2月2日新国立劇場小劇場で、オスカー・ワイルド作「理想の夫」を見た(新国立劇場演劇研修所修了公演、演出:宮田慶子)。
19世紀末期、ロンドンの社交界。外務次官ロバート・チルターン准男爵(須藤瑞己)は、ウィーン社交界の花形・チェヴリー夫人(末永佳央理)から、
過去の過ちを種に、不正に加担するよう迫られる。妻のチルターン卿夫人(笹野美由紀)は、彼を清廉潔白な理想の夫と信じ、崇拝していた。彼女に打ち明ける
ことができず苦悩するロバートは、親友のゴーリング子爵(神野幹暁)に相談するが・・・(チラシより)。
1895年ロンドンで初演された作品だが、日本ではこれまで上演されたことはない由。
劇中、男性も女性も「チルターン男爵」「チェヴリー夫人」などといちいち苗字で呼び合うが、あまりにも長いので、ここでは下の名前で書くことにします。
何年も前に盗まれたダイヤのブローチ、人違いされる夜の女性客・・物語は起伏に富んで、実に面白い。
「病的ね」と言われて「ありがとう」と喜ぶ女性。「真珠なんて大嫌い。真珠をつけるととっても善良そうに見え、頭が良さそうに見えるんですもの」と言う女性。
ああ、世紀末ロンドン!こっちの頭がクラクラしてくる。
当時の社会風俗、上流社会の習慣、文化が興味深い。
例えば、邪悪なローラ(チェヴリー夫人)の悪巧みはアーサー(ゴーリング子爵)によって失敗に終わるが、それでも転んでもただは起きぬとばかりに、彼女は
ガートルード(チルターン夫人)がアーサー宛てに書いた手紙を盗む。あわてて奪い返そうとしたアーサーは、部屋に召使いが入って来たために奪い返すことが
できなくなり、そのまま彼女を帰してしまう。
召使いの手前、貴族同士の醜い争いは見せられないらしい。まして相手は女性だし。すぐに町中の噂になってしまうのだろう。
ストーリーは非常に面白いが、主役の二人の美しい夫婦愛が、何だかそらぞらしい。
アーサーのメイベル(チルターン卿の妹)への気持ちも、どこまで本気なのかよくわからない。
作者は男色の罪で牢に入れられた人。彼にとって夫婦愛も男女の愛も、所詮、他人事なのだろう。
だから、この作品で描かれる人々の関係も、よくできていて面白いが、反面、まるで絵空事のように感じられる。
「夫」とか「妻」とかが記号のようだ。
とは言え役者にとっては、演じ甲斐のあるおいしい役が多い。ローラ、ロバート、ガートルード、アーサーなど。
役者たちはみな、膨大なセリフを、よく消化して頑張ったとねぎらいたい。
今回の公演は衣裳(西原梨恵)にお金をかけている。ローラなど場ごとに3着も着替え、いずれも赤と黒が混じっていて不穏な感じがする。いかにも邪悪な彼女らしい。
ピンクと白で可愛らしいメイベルなど、他の人々の衣装もそれぞれの役柄に合っていて楽しく、目の保養になった。
宮田慶子という人は、筆者が最も信頼する演出家だ。この人の演出で、裏切られたことは一度もない。
他にも好きな演出家は何人かいるが、時々疑問に思うことがあったり、使われた音楽に失望したりすることがあるので、油断できない。
今回のプログラムに彼女が載せた文章も、的確で的を射ていて素晴らしい。
この作品は、1999年に映画化され、ケイト・ブランシェット、ルパート・エヴェレットらが出演しているとのこと。ぜひ見たい。
ワイルドがこういう娯楽性の強い作品も書いているとは知らなかった。
ワイルドと言えば、筆者は高校の頃、「幸福の王子」「わがままな巨人」などの入った短編集を愛読していた。
どれもこれも、愛がテーマで、独特の耽美と悲しみに満ちていた。
その後、「サロメ」を芝居やオペラで何度も見てきたし、「ドリアン・グレイの肖像」の舞台化も見たことがあるが、まだ知らない作品がいくつかあるので、
今後の出会いが楽しみだ。
