて、困っている人がいたら知らない間の人であっても助けようとする、そういう田舎社会の遺産をまだ持っているのだろうと思います。
その一方で現代のアイスランドは、路頭に迷う人が出ても何もしようとしない政府と市政を持っていることも事実です。残念なことですが「普通」の先進国の仲間になってしまっています。市政の多くの部門はガラス張りの新得の高層ビルに入っています。その界隈 で働く人の中にはそこを「ウォール・ストリート」と自称する人たちがいるのだそうです。オイ、バラ! (こちらでの「オエッ」)
社会が発展するのは必然ですし良いことです。「昔」にしがみついてもペイしません。ですがどのように発展させ、何を捨て何を携えていくかの選択はまじめに賢く行ってもらいたいものです。と、いいながらワタシも当事者のひとりですけどね。
ラグナさん母娘にもアドヴェントの光は届いたようです。今回の天使はおばあちゃん天使だったようで。良いクリスマスを過ごしてもらいたいと願います。
オーロラのトレイラーはこちら
オーロラ無料視聴ビデオはこちら
有料ビデオはこちら
まだまだ凄い。国営放送の火山の英語情報はこちら。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
Home Page: www.toma.is
アイスランド、特にレイキャビクでは住宅問題が深刻であることは以前にも書いたことがあります。五年前の経済崩壊と通貨暴落のあおりを受けて、住宅ローンが天文学的な額に急騰しました。
大きな家に住んでいた人たちが中くらいの住宅に移ったり、中くらいの家に住んでいた人は小さな家に移ったりして財政難を切り抜けようとしたのですが、ローンが返済できず銀行に家を差し押さえられてしまったり、借り家を追い出された人が多く出ました。
そこへもってきて観光業の繁盛を機会に、今まで賃貸住宅だった家屋を家主がホテルやゲストハウスにしてしまうケースが相次ぎました。結果としてもともと少なかった賃貸住宅がさらに少なくなってしまいました。
政府は住宅ローンの切り下げを実施中ですし、レイキャビク市は賃貸住宅の増加の方針を打ち出していますが、「今日の明日」というわけにはいきません。本当に「路頭に迷う」人が出始めてしまうようになってきているのです。
その前提での以下の報道です。
始めのニュースは小さい記事でした。ラグナ・エルレンドゥスドティールという「シングルマザーが路頭に迷う羽目になってしまった」というものでした。ラグナさんはこれまで三回「社会福祉的住宅」というものに申し込んできたのですがいずれも拒否されてしまったそうです。
「社会福祉的住宅」というのは市が生活困難者のために低額で斡旋するものなのですが、もちろんこれにも数の限りがありますので誰もが住宅を得ることができるわけではありません。
新聞の報道はプライバシーを尊重して、微に入り細に入り説明してはいませんが、ラグナさんは女の子ふたりのお母さんなようです。写真で見ると四十歳ぐらいで、上の娘さんは中学生、下の子は小学校低学年の感じがします。
ところがこの夏にもうひとりいた娘さんが難病との長い闘病生活の末、この夏に亡くなってしまったとのこと。そういう事情であったらなら、ラグナさんが働くだけ働く、という生活ができなかったことは容易に想像できます。あくまでも想像ですが。
ここしばらくは臨時の仮住まい住宅をあてがわれていたようですが、それも期限切れになり、先々週の週末からゲストハウスに滞在しているとの内容でした。「クリスマス前の時期に(自宅ではなく)ゲストハウスに宿泊しなければならないのは残念です。ここはシングルマザーのためのシェルターでもなければ、宿泊費が安いわけでもありませんし」とラグナさん。
この報道が流れたのが先週の月曜日(十二月一日)でした。そしてその翌日の新聞に続報が出ました。見出しは「無縁の人が住宅の使用の申し出」月曜日のニュースでラグナさん一家の窮状を知った人が住宅の使用を提供したとのこと。期限つきではありますが無料。
申し出はふたつあったようでひとつは市の東部のブレイズホルトという町の住宅、もうひとつは我が西街の住宅でした。結局ラグナさんは西街の住宅の申し出の方を受け入れたようですが、あくまでも「とりあえず」で今月の二十日までそこに滞在できるとのこと。
その住宅の持ち主はデンマークに住むソルヴェイさんという六十五歳の看護師の女性で、「クリスマス休暇には甥っ子の家族が滞在することになっているので、クリスマス期間中はずっとというわけにはいかないが、年明けにはまた住んでもらうことも考えられる」と語っています。
さらにその翌日、三日の水曜日の続報です。見出しは「ラグナさんにロットーの一部を寄付」レイキャビク出身で現在は老人ホームに住む年配の女性で、この方は匿名を希望しているそうなのですが、ニュースを見て自分が当たったロットーの賞金の中から五十万クローネをラグナさんに寄付したとのこと。
この老婦人はモルグンブラウズ紙に連絡を取り、ラグナさんの電話番号を得て直接に話を伝えたそうです。「それからすぐにラグナさんの口座に入金しました。今日できることは今日するのが主義で」とその老婦人は語っています。「でも他にも困っている人は大勢いることは知っているし、皆に同じようにできないのは残念ですが」
私は「本来アイスランドというのはこういう社会だったのだろう」と感じます。この老婦人達が慈善家気取りで援助を申し出たとは思いません。そうではなくて、困っている人がいたら知らない間の人であっても助けようとする、そういう田舎社会の遺産をまだ持っているのだろうと思います。
その一方で現代のアイスランドは、路頭に迷う人が出ても何もしようとしない政府と市政を持っていることも事実です。残念なことですが「普通」の先進国の仲間になってしまっています。市政の多くの部門はガラス張りの新得の高層ビルに入っています。その界隈 で働く人の中にはそこを「ウォール・ストリート」と自称する人たちがいるのだそうです。オイ、バラ! (こちらでの「オエッ」)
社会が発展するのは必然ですし良いことです。「昔」にしがみついてもペイしません。ですがどのように発展させ、何を捨て何を携えていくかの選択はまじめに賢く行ってもらいたいものです。と、いいながらワタシも当事者のひとりですけどね。
ラグナさん母娘にもアドヴェントの光は届いたようです。今回の天使はおばあちゃん天使だったようで。良いクリスマスを過ごしてもらいたいと願います。
オーロラのトレイラーはこちら
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まだまだ凄い。国営放送の火山の英語情報はこちら。
応援します、若い力。Meet Iceland
藤間/Tomaへのコンタクトは:nishimachihitori @gmail.com
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ええ、このサイズの国で路上生活者を出すことは恥ずかしいことだと思いますねえ。
銀行に住宅を差し押さえられる人が多くいるのですが、例えばランドスバンキは今でも98%国のものなんですよ。国が国民を追い立てていることになり、何とも納得できません。
でも、おばあちゃん天使の優しさに感動しました!アメリカナイズされたエリート達ではなく、そういうおばあちゃんこそ、政治家になってほしいですねえ。