永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(919)

2011年04月01日 | Weblog
2011.4/1  919

四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(1)

薫(中納言)             25歳正月、2月
  表向きは源氏と女三宮の子。実は父は柏木であるとうすうす感じている) 
匂宮(兵部卿の宮、今上帝と明石中宮の第三皇子) 26歳
中の君(故八の宮の姫君)       25歳
明石中宮(今上帝の后)        44歳
夕霧(左大臣、父は光源氏。明石中宮は異母妹)   51歳
六の君(夕霧と正妻ではない藤典侍との姫君)

 年が代わって、憂いに閉ざされていた宇治の山里にも、春がめぐってきました。

「やぶしわかねば、春の光を見給ふにつけても、いかでかくながらへにける月日ならむ、と、夢のやうにのみ覚え給ふ。行きかふ時々にしたがひ、花鳥の色をも音をも同じ心に起き臥しつつ、はかなきことをも、本末をとりて言ひかはし、心細き世の憂さもつらさも、うちかたらひ合せきこえしにこそ、なぐさむかたもありしか」
――薮の中でもどこでも区別なく照らすうららかな春の光をご覧になりながら、中の君は、この悲しい月日をしみじみと思い返されて、今までよくも長らえてきたものよ、と、ただ夢のようなお心持ちでいらっしゃる。四季の移ろいにつれて花の色も鳥の声も、姉の大君と同じ心で日夜見聞きしながら、ちょっとした歌を詠むにも、一人が上の句を詠めば一人が下の句を詠むという風にして、心細いこの世の憂さも辛さもお互いに語り合って、このわびしい山里での起き臥しが慰められたものでしたのに――

「をかしきこと、あはれなるふしにも、聞き知る人もなきままに、よろずかきくらし、心ひとつをくだきて、宮のおはしまさずなりにし悲しさよりも、ややうちまさりてこひしくわびしきに、いかにせむ、ど、明け暮るるも知らずまどはれ給へど、世にとまるべき程は、かぎりあるわざなりければ、死なれぬもあさまし」
――今では、風情のある面白いことでも、しみじみ寂しいと思うことでも、すべての事を、話し合い分かりあう人とてないままに、中の君はお心も沈んでただ一人胸を痛めていらっしゃいます。父宮の亡くなられた折の悲しさよりも、この度の方がひとしお切なく、姉君を恋しく思われて、この先いったいどうなるのであろうか、と、明け暮れ途方にくれていらっしゃるけれども、この世の寿命は決まっているものなので、ご自分では死ぬことも叶わないのを恨めしく思っていらっしゃる――

 そのような折に、山寺の阿闇梨からお見舞いがありました。

◆やぶしわかねば=古今集「日の光薮(やぶ)しわかねば石の上ふりにし里に花も咲きけり」

では4/3に。