民間賃貸住宅政策に関する意見
全国借地借家人組合連合会
1、民間賃貸住宅をめぐる現状認識と社会資本整備審議会の課題
社会資本整備審議会住宅宅地分科会が「国民が安心して暮らすことができる民間賃貸住宅政策のあり方」を検討するよう諮問を受け、民間賃貸住宅部会で昨年10回にわたり調査審議を行ない、委員の意見をまとめた「最終とりまとめ」について当連合会としての意見を提出する。
同部会の構成についてかねてより疑問をもっていたが、委員の多くが貸主側・業界側の代表に偏っていることで(後半から消費者側の委員を追加された)、審議の内容の多くが賃貸人のリスクを軽減することが重要視され、賃借人の居住の安定や保護が全く軽視されるなど貸主側の論理に沿った審議が行なわれ、公正な審議が行なわれたのかどうか疑問を感じざるを得ない。民間賃貸住宅のトラブルの被害者の圧倒的に多くは借主・消費者であり、今後の審議のあり方として、民間賃貸住宅問題を審議する部会の委員の構成については貸主側に偏ることなく借主側・消費者側の委員を配置されるよう強く要望する。
現状認識に関し、「民間賃貸住宅が持家と比べ面積、バリアフリー化や耐震化が遅れ、計画的な修繕が行なわれていない」という認識をされ、「政策的な対応が求められる」と述べていることには全く同感だが、民間賃貸住宅を市場まかせにしたり、民間賃貸住宅の供給を専ら個人家主に依拠して、公的な住宅施策の関与が何らなかったことこそ最大の問題である。「情報の非対称の存在」、「原状回復や滞納等のルール」を明確にするだけでは、入居者が市場で良質な賃貸住宅を選択できるようにすることは困難であり、民間賃貸住宅のトラブルの解消には程遠いといえる。「住宅セーフティネットの観点から、公的主体の役割も重要である」と認識されるのであれば、そのことにこそ本審議会や部会において力点を置いた審議を今後望むものである。
2、民間賃貸住宅の紛争の未然防止
①民間賃貸住宅に関する情報について
民間賃貸住宅の物件の情報の入手に当たっては、仲介を行なう不動産業者による情報の開示が極めて重要である。過去にどのようなトラブルが起きていたか、建物管理状態、建物の建築年数、耐震性や遮音性等の情報について入居者に知らされない場合多く、情報を開示することを仲介業者に義務付けるべきである。また、契約書の内容について賃借人に不利益な特約についても賃貸借契約の締結の前に物件を選定する段階で情報を開示すべきである。
②民間賃貸住宅に関わる原状回復等のルールについて
建物管理について、管理会社が行なう管理業務の範囲について賃借人に分かるようにすることについては賛成である。建物修繕の必要性が生じたときに、貸主の修繕義務に関して明確にすることが重要である。
(1)原状回復のガイドラインの見直し
ガイドラインの見直しに関しては、修繕の内容は建物や設備の内容も千差万別であり、処理基準を明確にすることは困難であり、ガイドラインの見直しは不必要である。
(2)賃貸住宅標準契約書の見直し
入退時の立会いを契約書に義務付けることは賛成であり、入退時の物件状況確認チェックリストなどを作成することも義務付けることが必要である。契約書の特約で消費者である賃借人の利益を一方的に害する特約を排除できるように、消費者契約法に反する特約事例を契約書に明記すべきである。賃料や敷金以外の礼金・更新料などの一時金については、紛争の原因となっており、今後そのような不明確な金銭の受け取りをなくしていくことが必要であり、今後とも標準契約書に規定を置くべきではない。
(3)原状回復等のルールの普及
原状回復ガイドラインや標準契約書については、賃借人がより利用しやすいものとなるのであれば、大いに普及すべきである。契約手続きに不慣れな若年層に対しては分かりやすい原状回復のガイドラインを含む契約の手引きを国交省で作成し、賃貸借契約の締結の際に利用できるようにすべきである。
3、紛争の円滑な解決について
①第三者による紛争の解決について
消費生活センターの機能を強化し、紛争解決のための法的権限や専門家の配置など行なうことが重要である。裁判外紛争解決制度の活用を促進し、少額訴訟などインターネットや休日や夜間でも訴訟の受付ができる体制を整備するなど現行の訴訟制度を活用しやすくすることの方が有効である。また、民間の相談機関の紹介など情報の提供も重要である。
②原状回復等に関する保険・保証について
