賃貸住宅を探す際、家賃とともに選択の基準になるのが敷金や礼金などの初期費用。礼金は返還されないが、退去時に本来戻ってくるべき敷金を返さない契約になっていたり、別名目で徴収したりする物件も多く、分かりづらい。正しい知識を身に付け、納得いく契約をしたい。 (稲田雅文)
二月に岐阜県内のアパートから名古屋市に引っ越した二十代の男性は、敷金の返却で管理会社とトラブルになった。
月三万三千円の家賃に対し、敷金は三カ月分の九万九千円。三年住んだが「きれいに使っている」と思っていた。ところが、男性が結んだ契約では、退去時に返却する額をあらかじめ決める「敷引き」の特約があり、返却はゼロだった。
納得できず管理会社に「少しでも返却を」と要望。しかし契約を盾に「返せない」の一点張り。敷金は原状回復に充てたと説明されたため、明細を取り寄せた。壁紙の張り替えなどで十数万円かかったとする内容だったが、「なぜ張り替えが必要なのか」と不信感を募らせる。
敷金は、家賃の不払いや、明け渡しの際の部屋の修繕に備える目的で徴収される。関西では「保証金」と呼ぶことが多い。
問題になるのが、どこまで借り主が修繕費を負担するのかだ。敷金返却をめぐってトラブルが多発しているため、国土交通省が賃貸住宅の原状回復についてガイドラインをまとめている。インターネットで入手できる。
ガイドラインによれば、原状回復は、借りた当初の状態に戻すことではない。部屋や設備を大切にして暮らすことを前提に、普通に住めば発生する畳の変色、家具で付いたカーペットのへこみなどは「経年変化」や「通常損耗」で、修繕費は家賃に含まれると考える。
借り主が負担すべきは、キャスター付きいすで付いた床の傷や、手入れせずこびり付いた台所の油汚れなど、故意や過失などがあった場合だ。
注意したいのが特約。契約で原状回復を超える負担を借り主に課すこともできる。ガイドラインも、すでに結んだ契約は有効と考えられ、契約締結時に参考にしてほしいとする立場だ。ただ、高額の敷引き特約は、消費者契約法により無効とした判例もある。
◇
「近年は、敷金以外のさまざまな名目でお金を取る契約も増え、分かりにくくなっている」と指摘するのは、名古屋市消費生活センター情報アドバイザーの高橋智美さん。
実態を知るため、賃貸住宅の情報誌などを調べると、敷金・礼金以外に多くの表現があり、確かに分かりづらい。
愛知県内の物件で多かったのが、礼金の表記がなく、家賃の二、三カ月の保証金を示して、「解約引き100%」「償却100%」とする表現。載せた仲介業者に聞くと、「保証金の返却はないという意味で、(実質的に)礼金を取っているのと同じ」と説明する。
例えば、家賃二カ月分の保証金で、礼金なしでも「解約引き50%」と表示された物件だと、敷金一カ月、礼金一カ月と同じ意味になる。
敷金・礼金を低く抑える一方、家賃の一、二カ月程度の「修繕負担金」「内装工事負担金」「契約一時金」などの名目で、契約時に別途徴収する物件も多い。
全国展開する仲介業者は、敷金・礼金「ゼロ」と表示する物件で、家賃一カ月分前後の内装費を取る。高橋さんは「こうした契約でも、故意や過失による傷や汚れの修繕費は退去時に請求されるはず。払ったお金でどこまでカバーできるのか、契約時にきちんと聞くべきです」と語る。
東京都内では、こうした特約の表記は少ないが、清掃や鍵交換の具体的な金額を表記する物件が多かった。ガイドラインの考え方では、借り主負担ではないはずだ。
消費者問題に取り組む名古屋市の松沢良人弁護士は「消費者にとって分かりづらい表記が多い。比較しやすいよう統一して表示すべきではないか」と指摘する。
(中日新聞 3月3日)
二月に岐阜県内のアパートから名古屋市に引っ越した二十代の男性は、敷金の返却で管理会社とトラブルになった。
月三万三千円の家賃に対し、敷金は三カ月分の九万九千円。三年住んだが「きれいに使っている」と思っていた。ところが、男性が結んだ契約では、退去時に返却する額をあらかじめ決める「敷引き」の特約があり、返却はゼロだった。
納得できず管理会社に「少しでも返却を」と要望。しかし契約を盾に「返せない」の一点張り。敷金は原状回復に充てたと説明されたため、明細を取り寄せた。壁紙の張り替えなどで十数万円かかったとする内容だったが、「なぜ張り替えが必要なのか」と不信感を募らせる。
敷金は、家賃の不払いや、明け渡しの際の部屋の修繕に備える目的で徴収される。関西では「保証金」と呼ぶことが多い。
問題になるのが、どこまで借り主が修繕費を負担するのかだ。敷金返却をめぐってトラブルが多発しているため、国土交通省が賃貸住宅の原状回復についてガイドラインをまとめている。インターネットで入手できる。
ガイドラインによれば、原状回復は、借りた当初の状態に戻すことではない。部屋や設備を大切にして暮らすことを前提に、普通に住めば発生する畳の変色、家具で付いたカーペットのへこみなどは「経年変化」や「通常損耗」で、修繕費は家賃に含まれると考える。
借り主が負担すべきは、キャスター付きいすで付いた床の傷や、手入れせずこびり付いた台所の油汚れなど、故意や過失などがあった場合だ。
注意したいのが特約。契約で原状回復を超える負担を借り主に課すこともできる。ガイドラインも、すでに結んだ契約は有効と考えられ、契約締結時に参考にしてほしいとする立場だ。ただ、高額の敷引き特約は、消費者契約法により無効とした判例もある。
◇
「近年は、敷金以外のさまざまな名目でお金を取る契約も増え、分かりにくくなっている」と指摘するのは、名古屋市消費生活センター情報アドバイザーの高橋智美さん。
実態を知るため、賃貸住宅の情報誌などを調べると、敷金・礼金以外に多くの表現があり、確かに分かりづらい。
愛知県内の物件で多かったのが、礼金の表記がなく、家賃の二、三カ月の保証金を示して、「解約引き100%」「償却100%」とする表現。載せた仲介業者に聞くと、「保証金の返却はないという意味で、(実質的に)礼金を取っているのと同じ」と説明する。
例えば、家賃二カ月分の保証金で、礼金なしでも「解約引き50%」と表示された物件だと、敷金一カ月、礼金一カ月と同じ意味になる。
敷金・礼金を低く抑える一方、家賃の一、二カ月程度の「修繕負担金」「内装工事負担金」「契約一時金」などの名目で、契約時に別途徴収する物件も多い。
全国展開する仲介業者は、敷金・礼金「ゼロ」と表示する物件で、家賃一カ月分前後の内装費を取る。高橋さんは「こうした契約でも、故意や過失による傷や汚れの修繕費は退去時に請求されるはず。払ったお金でどこまでカバーできるのか、契約時にきちんと聞くべきです」と語る。
東京都内では、こうした特約の表記は少ないが、清掃や鍵交換の具体的な金額を表記する物件が多かった。ガイドラインの考え方では、借り主負担ではないはずだ。
消費者問題に取り組む名古屋市の松沢良人弁護士は「消費者にとって分かりづらい表記が多い。比較しやすいよう統一して表示すべきではないか」と指摘する。
(中日新聞 3月3日)