(大阪高等裁判所 昭和55年11月14日判決)
借地をめぐる紛争に際し、一定の猶予期間を設けて借地契約を終了させるといった解決方法が選択されるケースは少なからずあります。その解決に際して取られる手段の1つとして、期限付合意解約(10年後に契約を解約する、次回の更新時に契約を解約する等)があります。しかし、この期限付合意解約は、当事者の合意によって賃貸借期間の短縮を認めたり、法定更新の成立を廃除したりするものですから、その合意の有効性が強行法規(旧借地法11条、借地借家法9条)に反して無効とされる可能性があります。
この期限付合意解約の有効性については、先例となる最高裁判決(最判昭和44年5月20日)があり、①「合意に際し、借地人が真実解約の意思を有していると認めるに足りる合理的客観的事由があること」、②「他に合意を不当とする事情が認められないこと」の2要件を充足する場合には、期限付合意解約が有効とされています。しかし、この2要件を充足しているかどうかは評価の分かれる難しい判断でもあるため、紛争になりがちです。
その中で今回紹介する事例は、裁判官や調停員が関与した調停条項が無効とされたという点で希有な例として紹介させていただきます。
この事例は、調停条項において、賃貸期間を10年間とする、賃貸期間満了と同時に建物を収去して土地を明渡す旨が合意されていました。これを理由に、賃貸人が、賃借人に対して、「債務不履行解除」の主張のほか、この調停合意が「一時使用目的の賃貸借契約」の合意、及び「期限付合意解約」の合意であることも主張して、賃借人に対して建物収去土地明渡を求めたことから、この調停条項が期限付合意解約として有効かどうかが争点とされたものです。判決は、賃借人の調停成立の前後の行動などが詳細に事実認定され、賃借人が調停員に「10年」というのは法定の残存期間を確認したものであることを確認していた点などを挙げて、期限付合意解約の合意として認めることはできないとした上で、賃貸期間満了と同時に建物を収去して土地を明渡す旨の条項は、(旧)借地法11条により無効であると判示しました。
期限付合意解約に関連して、「即時解約・明渡(引渡)猶予」という形式での合意・和解もあり、むしろ裁判上の和解ではこちらが主流かと思います。この場合でも、強行法規との関係で、上記裁判昭和44年の2要件の充足は問題となり得ると思われます。但し、2要件のうち、①の要件が、裁判官の面前で確認されていたり、当事者双方に弁護士が入って合意を確認したりしていることが多いことから、その要件充足性が認定されやすいだけと考えられます。合意によって借地契約の解約事例を扱う場合に参考にして下さい。〈 弁護士 西田 穣 〉
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