19世紀末期、ロンドンの社交界。外務次官ロバート・チルターン准男爵(須藤瑞己)は、ウィーン社交界の花形・チェヴリー夫人(末永佳央理)から、
過去の過ちを種に、不正に加担するよう迫られる。妻のチルターン卿夫人(笹野美由紀)は、彼を清廉潔白な理想の夫と信じ、崇拝していた。彼女に打ち明ける
ことができず苦悩するロバートは、親友のゴーリング子爵(神野幹暁)に相談するが・・・(チラシより)。
1895年ロンドンで初演された作品だが、日本ではこれまで上演されたことはない由。
劇中、男性も女性も「チルターン男爵」「チェヴリー夫人」などといちいち苗字で呼び合うが、あまりにも長いので、ここでは下の名前で書くことにします。
何年も前に盗まれたダイヤのブローチ、人違いされる夜の女性客・・物語は起伏に富んで、実に面白い。
「病的ね」と言われて「ありがとう」と喜ぶ女性。「真珠なんて大嫌い。真珠をつけるととっても善良そうに見え、頭が良さそうに見えるんですもの」と言う女性。
ああ、世紀末ロンドン!こっちの頭がクラクラしてくる。
当時の社会風俗、上流社会の習慣、文化が興味深い。
例えば、邪悪なローラ(チェヴリー夫人)の悪巧みはアーサー(ゴーリング子爵)によって失敗に終わるが、それでも転んでもただは起きぬとばかりに、彼女は
ガートルード(チルターン夫人)がアーサー宛てに書いた手紙を盗む。あわてて奪い返そうとしたアーサーは、部屋に召使いが入って来たために奪い返すことが
できなくなり、そのまま彼女を帰してしまう。
召使いの手前、貴族同士の醜い争いは見せられないらしい。まして相手は女性だし。すぐに町中の噂になってしまうのだろう。
ストーリーは非常に面白いが、主役の二人の美しい夫婦愛が、何だかそらぞらしい。
アーサーのメイベル(チルターン卿の妹)への気持ちも、どこまで本気なのかよくわからない。
作者は男色の罪で牢に入れられた人。彼にとって夫婦愛も男女の愛も、所詮、他人事なのだろう。
だから、この作品で描かれる人々の関係も、よくできていて面白いが、反面、まるで絵空事のように感じられる。
「夫」とか「妻」とかが記号のようだ。
とは言え役者にとっては、演じ甲斐のあるおいしい役が多い。ローラ、ロバート、ガートルード、アーサーなど。
役者たちはみな、膨大なセリフを、よく消化して頑張ったとねぎらいたい。
今回の公演は衣裳(西原梨恵)にお金をかけている。ローラなど場ごとに3着も着替え、いずれも赤と黒が混じっていて不穏な感じがする。いかにも邪悪な彼女らしい。
ピンクと白で可愛らしいメイベルなど、他の人々の衣装もそれぞれの役柄に合っていて楽しく、目の保養になった。
宮田慶子という人は、筆者が最も信頼する演出家だ。この人の演出で、裏切られたことは一度もない。
他にも好きな演出家は何人かいるが、時々疑問に思うことがあったり、使われた音楽に失望したりすることがあるので、油断できない。
今回のプログラムに彼女が載せた文章も、的確で的を射ていて素晴らしい。
この作品は、1999年に映画化され、ケイト・ブランシェット、ルパート・エヴェレットらが出演しているとのこと。ぜひ見たい。
ワイルドがこういう娯楽性の強い作品も書いているとは知らなかった。
ワイルドと言えば、筆者は高校の頃、「幸福の王子」「わがままな巨人」などの入った短編集を愛読していた。
どれもこれも、愛がテーマで、独特の耽美と悲しみに満ちていた。
その後、「サロメ」を芝居やオペラで何度も見てきたし、「ドリアン・グレイの肖像」の舞台化も見たことがあるが、まだ知らない作品がいくつかあるので、
今後の出会いが楽しみだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます