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聖ドミニコが、ロザリオについて説教している時に、
一人の悪魔に憑かれた人が、連れてこられた。
その人は、鎖で縛られ、大声で叫びながら、恐ろしい冒涜の言葉を吐いていた。
聖ドミニコは、悪魔に向かって尋ねた。『なぜこの人の中に入ったのか?』
すると悪魔は答えて、
『童貞マリアに対する不敬のためです。
一ヶ月もあなたのロザリオに関する説教を聞いていながら、
あなたを中傷し、信用を失わせるように働いていたので、
改心をしようとしていた多くの異端者達も改心を中止しました。
今、天主の正しい摂理で、この男を苦しめる役目を務めているのですが、
私共(サタン、悪魔)は、この男のおかげで、たくさんの霊魂を儲けているのです』
そこで、聖ドミニコは、尋ねた。
『造られた者の中で、汝らが最も恐れ、また人々の愛を受くべき最も価値ある御者は誰か?』
この質問に、悪魔は、恐ろしい叫び声をあげるだけで、
どうしても答えようとしなかった。
そこで、聖ドミニコは、地に伏して、天の女王なる聖母マリアに祈った。
『ああ、聖母よ、人類の敵(悪魔)が、我が尋ねに答えて、
真理を告白するように、計らい給え。
御身のロザリオに対して、信心篤きこの人々の霊魂のために願い奉る』
すると、剣を帯びた天使の一隊が現れ、その中央に童貞マリアが在した。
マリアは、手にした金の王しゃくで悪魔憑きをつついて、返答するように命じられた。
不幸な男は、鳴り響くような大声で叫んだ。
『イエズスの御母は、彼女の崇敬者らを地獄を免れさせる大きな力を持っている。
太陽が闇を追い払うように、聖母は、我々の企みを蹴散らす。
彼女を崇敬する者の中には、我々と共に滅びる者は、居ない、という事を、
我々は、言わなければならない。
マリアが至聖三位一体に向かって、発せられる一言は、その力において、
他の聖人達の祈りより、遙かに優れている。
だから我々は、諸聖人全部より、マリアを恐れる。
マリアの崇敬者の中の只一人でさえ、征服することが出来ない。
聖母は、マリアの名を呼ぶ者を臨終の時に、我々の手から奪って助ける。
ああ、この女が、我らを引き留めなければ、千度でも教会を根絶しただろう』
悪魔にこの苦しい告白をさせた後、
聖ドミニコは、集っていた人々に、ロザリオを勧めて、唱えさせる事にした。
すると悪魔に憑かれた男は 自由になり、
心から改心して、ロザリオの信心を熱心に行うようになった。
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「無原罪の御(おん)宿りなるマリア、
わが主イエズス・キリストの
潔白にして聖 童貞なる御母(みはは)よ、
我ら一人ひとりを 御身のベールの下(もと)に引き入れたまいて、
貞潔の徳を犯さんとする 一切の攻撃や誘惑より
我らを守り防ぎたまえ アーメン。」