今年はグスタフ・レオンハルト(Gustav Leonhardt)没後十年になった。筆者が好きでチェンバロ音楽を最初に聴いた鍵盤奏者でもあり指揮者でもある、バロックファンにもお馴染みの演奏者である。鍵盤奏者、指揮者。
1928年5月30日生まれ。オランダ出身。バーゼル・スコラカントルムでE・ミューラーに師事。ウィーン音楽アカデミーでスワロフスキーに指揮を学ぶ。卒業後教鞭をとり、コープマンなどを育てている。55年レオンハルト合奏団を組織。古楽演奏の先駆者として、アーノンクールやクイケン兄弟とともに、バッハのカンタータ全集の録音をはじめとする革新的な活躍を続ける。その功績としてオランダ政府からベアトリクス女王オラニェ名誉メダル、ベルギー政府からベルギー王冠賞などを授けられる。2012年1月16日、アムステルダムの自宅にて83歳で死去。すでに十二年の歳月が流れすぐに命日でもある・・・
筆者が20歳代初め聴いたバロック音楽の魅力とは、何であろうか?何故バロック音楽に興味を持ったのであろうか等考えたが、どうやらそれはこの(バッハ)時代の演奏によるものかもしれない、現在で言われる曲の装飾音にもよるのであろう。
バッハ(1685-1750)の「インヴェンションとシンフォニア」は調性順に演奏するのが慣例となっていますが、インベンションとは「創意・工夫」のことを指し、その後もヴィヴァルディの協奏曲集作品8には、『和声と創意の試み』という名称がつけられている。 このようにインベンションとは、バッハが『インベンションとシンフォニア』への序文の中でも触れたように、原義を離れて、探究・発見されるべき曲想、といったほどの意味で使われていると言われている。
またバッハは、1723年に完成した15のインヴェンションと、15のシンフォニアの草稿の表紙に次のような文章を載せています。
Auffrichtige AnleitungAufrichtig 正直な、率直な、誠実なAnleitung 手引き、指導、指示、使用説明書、マニュアルクラヴィーアの愛好者、特に学習熱心な者が、J.S.バッハは「クラヴィーアの愛好者、とくにその学習希望者に、(1)二つの声部をきれいに弾きこなすだけでなく、更に上達したならば、(2)三つのオブリガート声部をも正しく、かつ、手際よく処理し、あわせて同時にインヴェンツィオをたんに得るだけでなく、それをたくみに展開し、そしてとりわけカンタービレの奏法をしっかりと身につけ、しかもそのかたわら作曲への強い関心をも養うための明確な方法を教示するところの、正しい手引き。アンハルト=ケーテン侯宮廷楽長ヨハン・ゼバスティアン・バッハ これを完成す。1723年。」
と表題にしている、バッハは完成した曲集の扉に自らこのようにしたためた。《インヴェンション》と《シンフォニア》は、長男フリーデマンのレッスン用の小品を集めて改訂したものであり、その成り立ちから既に教程としての性質を持っている。しかし、ここに書かれていることの真意はいったいなんだろうか?
上記楽譜はインヴェンションの楽譜でありこの下に現在に仕上げた楽譜でもあるが、学生時代には教えて頂いた事のない記号が明記されている!
