永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1042)

2011年12月17日 | Weblog
2011. 12/17     1042

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(13)

 御方をも頭洗はせ、取りつくろひて見るに、少将などいふ程の人に見せむも、惜しくあたらしき様を、あはれや、親に知られたてまつりて生ひ立ち給はしかば、おはせずなりにたれども、大将殿ののたまふさまに、おほけなくとも、などかは思ひ立たざらまし、されど、内々にこそかく思へ、外の音聞きは守の子とも思ひわかず、また実をたづね知らむ人も、なかなかおとしめ思ひぬべきこそ悲しけれ、など思ひ続く」
――(北の方は)浮舟の髪を洗わせ、身づくろいをさせてみますと、少将などという身分の者に縁づけるのも、勿体ないほどのご様子です。ああ可哀そうに、実の父の八の宮にお認め頂いてお育ちになったならば、お亡くなりになってはいても、たとえそれが、分に合わない縁だとしても、薫の君が仰せのとおりに、どうしてこの方に御まかせしようと考えなかったのかしら。けれども、そう考えるのは自分だけで、世間では浮舟も守の子として通っていることであるし、そうでなく本当の事を知っている人は、八の宮に認められなかった為に、却って軽蔑しているに違いないとすれば、やはり悲しいことだ、と、思い続けるのでした――

「いかがはせむ、さかり過ぎ給はむもあいなし、賤しからずめやすき程の人の、かくねんごろにのたまふめるを、など、心ひとつに思ひさだむるも、仲立のかく言よくいみじきに、女はまして、すかされたるにやあらむ。明日明後日と思へば、心あはただしくいそがしきに、こなたにも心のどかに居られたらず、そそめきありくに」
――少将とのことはどうしたものか。浮舟の盛りが過ぎてしまっても困るし、まあ身分も程々で、あのように熱心にお望みくださるのですから、と、北の方が一人で決めてしまわれたのも、仲立の口先がまことに上手で、その上、女のこととて上手く騙されたのであろう。婚礼の日が、明日あさってと日が迫ってくるので落ち着かず、この浮舟のお部屋にのんびりと座っているわけにもいかないと、あちらこちらにそわそわと歩きまわっているところに――

「守外より入り来て、長々と、とどこほる所もなく言ひ続けて、『われを思ひへだてて、あこの御懸想人を奪はむとし給ひけるが、おほけなく心幼きこと。めでたからむ御女をば、ようぜさせ給ふ君たちあらじ。賤しく異やうならむなにがし等が女子をぞ、いやしうも尋ねのたまふめれ』」
――常陸の介が、外出から戻ってきて、口をさしはさむ隙もないほどに、滔々とまくしたてます。「この私をさしおいて、わが娘に懸想されるお方(少将)を横取りしようとなさったとは、身の程知らずの浅はかさだ。こちらのような御落胤の御息女を、是非にと御所望なさる公達は、まずありますまい。賤しく取るに足らぬ私の娘のようなのをこそ、賤しいなりに、わざわざ尋ね出して、求婚なさるというものだ」――

 つづけて、

「『かしこく思ひくはだてられけれど、もはら本意なし、とて、外ざまへ思ひなり給ひぬべかめれば、同じくは、と思ひてむ、さらば御心、とゆるし申しつる』など、あやしく奥なく、人思はむところも知らぬ人にて、言ひ散らし居たり」
――「利口に立ち回ったおつもりのようだが、先方の少将の方では、全く本意に違ったとかで、今にも他の方へ乗りかえてしまいそうなので、同じく婿にするならばと思って、少将のお考えどおりに、わが娘婿にとお許し申すことにしたのだ」などと、およそ思いやりなどなく、手前勝手にしゃべり散らして座り込んでいます――

では12/19に。