原状回復について保険や保証制度を導入することは反対である。保険制度は、結果として通常損耗や経年劣化についての貸主の修繕義務を免除することになり、賃借人に保険料負担させることは公平性に反する。保険会社の査定が厳しくなれば、賃借人と保険会社とのトラブルを増加させるだけであり、賃借人にはとっては何らのメリットもない。なお、高齢者の入居者の死亡に伴う残存物の保管・処分等に関しては、公的な保証制度を充実させることによって解決すべきである。
4、滞納・明渡しをめぐる紛争について
①家賃債務保証会社等の適正化について
(1)行き過ぎた督促行為に対する規制について
少子高齢化や人間関係の希薄化等によって連帯保証人を立てられない賃借人が多くなる中で、家賃債務保証会社による求償権の行使による行き過ぎた督促行為や追い出し行為の被害を防止させるために、貸金業法と同様に取立て行為を規制し、行政官庁の指導下のもとで登録制にして、悪質な業者の参入を防止し、不法行為を行なった業者の営業を禁止させ、厳罰を下すことができるよう法規制を行なうことには賛成である。また、賃借人が申し出た連帯保証人を賃貸人が拒否することを禁止すべきである。なお、管理会社に対して不動産部会では任意の登録制にすることが検討されているようだが、管理会社の追い出し行為は家賃債務保証会社と同様に法規制を伴った登録制にすべきある。登録しない管理会社を野放しにすることは許されない。
(2)弁済履歴情報の共有について
弁済滞納履歴の共有によるデーターベースづくりは反対である。賃借人の弁済情報履歴を一定の範囲に限定するとしても、悪質な滞納と良質な滞納の線引きはむずかしく、家賃滞納に至るケースは千差万別で、その判断を保証会社にまかせれば家賃を滞納しやすい社会的弱者の賃借人が入居を断られることは必然である。家賃を滞納したという理由で、入居差別を行なうことは賃借人の居住の自由や人権を侵す事になる。このようなデーターベースづくりは、直ちに中止すべきである。
②滞納が発生した場合の円滑な明渡しについて
滞納に至るケースは多様であり、賃借人の居住の権利かかわる契約の解除に関しては信頼関係を基に、滞納に至る事情など総合的に判断すべきあり、円滑な明渡しのマニュアルの作成には反対である。転居先の確保のために、公的な賃貸住宅を含めて、支払い可能な家賃の賃貸住宅への支援策を検討することは賛成である。特に、失業等により家賃を滞納し、明渡さざるを得なくなった者や住宅確保の特に配慮を要する住宅弱者に対して、公的な住宅セーフティネットで対応することには賛成であり、居住支援協議会の活用と同協議会に対する資金面を含めた支援が必要である。
③契約解除事由の予測可能性の向上方策の検討
滞納が発生した場合の契約解除に関しては、賃借人に居住の権利にかかわる問題であり、審議会で検討すべきテーマではない。このような問題認識こそ賃借人の居住の権利と居住の安定を軽んじていると言わざるを得ない。まして、定期借家制度は期間満了で確実に賃借人の明渡しを履行できるからといって、「明渡しのトラブル防止に資する面がある」とは、あまりにも貸主の立場を偏った認識であり、賃借人の居住の安定と継続を無視していると言わざるを得ない。定期借家制度については、ゼロゼロ物件やゲストハウスなど、初期費用も負担できない経済的に弱い立場の賃借人を対象にして普及されようとしている。契約期間も1年未満や6カ月など短期の契約が多く、住宅確保に配慮を要する人たちの居住の安定とは無縁の制度であり、当連合会はこの制度の廃止を強く求めるものである。同時に、定期借家制度がどのような活用をされているのかよく調査し検証することなく、普及促進をさらに進めていくことには反対である。社会的経済的弱者である賃借人の居住の安定の確保が図られるよう慎重に対応すべきである。
5、市場機能を通じた民間賃貸住宅ストックの質の向上
良質で質の高い賃貸住宅は、家賃が高額で選択できる賃借人は限られている。家賃負担能力に見合った賃貸物件を選択せざるを得ないのが現状である。質の高い民間賃貸住宅の供給を促進したり、既存住宅を質の高いものに改造するためには、家賃補助や融資、税制面などの支援措置を促進すべきである。これまでの持家中心の住宅政策から賃貸重視に転換すべきである。公営住宅の入居階層を拡大させるとともに、公営住宅の供給促進など公的な住宅セーフティネットの強化こそ今求められている。
6、その他
日本型社会化住宅の供給施策を具体化し、良質と安価な賃貸住宅を供給する必要がある。例えば、「借上げ公営住宅」、「民設公営管理の住宅」の供給施策で適正な家賃負担を設定するための標準家賃制度を設けるべきである。
民間賃貸住宅政策に関する意見募集について
