永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1046)

2011年12月25日 | Weblog
2011. 12/25     1046

五十帖 【東屋(あづまや)の巻】 その(17)

 守が、

「『何か、人の異ざまに思ひ構へられける人をしも、と思へど、人柄のあたらしく、かうざくにものし給ふ君なれば、われもわれもと、婿に取らまほしくする人の多かなるに、取られなむもくちをしくてなむ』と、婿かの仲人に謀られて言ふもいとをこなり。男君も、この程のいかめしく思ふやうなること、と、よろづの罪あるまじう思ひて、その夜も変へず来そめぬ」
――「なにも、あちら(北の方)が御自分の方の婿にと思われた人を、わざわざこちらへ婿取りすることもないと思うが、少将の君はまことにお人柄が立派で、明敏でおいでの方だから、われもわれもと婿にしたがっている人も多いらしく、他人に取られてしまっては惜しいから」と、あの仲立に騙されて言うのも大そう馬鹿げています。少将の方も、先日来の守のやり方が堂々として申し分なく、これならば何もかも自分の思い通りであり、別に罪も有るまいと思って、浮舟と約束した日を変えず、夜そのまま通い始めたのでした――

「母君、かの御方の乳母、いとあさましく思ふ。ひがひがしきやうなれば、とかく見あつかふも心づきなければ、宮の北の方の御もとに御文たてまつる」
――母君は、浮舟の乳母がこの成り行きをひどく恨んでいますし、守のなさり方を快く思っていないようなので、こういうところで浮舟のお世話をするのも気まずいので、二条の宮の御方(中の君)にお文を差し上げます――

 御文は、

「その事と侍らでは、なれなれしくや、とかしこまりて、え思ひ給ふるままにもきこえさせぬを、つつしむべきこと侍りて、しばし所かへさせむと思ひ給ふるに、いと忍びてさぶらひぬべき隠れの方さぶらはば、いともいともうれしくなむ。数ならぬ身ひとつの陰に隠れもあへず、あはれなることのみ多く侍る世なれば、たのもしき方には先づなむ」
――これこれの用事もございませんのに、不躾ではと御遠慮いたしまして、心ならずもお便り申す事もいたしませんでしたが、少々差し障ることが出来まして、娘にしばらく居所を変えさせとうございます。つきましては、こっそり置いて頂けますような物陰でもございますなら、その上もなく嬉しゅうございます。とるに足りぬ私の手ひとつでは守ってもやれません。娘の上に悲しい事ばかり起こりますにつけても、お頼み申す先といたしましては、先ずあなた様しかございません――

 と、泣きながら書かれたお文を、中の君は、

「あはれとは見給ひけれど、故宮の、さばかりゆるし給はで止みにし人を、われひとり残りて、知りかたらはらむもいとつつましく、また見ぐるしきさまにて世にあぶれむも、知らず顔にて聞かむこそ、心苦しかるべけれ、ことなることなくて、かたみに散りぼはむも、亡き人の御為に見ぐるしかるべきわざを、おぼしわづらふ」
――不憫なこととお思いになりますが、亡き父君があれほどお認めにならず仕舞いになった人を、一人この世に残ったわたしが、親しくお世話するのも故宮に申し訳が立たず、かといって、浮舟が見ぐるしい様子で落ちぶれて世に流離うのを、素知らぬ風に見聞きするなどとは、さらに心苦しいことでしょう。格別のこともなくて、血を分けた姉妹が互いに離ればなれに暮らすのは、父宮の御名にも見苦しい筈であると、あれこれ思案に暮れていらっしゃる――

では12/27に。