例えばJ.S. Bach: Inventions and Sinfonias, BWV.772~786, BWV.787~801のnventionsの楽譜をのぞいてみよう。上記に示したように装飾音が使われた楽譜であり、楽譜を見やすくするためにプラルトリラーとモルデント記号を入れて仕上げた楽譜でもある。
筆者がバロック時代の音楽に興味を抱き未だ聴き続けるには、この時代特有の装飾音であろう、初めて聴くこの音色は適当に付けられた装飾音だと思ったが、それにはバロック時代特有のルールがあったのです。
以下の様に解説しているのです「装飾音や記号をつかう主な理由は、飾りの音が入ることで演奏やそのフレーズ自体をよりきらびやかにするためです。 装飾音のことを、英語では「Grace Note(グレースノート)」と呼び、Graceには「飾る」という意味以外にも「優美」や「優雅」という意味もあることからもその音が伺えます。 ただ、その細かいニュアンスを、音符で忠実に書き込んでしまうと楽譜がとても見にくくなってしまいます。 そのため、音符や記号を使って五線の中や周りに表記します。 装飾音がついている大きな音符のことを親音符(親音)と呼びます」
より細かい音のニュアンスを具体的に表すために使われる音符や記号です。種類が多岐に渡り、古い時代では作者によって多様な解釈がありました。
プラルトリラーとモルデント
音符の上のギザギザ波打った記号がプラルトリラー(Pralltriller)です。
この記号がつけられた音符は元の音、2度上(長2度もしくは短2度)の音、元の音の順に演奏します。
このようにプラルトリラーに#やb、ナチュラルなどの変化記号がつく場合があります。
その場合は元の音ではなく、プラルトリラーによって付加される音 = 2度上の音を変化記号に則って演奏します。
モルデント(Mordent)はプラルトリラー記号に縦線を加えた記号です。
プラルトリラーが2度上の音と元の音を行き来するのに対し、モルデントは2度下の音とを行き来します。
トリル(trill)
「ド」と、その一つ上の音「レ」をすばやく交互に演奏します。
「ドレドレ」と弾くか「レドレド」と弾くかは、その曲が作られた年代や作曲者または演奏者の表現によって変わりますが、トリルの終わりはどちらも「ド」になります。
以上の様な記号を感じバッハの演奏を聴けばまた一歩バッハに近づく様な気がするは筆者だけであろうか・・・
また、バッハは音楽家を育てるのに、両手を使った鍵盤音楽の演奏技術を身に付けさせることから始めた。手の運動と結びつけることで、より自然な音楽性を習得するためである。ここで用いられるのはしかし、バロック時代特有の通奏低音、すなわち低音に対して適切な和音を右手で補充するという書法ではない。すべての声部が掛け替えのない「オブリガート」パートであり、それぞれを「カンタービレ」に演奏すべく書かれている。そして独立した各声部は、和声の中でひとつに溶け合う。厳格対位法とカンタービレ、旋律と和声。一見すると簡明な2声および3声の作品群は、実は「多様なものの統一」という16-17世紀の大きな美学的命題を負っているのだ。
《インヴェンション》と《シンフォニア》はその範例として書かれており、バッハの持てる鍵盤音楽のきわめて多様な様式を見ることができる。いってみればバッハの音楽世界の縮図である様に感じたのである。
装飾音は良く見ると楽譜には明確に示してもあり、バロック時代の雰囲気を奏でる魅力ある記号だったのかもしれない。その様な事を思い好きなレオンハルトのインベンションを改めて楽しむ事もオツな気分でもある。
J.S.バッハのインヴェンションとシンフォニア Inventionen und Sinfonien(BWV 772-801)は、クラヴィーアのための曲集です。「インヴェンション」は二声部、「シンフォニア」は三声部で作られているので、2声のインヴェンションと3声のシンフォニアと表記されることもあります。
J.S.Bach:インヴェンションとシンフォニア(Inventions and Sinfonias)
BWV.772~786, BWV.787~801
1.インヴェンション第1番ハ長調 BWV 772
2.インヴェンション第2番ハ短調 BWV 773
3.インヴェンション第3番ニ長調 BWV 774
4.インヴェンション第4番ニ短調 BWV 775
5.インヴェンション第5番変ホ長調 BWV 776
2.インヴェンション第2番ハ短調 BWV 773
3.インヴェンション第3番ニ長調 BWV 774
4.インヴェンション第4番ニ短調 BWV 775
5.インヴェンション第5番変ホ長調 BWV 776
6.インヴェンション第6番ホ長調 BWV 777
