永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(932)

2011年04月27日 | Weblog
2011.4/27  932

四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(14)

 弁の君はただぼおっとした様子ながら、昔はどこか由緒ある人だったので、その面影がうかがわれます。

(弁の君の歌)「さきに立つ涙のかはに身をなげば人におくれぬいのちならまし」
――先立つものは涙ですが、その川に身を投げますならば、大君にも死に遅れずにすみましたでしょうに――

 と、泣き顔のまま申し上げます。薫は、

「それもいと罪深かかなることにこそ。かの岸に到ること、などか。さしもあるまじきことにてさへ、深き底に沈み過ぐさむもあいなし。すべて、なべてむなしく思ひとるべき世になむ」
――身を投げることもたいそう罪深いことですよ。そのようなことでは彼岸(極楽)に渡ることなどどうして出来ましょう。そんな必要もない事で、奈落の底に沈みとおすことなどつまらぬことです。すべては、何事も無常と思って過ごすのが世の中というものでしょう――

 と、おっしゃって、歌とともに、

「『身を投げむ涙の川にしづみてもこひしき瀬々にわすれしもせじ』いかならむ世に、すこしも思ひなぐさむることありなむ、と、はてもなき心地し給ふ」
――「あなたが身を投げるという涙の川に沈んででも、私は恋しい折々毎に大君を決して忘れません」いったいいつになったら、少しでも心の晴れる日が来るのだろう、と、果てしも無い悲しみに沈んでいらっしゃる――

「かへらむ方もなくながめられて、日も暮れにけれど、すずろに旅寝せむも、人のとがむることにや、と、あいなければ、かへり給ひぬ」
――(薫は)京へお帰りになる気にもなれず、ぼんやりと物を思い続けておられますうちに、日がすっかり暮れてしまいましたが、うっかりこちらに泊まりでもしましたなら、匂宮からまた、あらぬお疑いをかけられようかと、それも味気ないので、すごすごとお帰りになりました――

「おもほしのたまへるさまを語りて、弁はいとどなぐさめ難くくれまどひたり。みな人は心ゆきたるけしきにて、物縫ひいとなみつつ、老いゆがめる容貌も知らず、つくろひさまよふに、いよいよやつして」
――(弁の君は)薫中将にお話しされたことを、中の君にも申し上げ、今更ながら大君のご逝去が悼まれて、ひとしお涙にくれるのでした。他の侍女たちは皆、浮き浮きと満足げに衣装などを裁ち縫いして、自分たちの盛りの過ぎた姿もかえりみず立ち騒いでは京へ行く準備に余念がないのでした――

では4/29に。