永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(558)

2009年11月12日 | Weblog
09.11/12   558回

三十七帖【横笛(よこぶえ)の巻】 その(6)

 この子(薫)が生まれてこられる為の因縁で、ああした呪わしい事件も起こったのだろう。避けられない宿命であったのだと、源氏は、少しは柏木の事を思い直されてもいるのでした。

 また、しかしご自身の運命をかえり見てはやや不満も多く、

「あまたつどへ給へる中にも、この宮こそは、かたほなる思ひ交じらず、人の御有様も、思ふに飽かぬ所なくてものし給ふべきを、かく思はざりしさまにて、見奉る事、と思すにつけてなむ、過ぎにし罪ゆるし難く、なほ口惜しかりける」
――大勢お集めになった女性たちの中でも、この女三宮こそは欠点もなく、お人柄もそう不十分では無い筈ですのに、こうした尼姿でお世話申すことになって、とお思いになるにつけても、やはり過去のあの二人の罪が許せない、残念でならない気がなさるのでした――

 夕霧は、

「かの今はのとじめに、とどめし一言を、心ひとつに思ひ出でつつ、いかなりし事ぞとは、いと聞こえまほしう、御気色もゆかしきを、ほの心えて思ひ寄らるる事もあれば…」
――あの柏木のご臨終に、言い残された一言を密かに思い出しては、いったいそれはどういうことだったのであろうと、父源氏に伺いたく、またその時の父上のお顔色も拝見したいと思いますものの、少し思い当たることもありますゆえに…――

「なかなかうち出で聞こえむもかたはらいたくて、いかならむついでに、この事の委しき有様もあきらめ、またかの人の思ひ入りたりしさまをも、聞し召させむと思ひわたり給ふ」
――かえって口に出して申すのもきまりが悪く、いったいどんな時にこの事の真相もお話し、また柏木が沈み込んでいた様子などもお耳に入れたらなら、とその機会を窺がっておられるのでした――

 秋の大そう風情のある夕べに、夕霧は落葉宮を思って一条邸にお出かけになりました。
落葉宮はやや寛いでしんみりと御琴を弾いていらっしゃる。

ではまた。