たまたま続けて第2次大戦中のドイツを舞台にした本を読むことになった。主人公の17歳の少年は、戦地で左手を失い村に帰ってきた郵便配達人。村々に郵便を届ける道すがら目にする風景、届け先の人々との会話、出来事が流れるように綴られてゆく。ドイツ敗戦による戦争終結まで10ヵ月間の日々。村人が待つ郵便を手に森を抜け、丘を越え、咲く野草と語らい、流れる小川のせせらぎ、そよ風の心地よさ、戦争がなければ何と幸せなことか。だが戦況は悪化の一途、近親者の戦死通知「黒い手紙」が増えていく。ヒトラーを信奉しナチス親衛隊員にまでなった孫の死を信じられず、郵便を待ち続ける祖母。また黒い手紙を届けた先で、死を知らない息子から父親宛の手紙を渡されようとする。戦地からの元気な便りの代わりにそうした手紙を届け続け、季節が巡る。寒い冬が明け、春の時季に合わせたかのようにヒトラーの死、そして戦争が終わった。主人公にもようやく、平穏な生活と幸せを手にするときがきた。胸を躍らせ、スズラン咲くころに出会った娘との再会に向かう。その矢先の予想もしない悲劇。戦争に浸食された狂気が最後にまた訪れる。この本は以前読んだ『戦後が若かった頃に思いを馳せよう』(内田雅敏氏著)に<絶対お薦め>と紹介されていた。<静かな村の自然の描写がすごく良い>とも。その風景の中に誘い込まれながら、あらためて戦争について考えさせられた好書である。
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