永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(946)

2011年05月25日 | Weblog
2011. 5/25      946

四十九帖 【宿木(やどりぎ)の巻】 その(7)

 明石中宮は、つづけて匂宮にご訓戒をもうされます。

「親王達は、御後見からこそ、ともかくもあれ。上の、御代も末になりゆく、とのみおぼしのたまふめるを、ただ人こそ、一事にさだまりぬれば、また心をわけむことも難げなめれ、それだに、かの大臣のまめだちながら、こなたかなたうらみなくもてなして、ものし給はずやはある。ましてこれは、思ひ掟てきこゆることもかなはば、あまたも侍はむになどかあらむ」
――親王(みこ)たちは、外戚次第で栄もし、衰えもするのです。そろそろ帝はご譲位のこともお口になさるようですし、臣下なら一旦妻が定まってしまうと、他所に心を分けることも難しそうですが、あの夕霧大臣の場合は、堅人ながら雲居の雁と落葉の宮とを両方うらみっこなしにあしらっておられるではありませんか(外戚としては最適)。ましてやあなたの場合は、私が心にお決めしていること(東宮に立つこと)が実現するなら、女が大勢お側にいたとして何のさし障りがありましょう――

 などと、いつもと違って、尤もらしくじゅんじゅんとお諭しになります。匂宮は、

「わが御心にも、もとよりもて離れて、はたおぼさぬことなれば、あながちには、などてかは、あるまじきさまにもきこえさせ給はむ。ただ、いとことうるはしげなるあたりにとり籠められて、心安くならひ給へるありさまのところせからむことを、なま苦しくおぼすに、もの憂きなれど、げにこの大臣に、あまり怨ぜられ果てむもあいなからむ、など、やうやうおぼし弱りにたるべし」
――ご自分としても、もとから六の君を全く気に入らないなどとは思ってもおられないことですので、強いて強情にお断りなさる筈もないのでした。ただ、そうして夕霧の婿君ともなれば、立派に設えたお邸に閉じ籠められて、今まで気ままにふるまっていらしたお暮しの、窮屈になることが何となくお辛くて、億劫でいらっしゃるのでした。とはいえ、夕霧大臣にあまり恨まれても困ったことになるだろう、と、だんだんお気持が折れていかれるようです――

「あだなる御心なれば、かの按察使の大納言の、紅梅の御方をもなほおぼし絶えず、花紅葉につけて物のたまひわたりつつ、いづれをもゆかしくはおぼされけり。されどその年はかはりぬ」
――もとより、匂宮は浮気っぽいご性分ですので、あの按察使の大納言の紅梅の君にもまだ思いを寄せておいでになり、花や紅葉の折々には御文をお遣わしになっていて、六の君と紅梅の君のどちらにもお心をお寄せになっておられるのでした。こうしていつかこの年も過ぎて新年を迎えました――

◆按察使の大納言の、紅梅の御方=「紅梅の巻」に委しい。柏木の弟で紅梅大納言の継娘。
実父は蛍兵部卿の宮、母は真木柱。匂宮がこの人に求愛したことがあった。

では5/27に。