月刊登記情報2016年9月号に,「就任承諾援用問題と株式の第三者割当問題に関する提言」がある。神﨑満治郎先生と,司法書士の金子登志雄さん,鈴木龍介さん,山本浩司さんの4名の共同執筆である。
前段の「就任承諾援用問題」の問題意識の源泉は,下記の記事のとおりである。
cf.
平成23年8月30日付け「就任承諾書の方程式」
平成24年7月12日付け「取締役の就任承諾と株主総会議事録の記載の援用」問題再び
改めて整理してみると,
1.就任承諾を証する書面について,株主総会議事録の記載の援用の可否
援用が認められるためには,被選任者が株主総会に出席して,席上就任を承諾する旨を述べたことが,議事録の記載から明らかである必要がある。例えば,次のとおりである。
「なお,被選任者全員が本株主総会に出席しており,席上において,いずれも,本株主総会の終結の時から取締役に就任することを承諾する旨を述べた」
2.就任の時点はいつか
補正となるケースは,就任の時点について,議事録の表現があいまいであることが多いようであり,補欠又は増員の取締役については,「いつの時点から」が明確になるように,留意すべきである。就任の時点について特段の記載がないと,株主総会の途中で就任したものと判断され,後記の補正の元になりがちだからである。私は,上記のとおり,「本株主総会の終結の時から取締役に就任する」旨を株主総会議事録又は就任承諾書に明記してもらうようにしている。本来は,これで解決なのである。
3.出席した取締役
もとより,取締役に選任された者が即時就任することを承諾すると,その時点から取締役である。株主総会において取締役に選任された者が即時就任することを承諾すると,総会の途中から取締役となる。したがって,「株主総会に出席した取締役」となり,所要の対応が必要となる。
この点に関しては,平成17年改正前商法時代から解釈は変更されていない(松井信憲「商業登記ハンドブック(第3版)」(商事法務)148頁)。
上記提言は,「株主総会に出席した取締役」に当たらないと解しているようであるが,疑問である。
4.株主総会議事録の内容としての「出席した取締役」
株主総会議事録は,その内容として「株主総会に出席した取締役」等の氏名を含んだものでなければならない(会社法施行規則第72条第3項第4号)。
内容として含んでいればよいので,議事録冒頭に「出席した取締役の氏名」として連記されていなくても,末尾に出席した取締役としての記名押印があれば,それで足りるものと解されている。「取締役甲野太郎が~について報告した」や「取締役甲野太郎が議長となった」旨の記載でもよいであろう。
株主総会の途中で就任した取締役についても,「株主総会に出席した取締役」であるから,議事録冒頭の「出席した取締役の氏名」の項に連記するか,出席した取締役として記名押印することになる(上掲・松井148頁)。
「出席した取締役の氏名」に連記されておらず,また出席した取締役としての記名押印もない場合,すなわち就任承諾文言から出席していることが窺われるのみでは,株主総会議事録の内容に不備がある,というのが上記提言が問題視している登記官側の問題意識であり,株主総会議事録を補正するか,別途就任承諾書を添付せよ,ということなのであろう。
取締役の選任議案の部分に「取締役 甲野太郎」という記載があっても,これは,被選任者の氏名の記載であって,「出席した取締役の氏名」の記載と解するのは,やや無理があるように思われる。
「善解理論」を発動させる余地もあるのかもしれないが,基本的には,株主総会議事録の「出席した取締役の氏名」の項に連記するか,出席した取締役として記名押印をするようにすべきであろう。
5.まとめ
株主総会議事録の記載に不備がないか,よく点検しましょう。