全国借地借家人組合連合会
1、民間賃貸住宅をめぐる現状認識と社会資本整備審議会の課題
社会資本整備審議会住宅宅地分科会が「国民が安心して暮らすことができる民間賃貸住宅政策のあり方」を検討するよう諮問を受け、民間賃貸住宅部会で昨年10回にわたり調査審議を行ない、委員の意見をまとめた「最終とりまとめ」について当連合会としての意見を提出する。
同部会の構成についてかねてより疑問をもっていたが、委員の多くが貸主側・業界側の代表に偏っていることで(後半から消費者側の委員を追加された)、審議の内容の多くが賃貸人のリスクを軽減することが重要視され、賃借人の居住の安定や保護が全く軽視されるなど貸主側の論理に沿った審議が行なわれ、公正な審議が行なわれたのかどうか疑問を感じざるを得ない。民間賃貸住宅のトラブルの被害者の圧倒的に多くは借主・消費者であり、今後の審議のあり方として、民間賃貸住宅問題を審議する部会の委員の構成については貸主側に偏ることなく借主側・消費者側の委員を配置されるよう強く要望する。
現状認識に関し、「民間賃貸住宅が持家と比べ面積、バリアフリー化や耐震化が遅れ、計画的な修繕が行なわれていない」という認識をされ、「政策的な対応が求められる」と述べていることには全く同感だが、民間賃貸住宅を市場まかせにしたり、民間賃貸住宅の供給を専ら個人家主に依拠して、公的な住宅施策の関与が何らなかったことこそ最大の問題である。「情報の非対称の存在」、「原状回復や滞納等のルール」を明確にするだけでは、入居者が市場で良質な賃貸住宅を選択できるようにすることは困難であり、民間賃貸住宅のトラブルの解消には程遠いといえる。「住宅セーフティネットの観点から、公的主体の役割も重要である」と認識されるのであれば、そのことにこそ本審議会や部会において力点を置いた審議を今後望むものである。
2、民間賃貸住宅の紛争の未然防止
①民間賃貸住宅に関する情報について
民間賃貸住宅の物件の情報の入手に当たっては、仲介を行なう不動産業者による情報の開示が極めて重要である。過去にどのようなトラブルが起きていたか、建物管理状態、建物の建築年数、耐震性や遮音性等の情報について入居者に知らされない場合多く、情報を開示することを仲介業者に義務付けるべきである。また、契約書の内容について賃借人に不利益な特約についても賃貸借契約の締結の前に物件を選定する段階で情報を開示すべきである。
②民間賃貸住宅に関わる原状回復等のルールについて
建物管理について、管理会社が行なう管理業務の範囲について賃借人に分かるようにすることについては賛成である。建物修繕の必要性が生じたときに、貸主の修繕義務に関して明確にすることが重要である。
(1)原状回復のガイドラインの見直し
ガイドラインの見直しに関しては、修繕の内容は建物や設備の内容も千差万別であり、処理基準を明確にすることは困難であり、ガイドラインの見直しは不必要である。
(2)賃貸住宅標準契約書の見直し
入退時の立会いを契約書に義務付けることは賛成であり、入退時の物件状況確認チェックリストなどを作成することも義務付けることが必要である。契約書の特約で消費者である賃借人の利益を一方的に害する特約を排除できるように、消費者契約法に反する特約事例を契約書に明記すべきである。賃料や敷金以外の礼金・更新料などの一時金については、紛争の原因となっており、今後そのような不明確な金銭の受け取りをなくしていくことが必要であり、今後とも標準契約書に規定を置くべきではない。
(3)原状回復等のルールの普及
原状回復ガイドラインや標準契約書については、賃借人がより利用しやすいものとなるのであれば、大いに普及すべきである。契約手続きに不慣れな若年層に対しては分かりやすい原状回復のガイドラインを含む契約の手引きを国交省で作成し、賃貸借契約の締結の際に利用できるようにすべきである。
3、紛争の円滑な解決について
①第三者による紛争の解決について
消費生活センターの機能を強化し、紛争解決のための法的権限や専門家の配置など行なうことが重要である。裁判外紛争解決制度の活用を促進し、少額訴訟などインターネットや休日や夜間でも訴訟の受付ができる体制を整備するなど現行の訴訟制度を活用しやすくすることの方が有効である。また、民間の相談機関の紹介など情報の提供も重要である。
②原状回復等に関する保険・保証について