7.インヴェンション第7番ホ短調 BWV 778
8.インヴェンション第8番ヘ長調 BWV 779
9.インヴェンション第9番ヘ短調 BWV 780
10.インヴェンション第10番ト長調 BWV 781
11.インヴェンション第11番ト短調 BWV 782
12.インヴェンション第12番イ長調 BWV 783
13.インヴェンション第13番イ短調 BWV 784
14.インヴェンション第14番変ロ長調 BWV 785
7.インヴェンション第7番ホ短調 BWV 778
8.インヴェンション第8番ヘ長調 BWV 779
9.インヴェンション第9番ヘ短調 BWV 780
10.インヴェンション第10番ト長調 BWV 781
11.インヴェンション第11番ト短調 BWV 782
12.インヴェンション第12番イ長調 BWV 783
13.インヴェンション第13番イ短調 BWV 784
14.インヴェンション第14番変ロ長調 BWV 785
15.インヴェンション第15番ロ短調 BWV 786
16.シンフォニア第1番ハ長調 BWV 787
17.シンフォニア第2番ハ短調 BWV 788
18.シンフォニア第3番ニ長調 BWV 789
19.シンフォニア第4番ニ短調 BWV 790
20.シンフォニア第5番変ホ長調 BWV 791
21.シンフォニア第6番ホ長調 BWV 792
22.シンフォニア第7番ホ短調 BWV 793
23.シンフォニア第8番ヘ長調 BWV 794
24.シンフォニア第9番ヘ短調 BWV 795
25.シンフォニア第10番ト長調 BWV 796
26.シンフォニア第11番ト短調 BWV 797
17.シンフォニア第2番ハ短調 BWV 788
18.シンフォニア第3番ニ長調 BWV 789
19.シンフォニア第4番ニ短調 BWV 790
20.シンフォニア第5番変ホ長調 BWV 791
21.シンフォニア第6番ホ長調 BWV 792
22.シンフォニア第7番ホ短調 BWV 793
23.シンフォニア第8番ヘ長調 BWV 794
24.シンフォニア第9番ヘ短調 BWV 795
25.シンフォニア第10番ト長調 BWV 796
26.シンフォニア第11番ト短調 BWV 797
27.シンフォニア第12番イ長調 BWV 798
28.シンフォニア第13番イ短調 BWV 799
29.シンフォニア第14番変ロ長調 BWV 800
30.シンフォニア第15番ロ短調 BWV 801
28.シンフォニア第13番イ短調 BWV 799
29.シンフォニア第14番変ロ長調 BWV 800
30.シンフォニア第15番ロ短調 BWV 801
演奏:グスタフ・レオンハルト(Gustav Leonhardt)1974年
レオンハルトはひとつひとつの短い曲に豊かなアーティキュレーションと控えめだが自在なフレージングで個性を与え、全体的にも精彩と変化に富んだ曲集に仕上げている。また良く聴いているとレジスターの使い分けも多彩で、チェンバロの機能と音色の魅力を巧みに引き出しているところにも斬新さがある。
鍵盤楽器の学習者にとってバッハのインヴェンションとシンフォニアは避けて通れない、言わば必須の練習曲だが、レオンハルトの演奏はそうした教則本をイメージさせるような陳腐さや退屈さから一切解放された、音楽としての価値を改めて問い直し、最高の教材は同時に最高の芸術作品でなければならないというバッハ自身の哲学を実践した演奏と言えるだろう。
特にシンフォニアになると各声部を注意深く感知させるだけでなく、装飾音の扱いにもさまざまな工夫が聴かれるし、時には大胆とも思える拍内でのリズムのずらしやハーモニーを崩して弾く方法を試みて、チェンバロ特有の表現力の可能性を追究すると共に、この曲集の持つ音楽的な高みを明らかにしている。
先日ジャンパーケーブルを製作し現在もそのまま視聴するが、F500の音は素直で聴きやすい音がする。正月早々金属磨き(ピカール)でスピーカーケーブルおよび取り付け器具回り等、各取り付け金具は綿棒にて念入りに磨いたが、最初は黒い汚れが付着し2〜3回と続け黒い汚れが綿棒に付かなくなった後、再び接続したが、音質はクリヤーな感じと相なった、これこそお金をかけないでのグレートアップとしてはお勧めでもある、年一度程はピカールでの清掃が効果的でもある様です。
装飾音の事を理解し現在での演奏は一般的にピアノを用いた演奏をスタンダード徒するが、チェンバロの演奏での曲を楽しみたい、幸いオーディオ愛好家でもありそこそこの音が鳴ればバロック時代の演奏の雰囲気は楽しめる。勿論ピアノ演奏も勿論良いのですが、上手く調整した音響機器でのバロック音楽を楽しむ事も良い方法でもある、ブラボー!