さうぽんの拳闘見物日記

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拳闘見聞の日々。

脅威の強さと不安定さを抱えつつ 武居由樹、9戦目でJマロニー下し戴冠

2024-05-08 16:48:41 | 関東ボクシング


ということで急いで感想書いていかんと、すぐ京口紘人の試合が来てしまいます(笑)ので、順番に。


東京ドームのセミファイナルは、ジェイソン・マロニーvs武居由樹戦。
井上拓真の試合のあとにこのカードが置かれた理由としては、井上真吾トレーナーの準備もありましょうが、やはり世界配信のイベントとして、日本人同士の試合より国際試合を、ということもあったと思います。

それだけ国際的にも名の知れた、バンタム級世界上位としての実力評価が確かな王者、ジェイソン・マロニー。
対して、キックボクシングのキャリアがあるとはいえ、いわゆる「国際式」ボクシングのプロキャリア僅か8戦、しかも国内上位との対戦も皆無(強打を恐れられてのことでしょうが)という武居由樹は、普通なら冷めた視線を向ける対象だったかもしれません。

しかし、その異様な射程距離の長さと、見るこちらの理解が追いつかないような形で、相手に致命的なダメージを与える強打の威力は、安定した技量を持つ王者をも、充分脅かしうるのでは、と思わせるものでした。
しかしその反面、初めて本当にバンタム級118ポンドに落として闘う、キャリア不足の若手ボクサー、という事実も同時に抱えてもいる。


はてさて、どちらの目が出るものやら、と思いつつ、セミの開始を待っていると、両者入場のセレモニーを前に、武居由樹の名がコールされました。
その時、東京ドームの大観衆から、それまでの二試合とは厚みが一段違う大歓声が上がりました。
ええ、凄い人気なんやなー、と驚きました。
武居由樹の、K1に置ける実績、そして広く知られるドラマを秘めた存在は、どうやらこちらが思う以上に多くのファンを、この東京ドームに引き込んでいるらしい。
正直、この日のメインを待たずして、こういう雰囲気になるとは想像していませんでした。


騒然たる中、試合が始まると、武居由樹は遠目の間合いに位置し、ジェイソン・マロニーに左のボディブローを繰り出していく。
それはいいんですが、マロニーのベルトラインが若干高め、そして幅があるせいで、武居のパンチがベルトライン上に当たっている。
レフェリー、最初の内に言っておこう、という感じだったのか。武居に注意するが、また同じ所に行って、二度目の注意。
そして2回、また同じ所に武居の左が伸びると、レフェリーが武居から1点減点しました。

武居に悪意があるでなし、また意図してやるほどのキャリアも(悪い)知恵があろうはずもなし。
しかし行きがかり上というと変ですが、レフェリーにしたら最初に言った手前、お兄さん、ちょっとは顔立ててくれんとさ、みたいな感じになってしまったのか。
正直、スロー映像を見るまでも無く、遠目にさえ、そこまで悪質なものとは見えなかったのですが、さりとて「なんで減点するんや」と思ったかというと、そうでもなく...色々考えると、こうなってしまっては仕方ないなあ、と思った次第でした。


しかし嫌なのは、武居が得意のボディ攻撃を減らしてしまうことで、そこは心配。
ところが武居、減点されても気にせず行け、という、傍目の勝手な思いそのままに、すぐ左のボディを打っていく。この辺の勝負度胸は大したもの。
同じようにベルトラインにかかるパンチはありましたが、追加の減点はなし。
これはレフェリーも、ちょっとやり過ぎてしまった?という自覚があったのかも、と見えました。


そういうことで、序盤から遠目の間合いを取れた武居、減点こそされましたが、ボディブローを打っていっても、これ以上の減点はなさそう、というレフェリングの基準も定まって?心置きなく自分の得意な攻撃が出来る展開のもと、序盤戦をリードしていきます。

マロニーも右ショートクロス、左フックリターンなどを出すが、武居を止められず。
武居は右フック飛び込み、右リードから左ストレート、フックのボディ打ち、右フック返しなど、ガードの上からでもその威力でマロニーを脅かすパンチ力を見せつけていく。

3回、左右を外から連打して、マロニーを追い立てる。上へのクリーンヒットは少ないが、拳の硬さ、鋭さがマロニーを下がらせている。
4回、武居のコンパクトなワンツー。マロニー打たれたがプッシング。武居スリップダウン。この辺はオージーボウル?で培った馬力。
マロニーも二度スリップ。武居、ちょっと無理な体勢の右アッパー。これにマロニー、右クロス返す。
しかし武居が左を下から上に返す連打で打ち勝つ。
5回、マロニー間合いを詰められない。武居の左上下が当たる。

6回も同様かと見えました。武居の右ジャブが当たる。しかし徐々に動きの速さ、大きさがなくなり、パンチの威力で食い止める感じに変わっていく。
おや?これはよろしくないか...遠目にも、序盤の好スタート、その代償としての疲れが来たのか、と見えました。

そして、この回終盤に来てマロニーの右ヒット。武居ロープに圧され、もつれてまた打たれる。
ところがゴング直前、武居が右フックの返し。まともに入ってマロニー止まる。この回、このパンチで武居に。
スローで見ると、武居の右拳の「芯」が、マロニーの側頭部を捉えていました。


ここまでポイントは全部武居と見ていました。マロニーは間合いが遠く、攻撃の回数が制限されている。
もっと攻められるだろうに、何か怪我でも抱えているのかという声も聞きましたが、そういうことでもなさそう。
むしろ、武居の一発ずつの威力、痛さはこちらの想像以上で、タフでモラルの高いマロニーだからこそ「普通の苦戦」程度に収まっているのでは、と見ました。

