東京多摩借地借家人組合

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民間賃貸住宅の現状と住まいのセーフティネットをめぐる諸問題

2022年04月27日 | 国と東京都の住宅政策
1、 東京の民間借家の現状
① 「仮住まい」と位置付けられ、劣悪住環境の民間借家
・我が国の住宅政策は、賃貸住宅は持ち家を取得するまでに一時的な「仮住まい」とみなされ、それを改善する施策は、ほとんど講じられなかった。(平山洋介神戸大学院教授「仮住まいと戦後日本」)
・家賃は高く、劣悪狭小、日照通風が乏しく、老朽化している借家が多い。
 住宅土地統計調査(2018年)によると、1住宅当たりの平均床面積は持ち家93.3㎡に対し、借家は40・8㎡と43%しかない。借家はウサギ小屋から脱していない。
② 賃貸トラブルが日常化している
・オナーチェンジに伴う、家賃の増額・明渡し請求、騒音等に伴う近隣トラブル
 ペットに伴うトラブル等
・建築して40年以上経過した建物を借りている場合には、耐震性がないことを理由に立ち退きを求められる。耐震性・老朽化を理由とした明渡し請求の多くは、借家人を立ち退かせるための口実にされている。(耐震性のみでは正当事由には当たらない)
・借家人や借地人が居住している土地や建物を地主から安く買い取り、追い出し目的の地上げ屋が東京、埼玉、神奈川で横行している。安い立退料で追い出される借家人・借地人も多い。
・退去後には莫大な原状回復費用を請求される。1LDKの賃貸マンションに住んでいた女性が結婚を契機に退去後に管理会社から265万円請求された例も。
③ 定期借家契約による被害も
 2000年3月から期間が満了したら、無条件で追い出される定期借家契約が借地借家法の一部改正で認められ、シェアハウスなどで利用されている。「再契約可」との条件で定期借家契約を結んでも、再契約ができず追い出される被害も生まれている。
定期借家契約の意味も分からず、住まいが不安定な人ほど、定期借家契約を結ばされるケースが多い。
④ 家賃債務保証会社と契約しないと借家を借りられない
 国土交通省が管理会社に行った調査で、家賃債務保証業者を利用するケースが約8割(18年度調査では6割)と急上昇し、保証会社と契約しないと借家を借りられなくなっている。連帯保証人を立てていても保証会社と契約させられるダブル保証が増えている。保証会社の契約にも連帯保証人が署名・捺印させられている。保証会社の利用が増える一方で、賃借人の認知度は低く、「あまり知らない・全く知らない」が5割強を占めるなど、賃借人は何も分からずに保証契約を結ばされている。保証契約が2年後に更新されるに当たり、「家賃の50%の保証委託更新料を請求された」と驚いて相談するケースもある。
⑤ 高齢者や生活保護受給者への入居差別
国交省が調べた賃貸人の意識調査では、高齢者に対し約8割、障害者に対し約7割、外国人に対し約7割の拒否感がある。入居制限する理由として、「家賃の支払いに対する不安」24%、」「他の入居者・近隣住民との協調性への不安」19・3%、「居室内での死亡事故等に対する不安」18・9%と高い。
国交省と法務省は単身高齢者が賃貸住宅内で亡くなった場合の契約解除の委任契約や残置物処理の委任契約を行うためのモデル契約条項を昨年発表した。こうした契約をすることで賃貸人が安心して高齢者に貸すことにつながるのか。
⑥ 契約時の初期費用に様々なオプション契約が押し付けられる
 賃貸契約の初期費用として、敷金・礼金・仲介手数料(法令上賃貸人・賃借人が月額賃料の半額づつ負担だが、実際は賃借人が全額負担)、火災保険料(借家人賠償保険)、保証会社の保証委託料(月額家賃の半額程度もしくは月額保証委託料の契約もある)、当月家賃と翌月賃料で家賃の5か月分以上が必要に。
 その他、様々なオプション契約、室内清掃費用・クリーニング費用(敷金なしの物件に多い)、鍵交換費用、消臭・除菌費用、24時間サポート料、入居安心パック等とわけの分からない契約が多い。
⑦ 賃借人に不利益な賃貸借契約書が横行
宅地建物取引業者は賃貸住宅の管理を任されていることが多く、賃貸人に有利で賃
借人に不利益な契約書を押し付ける傾向がある。不利な契約でも拒否すると物件が借
りられない。契約更新時には家賃の1か月分の更新料を支払う特約多く、「合意更新・
法定更新にかかわらず2年毎に新家賃の1か月分の更新料として支払う」、「退室時
に、ルームクリーニング・エアコンクリーニング他原状回復費用は借主負担とする」、
「契約後1年以内に賃借人が解約する場合は家賃の1か月分の違約金を支払う」等。
 東京都住宅政策本部は、民法改正「成年年齢の引き下げ」に伴う不動産取引に注意
を呼び掛けているが、「宅建業者による説明を聞き、十分に理解、納得した上で契約を
結びましょう」と言っても、法律知識のない賃借人には対等に契約することは困難で
ある。

