小さな町の長い商店街の路地に、ロンという世の中に存在する猫の色をすべて取り入れたようなブチ柄の猫が住んでいました。
ある夜のこと、町の猫たちが集まり、猫会議が開かれました。議題は、とっても重要な縄張りに関することです。隣町で相次いで子猫が生まれたため、正式に依頼を受け、ロンたちのグループが縄張りを少しだけ南にずらすことになったのです。みんなで話し合った結果、1匹、1匹の猫たちの縄張りを少しずつ南にずらすことになりました。
「慣れないうちは間違うこともあると思うが、揉め事を起こさないように!」
会議を取り仕切っていた、ナンバー2の虎次郎は、最後に厳しい口調でいったあと、ロンを呼び止めました。
「君の隣の縄張りに住んでいるチーが、風邪をひいて休んでいる。明日、チーが自分の縄張りの点検に出かける前に、今日決まったことを伝えといてくれないか」
ロンは「いいですよ。任せといてください」と、軽い気持で引き受けました。
しかし、翌日、ロンは寝坊してしまい、気づいたときには、チーはすでに縄張りの点検に出かけたあと。「しまった!」と思い、後を追いますが、時すでに遅し。チーは、縄張りが隣接するタロロと揉め事を起こしてしまいました。
事の発端は、縄張りがずれたことを知らなかったチーがタロロの縄張りに侵入。それを見たタロロは、チーがこの機会に自分の縄張りを拡大するために、進入してきたと思い込み、ケンカになってしまったのです。
ケンカの途中で、虎次郎が通りかかり割って入ったため大事には至りませんでしたが、それでもタロロは右の前足、チーは左の後足をケガしてしまいました。
ケンカが落ち着いたところで、息を切らせてロンが登場。虎次郎は何もいいませんでしたが、タロロは「このケガじゃ、当分はお気に入りの屋根の上での昼寝はお預けだな」とちょっと寂しそうにいい、チーは「このケガじゃ、イジワルするワンコに襲われても逃げ遅れちゃうよ」と不貞腐れたようにいいました。
ロンは、2匹に申し訳ない気持でいっぱいになり、何もいえずに黙ってその場を立ち去りました。この日は、何も食べずに丸く、うずくまったままじっとして過ごしていました。それでも、なかなか気持が治まらず、寝付けない夜にため息をつきながら夜空を見上げていると、まるで天から降ってきたかのように、1匹の猫が現れました。真っ白い身体に4本の足下とシッポの先だけが、まるで足袋を履いているようにグレーの毛が生えているネコ。タビです。タビは不思議な力をもったネコです。
「ずいぶん、落ち込んでいるね。どうしたんだい?」
タビは、やさしく声をかけました。
ロンは、今日あったことを説明し「2匹に申し訳なくて…」と繰り返していました。タビはうなずきながら聞いていました。
そのうち、ロンは決意したように言いました。
「そうだ、タビは不思議な力を持っているよね。僕も、2匹と同じように右の前足と左の後足が自由に動かないようにしてもらえないかな?」
タビは、ちょっと驚いたようでしたが「そうすれば、君は安心できるのかな?」という問いかけに、「うん」とうなずくロンを見ていいました。
「いいよ、わかった。じゃあ、ちょっと横になって…」というと、右前足をロンの頭の上に乗せ「あおーん」と一鳴きして、去っていきました。
タビが去った後、ロンはゆっくり立ち上がろうとしましたが、右の前足と左の後足が思うように動きません。ロンはそんな状態の自分を確認すると、安心したように眠りにつきました。(つづく)
(今回のお話は全3話です)
ある夜のこと、町の猫たちが集まり、猫会議が開かれました。議題は、とっても重要な縄張りに関することです。隣町で相次いで子猫が生まれたため、正式に依頼を受け、ロンたちのグループが縄張りを少しだけ南にずらすことになったのです。みんなで話し合った結果、1匹、1匹の猫たちの縄張りを少しずつ南にずらすことになりました。
「慣れないうちは間違うこともあると思うが、揉め事を起こさないように!」
会議を取り仕切っていた、ナンバー2の虎次郎は、最後に厳しい口調でいったあと、ロンを呼び止めました。
「君の隣の縄張りに住んでいるチーが、風邪をひいて休んでいる。明日、チーが自分の縄張りの点検に出かける前に、今日決まったことを伝えといてくれないか」
ロンは「いいですよ。任せといてください」と、軽い気持で引き受けました。
しかし、翌日、ロンは寝坊してしまい、気づいたときには、チーはすでに縄張りの点検に出かけたあと。「しまった!」と思い、後を追いますが、時すでに遅し。チーは、縄張りが隣接するタロロと揉め事を起こしてしまいました。
事の発端は、縄張りがずれたことを知らなかったチーがタロロの縄張りに侵入。それを見たタロロは、チーがこの機会に自分の縄張りを拡大するために、進入してきたと思い込み、ケンカになってしまったのです。
ケンカの途中で、虎次郎が通りかかり割って入ったため大事には至りませんでしたが、それでもタロロは右の前足、チーは左の後足をケガしてしまいました。
ケンカが落ち着いたところで、息を切らせてロンが登場。虎次郎は何もいいませんでしたが、タロロは「このケガじゃ、当分はお気に入りの屋根の上での昼寝はお預けだな」とちょっと寂しそうにいい、チーは「このケガじゃ、イジワルするワンコに襲われても逃げ遅れちゃうよ」と不貞腐れたようにいいました。
ロンは、2匹に申し訳ない気持でいっぱいになり、何もいえずに黙ってその場を立ち去りました。この日は、何も食べずに丸く、うずくまったままじっとして過ごしていました。それでも、なかなか気持が治まらず、寝付けない夜にため息をつきながら夜空を見上げていると、まるで天から降ってきたかのように、1匹の猫が現れました。真っ白い身体に4本の足下とシッポの先だけが、まるで足袋を履いているようにグレーの毛が生えているネコ。タビです。タビは不思議な力をもったネコです。
「ずいぶん、落ち込んでいるね。どうしたんだい?」
タビは、やさしく声をかけました。
ロンは、今日あったことを説明し「2匹に申し訳なくて…」と繰り返していました。タビはうなずきながら聞いていました。
そのうち、ロンは決意したように言いました。
「そうだ、タビは不思議な力を持っているよね。僕も、2匹と同じように右の前足と左の後足が自由に動かないようにしてもらえないかな?」
タビは、ちょっと驚いたようでしたが「そうすれば、君は安心できるのかな?」という問いかけに、「うん」とうなずくロンを見ていいました。
「いいよ、わかった。じゃあ、ちょっと横になって…」というと、右前足をロンの頭の上に乗せ「あおーん」と一鳴きして、去っていきました。
タビが去った後、ロンはゆっくり立ち上がろうとしましたが、右の前足と左の後足が思うように動きません。ロンはそんな状態の自分を確認すると、安心したように眠りにつきました。(つづく)
(今回のお話は全3話です)