入院や介護施設への入所の際の身元保証人や、死後の事務手続きなどを引き受ける民間サービスが増えている。身寄りのない高齢者
の増加でニーズが高まっているためだが、契約を巡るトラブルも後を絶たない。国や自治体が、事業者向けの指針や認証制度を作るな
ど対応に乗り出した。(小沼聖実)
身寄りない高齢者増で高まるニーズ 社団法人に依頼
「自分一人では、こういうサービスがないと何もしようがない。助かるよ」
茨城県内の高齢者向け住宅で暮らす男性(75)は話す。8年前から、一般社団法人「しんらいの会」(茨城県土浦市)を利用する。
きっかけは、心臓の手術を受ける時に病院から身元引受人と保証人を求められたことだ。独身で、両親や兄弟は亡くなった。あてが
なく、地域の情報紙で知った同会と契約し、保証人を頼んだ。同会の職員が病院に衣類を届け、医師の説明も一緒に聞いてくれた。
入会金や預託金として支払ったのは200万円。サービスごとに時間単位で利用料が引かれ、死後に精算される。男性と、契約に立ち
会った監督役の弁護士の元には3か月に1度、支援実績や費用の報告書が届く。
今の住まいに入居する時も同会が保証人となり、引っ越し作業には職員が加わった。月に1度の通院では車で送迎し、診察に同席す
る。夜間に体調を崩して救急搬送された際には、救急隊から連絡を受けた職員が病院に駆けつけた。墓や葬儀も決めており、同会が寺
とのやりとりや役所の手続きを進めてくれる手はずだ。
男性には、県内に親族がいる。だが、「年に1回会うくらいならいいけど、こまごまとしたことは頼めないですよ」。
契約内容や料金体系など 運営適正化へ国が指針 監督省庁なし
単身高齢者は増えている。国の推計で、65歳以上の単身世帯は2020年に738万世帯だが、50年には1・5倍の1084万世帯になる。家族
が果たしてきた役割を担う事業者のニーズは高まっている。
総務省の昨年の実態調査では、事業者は全国に400超あった。回答した204事業者の過半数は開始から5年以下で、近年、急増したこ
とがうかがえる。
一方、事業を規制する法律や監督する省庁はなく、契約を巡るトラブルも増えている。国民生活センターによると、相談件数は23年
度に355件で、14年度の3・3倍に上る。「不要なサービスが契約に含まれている」などの相談のほか、最近では「契約を検討している
が、この事業者は信用できるか」といった問い合わせが増えているという。
しんらいの会の青木規幸理事長は「事業者側が提供できるサービスを明確にせず、利用者自身もどんなサービスを必要とするか分か
らないまま契約するから、後々トラブルになる」と指摘する。
法整備の指摘も
同じ「身元保証」でも、入院期間中の身の回りのことも含め丸ごと請け負うのか、緊急対応に限るのかなど、事業者により内容は異
なる。解約時の返金の有無といった料金体系も様々で、比較検討が難しい。
国は6月、事業者向けに適正な運営の指針を策定し、利用する際のチェックポイントもまとめた。ただ、罰則はなく、弁護士や司法
書士の団体からは、実効性を疑問視する声や「法整備の検討が必要」との指摘が出ている。事業者の質を高めるため、全国組織の設立
を目指す動きもある。
日本総研の岡元真希子研究員は「利用者が良い事業者を自分で選べるように、将来的には、事業者が第三者評価を受け、標準化され
た情報が公開される仕組みが理想だ」と語る。
事業者に「お墨付き」で安心感
事業者に「お墨付き」を与えることで、安心して利用できる環境作りを目指す動きもある。静岡市は今年1月、全国の自治体で初め
て、優良な事業者の認証制度を創設した。書面と訪問で審査し、「第三者の立ち会いのもとで契約」など30項目の基準のすべてをクリ
アしていれば、市のホームページで紹介される。
認証第1号は、市内で高齢者施設を運営する社会福祉法人「まごころ」。22年4月に事業を始め、80歳代以上の人がケアマネジャーな
どから紹介されて利用するケースが中心だった。認証後は、比較的元気な60~70歳代からの問い合わせが増えたという。事業部長の松
村潤さん(57)は「守るべき基準があることで利用者の安心はもちろん、事業者にとっても取り組みへの自信につながる」と話す。
(2024年12月10日付の読売新聞朝刊に掲載された記事です)
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