司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

遺言執行者と不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格

2023-05-23 17:22:59 | 不動産登記法その他
最高裁令和5年5月19日第2小法廷判決
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=92085

【判示事項】
1 共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合における、遺言執行者と不動産の所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格(消極)
2 相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合における、遺言執行者と不動産の所有権移転登記の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格(積極)
3 複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属する

「改正法の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産につき、遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しないものと解される。したがって、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言がされた場合に、上記不動産につき上記遺言の内容に反する所有権移転登記がされたとしても、上記登記の抹消登記手続を求めることは遺言執行者の職務権限に属するものではないというべきである。そうすると、遺言執行者は、上記遺言を根拠として、上記不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではないと解するのが相当である。」

「不動産又はその持分を遺贈する旨の遺言がされた場合において、上記不動産につき、上記の遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされたときは、遺言執行者は、上記登記の抹消登記手続又は上記持分に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解される(前掲最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決参照)。相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合についても、これと同様に解することができる(最高裁同年(オ)第190号同年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事118号315頁参照)・・・・・相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合において、遺言執行者は、上記の包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に包括受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされた不動産について、上記登記のうち上記不動産が相続財産であるとすれば包括受遺者が受けるべき持分に関する部分の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。」

「民法995条は、本文において、遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属すると定め、ただし書において、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定めている。そして、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する(同法990条)ものの、相続人ではない。同法995条本文は、上記の受遺者が受けるべきであったものが相続人と上記受遺者以外の包括受遺者とのいずれに帰属するかが問題となる場面において、これが「相続人」に帰属する旨を定めた規定であり、その文理に照らして、包括受遺者は同条の「相続人」には含まれないと解される。そうすると、複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときを除き、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものは、他の包括受遺者には帰属せず、相続人に帰属すると解するのが相当である。」

※ 職権による検討
「被上告人は、本件登記の抹消登記手続請求のうち本件土地の本件相続持分を除くその余の持分2分の1(以下「本件相続外持分」という。)に関する部分についても、本件土地がAの相続財産であるとすればDが受けるべき持分6分の1に関する部分に係る訴えについては原告適格を有するが、上記持分6分の1を除くその余の本件相続外持分(本件土地の持分3分の1)に関する部分に係る訴えについては原告適格を有しない。
 したがって、上記訴えについて被上告人が原告適格を有するとして被上告人の請求を棄却した原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。被上告人は上記訴えについて原告適格を有しないから、これを却下すべきである。」
コメント