原状回復について保険や保証制度を導入することは反対である。保険制度は、結果として通常損耗や経年劣化についての貸主の修繕義務を免除することになり、賃借人に保険料負担させることは公平性に反する。保険会社の査定が厳しくなれば、賃借人と保険会社とのトラブルを増加させるだけであり、賃借人にはとっては何らのメリットもない。なお、高齢者の入居者の死亡に伴う残存物の保管・処分等に関しては、公的な保証制度を充実させることによって解決すべきである。
4、滞納・明渡しをめぐる紛争について
①家賃債務保証会社等の適正化について
(1)行き過ぎた督促行為に対する規制について
少子高齢化や人間関係の希薄化等によって連帯保証人を立てられない賃借人が多くなる中で、家賃債務保証会社による求償権の行使による行き過ぎた督促行為や追い出し行為の被害を防止させるために、貸金業法と同様に取立て行為を規制し、行政官庁の指導下のもとで登録制にして、悪質な業者の参入を防止し、不法行為を行なった業者の営業を禁止させ、厳罰を下すことができるよう法規制を行なうことには賛成である。また、賃借人が申し出た連帯保証人を賃貸人が拒否することを禁止すべきである。なお、管理会社に対して不動産部会では任意の登録制にすることが検討されているようだが、管理会社の追い出し行為は家賃債務保証会社と同様に法規制を伴った登録制にすべきある。登録しない管理会社を野放しにすることは許されない。
(2)弁済履歴情報の共有について
弁済滞納履歴の共有によるデーターベースづくりは反対である。賃借人の弁済情報履歴を一定の範囲に限定するとしても、悪質な滞納と良質な滞納の線引きはむずかしく、家賃滞納に至るケースは千差万別で、その判断を保証会社にまかせれば家賃を滞納しやすい社会的弱者の賃借人が入居を断られることは必然である。家賃を滞納したという理由で、入居差別を行なうことは賃借人の居住の自由や人権を侵す事になる。このようなデーターベースづくりは、直ちに中止すべきである。
②滞納が発生した場合の円滑な明渡しについて
滞納に至るケースは多様であり、賃借人の居住の権利かかわる契約の解除に関しては信頼関係を基に、滞納に至る事情など総合的に判断すべきあり、円滑な明渡しのマニュアルの作成には反対である。転居先の確保のために、公的な賃貸住宅を含めて、支払い可能な家賃の賃貸住宅への支援策を検討することは賛成である。特に、失業等により家賃を滞納し、明渡さざるを得なくなった者や住宅確保の特に配慮を要する住宅弱者に対して、公的な住宅セーフティネットで対応することには賛成であり、居住支援協議会の活用と同協議会に対する資金面を含めた支援が必要である。
③契約解除事由の予測可能性の向上方策の検討
滞納が発生した場合の契約解除に関しては、賃借人に居住の権利にかかわる問題であり、審議会で検討すべきテーマではない。このような問題認識こそ賃借人の居住の権利と居住の安定を軽んじていると言わざるを得ない。まして、定期借家制度は期間満了で確実に賃借人の明渡しを履行できるからといって、「明渡しのトラブル防止に資する面がある」とは、あまりにも貸主の立場を偏った認識であり、賃借人の居住の安定と継続を無視していると言わざるを得ない。定期借家制度については、ゼロゼロ物件やゲストハウスなど、初期費用も負担できない経済的に弱い立場の賃借人を対象にして普及されようとしている。契約期間も1年未満や6カ月など短期の契約が多く、住宅確保に配慮を要する人たちの居住の安定とは無縁の制度であり、当連合会はこの制度の廃止を強く求めるものである。同時に、定期借家制度がどのような活用をされているのかよく調査し検証することなく、普及促進をさらに進めていくことには反対である。社会的経済的弱者である賃借人の居住の安定の確保が図られるよう慎重に対応すべきである。
5、市場機能を通じた民間賃貸住宅ストックの質の向上
良質で質の高い賃貸住宅は、家賃が高額で選択できる賃借人は限られている。家賃負担能力に見合った賃貸物件を選択せざるを得ないのが現状である。質の高い民間賃貸住宅の供給を促進したり、既存住宅を質の高いものに改造するためには、家賃補助や融資、税制面などの支援措置を促進すべきである。これまでの持家中心の住宅政策から賃貸重視に転換すべきである。公営住宅の入居階層を拡大させるとともに、公営住宅の供給促進など公的な住宅セーフティネットの強化こそ今求められている。
6、その他
日本型社会化住宅の供給施策を具体化し、良質と安価な賃貸住宅を供給する必要がある。例えば、「借上げ公営住宅」、「民設公営管理の住宅」の供給施策で適正な家賃負担を設定するための標準家賃制度を設けるべきである。
民間賃貸住宅政策に関する意見募集について