司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

取締役権利義務者の破産手続開始の決定

2010-08-22 18:40:08 | 会社法(改正商法等)
 取締役権利義務者(会社法第346条第1項)が破産手続開始の決定を受けた場合,どうなるか?

 この場合,平成17年改正前商法下においては,取締役の退任の登記が認められていたが,同様に取り扱ってよいであろうか?

 取締役が破産手続開始の決定を受けた場合は,会社法上の欠格事由には該当しない(会社法第331条参照)が,株式会社と取締役との関係は,委任に関する規定に従う(会社法第330条)ことから,委任の終了事由に該当し(民法第653条第2号),退任することとなる。

 取締役権利義務者の場合も,同様に取締役権利義務者の地位を失い,退任の登記を認めてよいと考えるのが自然なように思えるが,果たして委任に関する規定に従うと考えてよいであろうか?

 この点に関する論文等は,見当たらないようであるが,葉玉さんは,取締役権利義務者について,「会社法第330条が適用される」との説であるようだ。
http://blog.livedoor.jp/masami_hadama/archives/50903410.html#comments

 しかし,取締役が任期の満了又は辞任により退任した時点で委任関係は終了しており,会社法第346条第1項の規定は,委任の終了後の処分に関する民法第654条の規定の特殊な類型であるといえる。また,会社法第330条は,単に「役員」と規定しており,役員権利義務者を含む旨を規定していない。したがって,取締役権利義務者に関して,会社法第330条を「適用」して,委任に関する規定に従うと考えるのは妥当でないであろう。同条の適用又は類推適用を否定しても,「契約関係は承継されないが,契約上の個別の請求権を承継するということは背理ではない」(「論点体系判例民法6 契約Ⅱ」(第一法規)104頁)と考えれば,不都合はない。

 なお,会社法第346条第1項は,「任期の満了又は辞任により退任した役員」についてのみ,役員等に欠員を生じた場合の措置について定めており,他の事由(例えば,破産手続開始の決定を受けた場合)により退任した役員については適用されないことから,取締役権利義務者が破産手続開始の決定を受けた場合に,その地位を失うと考えることも可能といえそうである。

 しかしながら,取締役権利義務者の解任の可否に関する最高裁判決(平成20年2月26日民集62巻2号638頁)が,「会社法346条1項に基づき退任後もなお会社の役員としての権利義務を有する者の職務の執行に関し不正の行為又は法令・定款に違反する重大な事実があった場合に,同法854条を適用又は類推適用して株主が訴えをもってこの者の解任請求をすることは,許されない」と判断していることとの平仄からも,取締役権利義務者が破産手続開始の決定を受けた場合に,民法第653条第2号の規定を適用又は類推適用して,その地位を失うと考えるのは妥当でないであろう。

cf. 平成20年2月26日付「取締役権利義務承継者の解任の可否(最高裁判決)」

 以上のとおり,些かの違和感はあるものの,取締役権利義務者が破産手続開始の決定を受けた場合であっても,その地位は失わないと考えるべきであり,これを理由とした取締役の退任の登記は受理されるべきではないと考える。

 それでは,取締役権利義務者が,会社法第331条各号に掲げる欠格事由に該当した場合は,どうか?

 この場合は,平成17年改正前商法下と同様に取り扱い,取締役の退任の登記を認めてよいであろう。確かに,会社法第331条柱書は,「取締役」と定めているのみであるが,取締役の欠格事由に該当する者が取締役権利義務者の地位にあり続けるのは妥当ではないから,同条を類推適用して,取締役権利義務者はその地位を失うと考えるべきである。
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募集株式の発行等を行う場合における自己株式処分差損

2010-08-22 15:22:59 | 会社法(改正商法等)
 募集株式の発行等を行う場合において,新株の発行と併せて自己株式を処分する場合,当該処分する自己株式に付されていた帳簿価額が出資される財産の額よりも大きく,いわゆる自己株式処分差損(会社計算規則第14条第1項第4号)が生ずる場合がある。

 自己株式を処分した場合の差益や差損については,原則として,その他資本剰余金の額を加減することとされているが,上記のような場合には,その他資本剰余金の額を減少させてまで,資本金や資本準備金の額を増加させることは適切でないと考えられることから,処分差損を資本金等増加限度額から減じるものとされている(会社計算規則第14条第1項柱書)。

 しかしながら,会社計算規則の無理解から,「新株の発行」の部分と「自己株式の処分」の部分を分別計算し,本来の資本金等増加限度額とは異なる額を基準にして資本金の額を増加させる登記を行っている例が散見されるそうである(金子登志雄「自己株式処分時の落とし穴」ビジネス法務2010年10月号(中央経済社)68頁以下)。

 会社計算規則については,平成21年4月1日施行の大改正があったが,このあたりの会計処理に関しては,大筋において施行当時のままであるし,巷間出回っている「資本金の額の計上に関する証明書」の記載例に沿って考えれば,誤ることもないと思われるのだが・・。

 万一誤ってしまった場合には,下記により更正の登記が必要となる。

cf. 平成19年12月11日付「募集株式の発行による変更登記によって資本金の額を誤って多く登記した場合の更正の登記について」
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