2、住宅セーフティネットは機能しているのか
 ①セーフティネット住宅は低額所得者等が入居できる専用住宅が少ない
 3月10日現在、インターネット情報提供システムに掲載中の東京で登録されているセーフティネット住宅は4099戸、その内家賃低廉化補助や改修費補助が受けられる専用住宅の空き室は52棟、355戸と少なく、0・8%しかない。
 登録住宅の多くは大東建託の物件で、要配慮者を拒まない住宅として登録されているが、全て入居審査が必要とされ、専用住宅の登録はゼロ。高家賃物件が多く、要配慮者が入居困難である。入居条件として保証会社に加入し、保証委託料契約時2万2千円、月額保証委託料として家賃の2.2%叉は5・5%必要。2・2%のプランだと月額2730円を支払わされる。契約時のクリーニング費として4万円が必要とされている。

②家賃債務保証料の補助制度、家賃債務保険制度が利用されていない
 住宅確保要配慮者専用住宅に低額所得者が入居する場合に、入居時の家賃債務保証料を低廉化した登録事業者に補助金が交付され、要配慮者の家賃滞納リスクを軽減する「家賃債務保証保険」制度も設けられている。(住宅セーフティネット法第20条、住宅金融支援機構の行う家賃債務保証保険契約に係る保険)
 2020年12月に全借連が行った国交省との懇談で、家賃債務保険の対象とされた事例は11件(制度開始時の平成29年10月~令和2年11月末現在)、保証料の低廉化補助を受けた件数23件(令和1年度)との報告があり、要配慮者の入居円滑化のために設けられた制度がほとんど利用されていない。
③家賃債務保証業者に対し早期の法規制を
 家賃債務保証業を登録制にして5年目を迎えるが、保証会社は数百社あると言われているが、登録している事業者は2021年11月30日現在で83社と全く増えていない。任意の登録制のため、法規制もなく事実上野放し状態で、不動産会社が保証業者の代理店になるため、賃借人が保証会社を選ぶことができない。保証会社の家賃等の不当な取り立て行為を禁止する法律はなく、早期の法規制が必要である。
 保証会社による審査は、それぞれの会社の裁量で行われており、家賃滞納リスクに該当する入居者は審査で落とされる。審査の基準もなく、入居希望者はなんで審査に落とされたのか理由も分からない。銀行の通帳で預金があるかどうかも審査の対象にされている。家賃滞納履歴があるとブラックリストに載る恐れがあり、退室後の正当な根拠もない原状回復請求を拒否できないという賃借人もいる。
 全借連では、保証会社の被害を受けた組合員がツイッターで「家賃保証会社問題対策班」を立ち上げ被害者からの情報を収集し、数百の被害情報が連日寄せられている。
保証会社被害をなくすために、当面国交省に対して「保証会社の契約に保証人を求めない。保証会社の督促方法に法規制する。借主の承諾なく原状回復費用を保証会社に立替えさせない」以上の実施を求める。
④賃貸借契約のデジタル化に反対、デジタル被害の対策の強化を
 住生活基本計画に「持家・借家を含め、住宅に関する情報の収集から物件説明、交渉、契約に至るまでの契約・取引プロセスのDX化の推進」が盛り込まれた。賃借人は情報力・交渉力が圧倒的に弱く、法律知識のないままに不利益な契約をさせられているのが実態であり、デジタル化は賃借人をさらに被害を拡大させる恐れがある。不動産業者の店に行かないままインターネットで契約をした賃借人から被害の相談も寄せられいる。デジタル化の利便性のみが強調されているが、デジタル契約の落とし穴など注意喚起が必要である。
 ⑤本当の住宅セーフティネット制度にするために
  要配慮者の滞納家賃、孤独死などのリスクを賃貸人にのみ押し付けるのではなく、
入居選別をせず誰もが入居できる住宅セーフティネット制度にする。公的保証人制度を創設し、居住支援法人と連携した「居住支援付き住宅」を増やす。孤独死対策の保険や見守りサービスなどの補助制度を充実させる。家賃補助制度をセーフティネット法に明記し、国の財政的支援を抜本的に強化する。

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