2011.4/19 928
四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(10)
「いと心はづかしげになまめきて、またこのたびはねびまさり給ひにけり、と、目も驚くまで匂い多く、人にも似ぬ用意など、あなめでたの人や、とのみ見え給へるを」
――(薫は)こちらが恥ずかしくなる程の中の君の美しく優雅なご様子の、さらに、あの頃よりもやや大人びて、わが目にも驚くほど気品がただよい、とても他の人など及ばない素晴らしいお方と、お見受けになっておられますと――
中の君は、お心の中で、
「面影さらぬ人の御事をさへ思ひ出できこえ給ふに、いとあはれ、と、見奉り給ふ」
――今でも始終面影がちらついている亡き姉君のことまでも、薫が思い出されては何かと申されますので、こちらでもしみじみとした思いでご覧になっております――
薫は「亡き姉君の尽きせぬ思い出話など、あなたのお目出度い今日という日には言葉を慎むべきでしょうが」と申し上げながら、
「渡らせ給ふべきところ近く、この頃過ぐしてうつろひ侍るべければ、『夜中暁』とつきづきしき人の言ひ侍るめる、何事の折にも、うとからずおぼしのたまはせば、世に侍らむかぎりは、きこえさせ承りて、過ぐさまほしくなむ侍るを、いかがはおぼしますらむ。人の心さまざまに侍る世なれば、あいなくや、など、ひとかたにもえこそ思ひ侍らね」
――あなたがお移りになる筈の近くに、わたしも暫くして移る筈ですから、「夜中暁(よなかあかつき)」(親しい者同志は、夜中も暁も、時を問わず行き来する意。当時のことわざとみられる)と、世の人が言うそうですから、何事も親しく私にお言い付けくださいますならば、生き長らえています限りは、申し上げることも、承りもして参りたいと存じます。いかがでございましょう。もっとも、人の心は思い思いのものですから、こんな事を申してご迷惑ではないかとも考えて、決めかねてはおりますが――
◆いとどはかばかしからぬひが事もや=いとど・はかばかしからぬ・ひが事・も・や=たいそう・しどろもどろな・とんでもないお応えに・なりそうで
では4/21に。
四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(10)
「いと心はづかしげになまめきて、またこのたびはねびまさり給ひにけり、と、目も驚くまで匂い多く、人にも似ぬ用意など、あなめでたの人や、とのみ見え給へるを」
――(薫は)こちらが恥ずかしくなる程の中の君の美しく優雅なご様子の、さらに、あの頃よりもやや大人びて、わが目にも驚くほど気品がただよい、とても他の人など及ばない素晴らしいお方と、お見受けになっておられますと――
中の君は、お心の中で、
「面影さらぬ人の御事をさへ思ひ出できこえ給ふに、いとあはれ、と、見奉り給ふ」
――今でも始終面影がちらついている亡き姉君のことまでも、薫が思い出されては何かと申されますので、こちらでもしみじみとした思いでご覧になっております――
薫は「亡き姉君の尽きせぬ思い出話など、あなたのお目出度い今日という日には言葉を慎むべきでしょうが」と申し上げながら、
「渡らせ給ふべきところ近く、この頃過ぐしてうつろひ侍るべければ、『夜中暁』とつきづきしき人の言ひ侍るめる、何事の折にも、うとからずおぼしのたまはせば、世に侍らむかぎりは、きこえさせ承りて、過ぐさまほしくなむ侍るを、いかがはおぼしますらむ。人の心さまざまに侍る世なれば、あいなくや、など、ひとかたにもえこそ思ひ侍らね」
――あなたがお移りになる筈の近くに、わたしも暫くして移る筈ですから、「夜中暁(よなかあかつき)」(親しい者同志は、夜中も暁も、時を問わず行き来する意。当時のことわざとみられる)と、世の人が言うそうですから、何事も親しく私にお言い付けくださいますならば、生き長らえています限りは、申し上げることも、承りもして参りたいと存じます。いかがでございましょう。もっとも、人の心は思い思いのものですから、こんな事を申してご迷惑ではないかとも考えて、決めかねてはおりますが――
◆いとどはかばかしからぬひが事もや=いとど・はかばかしからぬ・ひが事・も・や=たいそう・しどろもどろな・とんでもないお応えに・なりそうで
では4/21に。