ちょっと不安の影も見えてきましたが、7回武居奮起?左ボディ決める。しかし徐々に疲れが見え、止まり加減に。
この辺から、疲れているなら、リズム刻んで軽いパンチ当てて動いて、とやればいいところ、止まってダイナミックな右アッパーを持っていったりする。余計疲れるやろうに、それ...。

この辺がキャリアの浅さか。そして、減量の苦しみもおそらく、この後から響いてきそう。
ポイントはまた武居と見て、これで7回連取。数字は多少違えど、減点1があっても武居大差リードのはず。
しかし残り5つ...マロニーの反撃、反転攻勢がいつ始まるか、始まらないでは済まないだろうし、と、不安がさらに忍び寄る。

8回、武居徐々に引き寄せられる感じ。マロニーのワンツー決まって、クリンチに。
この後、レフェリーにアピールして武居が自コーナーへ。マウスピースを入れられる。どこで落とした?と思ったら、この回、最初から入ってなかった?
この回初めてマロニーかと。この後全部抑えられ、ダウンでもおまけについてきたらどうなるか?という感じだったが、9回武居が奮起。
序盤に比べれば重い足取りながら、アウトボクシングに徹して、ポイントを取る。これは大きい、と見えた。一度バッディングあり。

10回も武居が捌く流れ。体力を節約した組み立て?セコンドが何か言ったのかも。またあの右アッパー出してもいるが。
武居、マロニーの右を集中して外している。マロニー、右をミスすると手数がしばらく止まる感じ。
11回、マロニーの攻撃は単発。武居が上下にパンチを散らしてリード。


そして最終回、仮にダウンひとつくらい食っても勝ち、と見ていましたが、えらいことが起こりかけました。

最初は武居が引き続きリードしているかと見えました。しかしラウンド半ばか、遠目にはとてもじゃないが視認出来ない、何かのパンチが当たって効いたものか。
両者がもつれてマロニーがさらに打つ。武居、気付けばクリンチすら「かろうじて」な状態。目線が上に向いている。大ピンチ。
マロニー左右フックを打ちまくる。武居はもうクリンチせず(出来ず?)ふらふら。相打ちで打ち負け、棒立ち。

いかん、ストップされる!残り時間は?と見上げるも、ここはホールではなく、時計は無い。
場内、囂々たる声が響き渡る。悲鳴も混じっている。その中、さらにマロニーが打ちまくる。そしてレフェリーの姿が視界に飛び込んできて、武居がロープにもたれ、試合終了。

一瞬、本当にストップされたのかと思いました。しかし試合終了のゴングだった。
場内の声が凄くて、ゴングも10秒前の拍子木の音も、全然聞こえませんでした...。


判定は116-111×2、117-110で武居を支持、新チャンピオン誕生。公式採点は最終回を10-9に収めた模様。
私は最後を10-8としたので、減点1を合わせて14点を割り振る形で、116-110でした。


もし「あの」メインがなかったら、もっと多くの議論を呼び、さらに強烈な記憶を残す一戦になっていたことだろう、と思います。
それほどに色々と目を引かれるポイントがあり、その終わり方も含め、判定の試合としてはこれ以上無い、企まざるドラマが見えた一戦でした。

それは武居由樹の、脅威の強打と運動能力、そしてキャリア不足と減量苦がもたらしたものだ、と言えるでしょう。
あれほど遠目から打って動いて、とやれてしまう体力、そしてマロニーのような実力者を、半ば力ずくで「封殺」してしまえる強打の威力。
その反面、ペース配分や打つパンチの選択に無理があり、運動量が減ると、防御の甘さも露呈する。

そして対するジェイソン・マロニー。もし、彼以外の世界上位選手が相手だったら、序盤の武居の攻撃力にさらされて、そのまま倒れて終わるという試合になっていた可能性は充分にあります。
しかし彼は苦しいながらも耐え抜き、反撃は遅かったとはいえ、最終回には逆転まであと一歩、というところに迫りました。
この両者の強みと弱みが合わさって、起伏の激しさという意味も含め、極めて希なる激闘が生まれた。そんな試合でした。



新チャンピオン武居由樹は、その類い希な強さと共に、大きな欠落をも、全世界注視の一戦において、全て見せた感があります。
ひょっとしたら、IBF新王者の西田凌佑同様、118ポンドでのコンディション作りには限界があるのかもしれません。
大橋秀行会長が、井上尚弥の保持する122ポンド級4大王座のいくつかの返上を示唆したのも、この辺りに関連する話なのでしょうか。

しかし今後はおくとして、この浅いキャリアで、実力者ジェイソン・マロニーと渡り合い、劇的な試合で勝利するというだけでも、やはり恐るべき強さです。
その強さを、より然るべき形で発揮出来るようになったら、それこそスーパーチャンピオンと称されることでしょう。
そのために、闘う場をより慎重に選ぶこともまた、技術面、キャリアの話とはまた別に、大事になってくるでしょうね。



しかしまあ、これだけあれこれつべこべ書いておいてナニですが(笑)、色んな意味で普通じゃ無いというのか、否でも応でも人の目を引き付ける、という意味で、ホンモノのスターを見た、という気がします。
やることなすこと、常識では計れないというのか。良くも悪くも、凄いなあ、と思うこと度々でした。なかなかおらんよ、こんな人、という...。



コメント (5)
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