ヒゲジイのアル中よもやま話

断酒を始めて早7年目。このブログは回復プロセスの記録と脳のリハビリを兼ねて綴っています。やはり、まだチョット変ですかネ?

自助会AAは科学的?―回復への12のステップ―

2015-08-21 20:09:18 | 自助会
 私は文科系の学部卒で、本格的な自然科学の教育を受けた経験がありません。私の言う本格的な自然科学の教育とは、本格的な科学的実験の実習を受けたことがないという意味においてです。

 科学的実験は次のように実施されるものと理解しています。仮説に基づいて実験計画を立て、計画書通りに実験を実行して、その結果を総括報告書にまとめる。これが実験の全体像で、立案から総括報告書までの記録すべてを文書で残していることが必須条件です。公表された論文は厖大な記録文書の主要な一部分でしかありません。

 記録文書に残された記録通りに、第三者が実験方法をなぞって実施すれば、全く同じ結果が得られる、これが実験の再現性です。科学的とは、すべての記録を残し、それらの記録によって再現性を担保すること。このように臨床開発業務を通じて教わりました。言い換えると、再現性こそが実証的自然科学の要なのだと知らされました。

 「実験の失敗が偶然の新発見につながった」ノーベル賞受賞者からよく聞く言葉です。どのような点で失敗したのか、そのすべてが記録に残っているからこそ失敗を再現でき、新発見はその延長線上に見つかったものなのだろうと思います。同様に記録と再現性の観点からみると、理研のSTAP細胞事件の問題点は明らかです。報道によれば、すべてを記録しているはずの実験ノートが貧弱で杜撰だったといいます。これは科学的にみて致命傷であり、とても科学者の仕事とは思えません。STAP細胞を再現できなかったのは、むしろ当然の帰結と言えるでしょう。野心に駆られた末のお粗末な犯罪とも噂される所以です。

 臨床試験で方法と手順が書かれた計画書のことをプロトコール(protocol)と呼びます。また、試験実施後に全記録を成果として残したものを総括報告書と言います。初めてAlcoholics Anonymous(AA)の回復プログラム “12のステップ” を読んだとき、これは総括報告書中のプロトコール部分ではないかと思いました。つまり、プロトコールにある規定通りに100%すべて完璧に実施した場合の記述の仕方だったのです。結果の記述ですから、書かれている手順と方法は過去形の時制となりますし、事実過去形で書かれているのです。

 自分史などで私自身の酒害体験の叙述を続けていくにつれ、AAのミーティングで “12のステップ” を読む度に、やはりプロトコール部分だという感を一層深くしました。最初、“12のステップ” をさして意識しないまま叙述し始めたのですが、しばらくして私が実行した手順と、その結果として体験したことが “12のステップ” にほぼそのまま書かれていることに気付いたからです。特に、ステップ5の解説に書かれている「長年溜まりに溜まったものが弾けて消え、平穏となって心の落ち着きが分かったとき、『神』を身近に感じた」という心境は、私が体験した “憑き物が落ちた” ときの神秘的感覚に近かったのです。私が叙述を通じて得られた “憑き物が落ちた” 体験のことを、精神医学では言語化による効用と呼ぶそうです。AAではこれを “霊的な目覚めspiritual awakening” とも表現しています。その他にも叙述作業の過程で共有できた体験がいくつもありました。「同様の方法を辿って、同様の結果を得た」、これを再現性と言わずに何と言うのでしょう。しかも、AAには膨大な数のアルコール依存症者を回復に導いた実績もあるのです。いよいよ私は回復プログラムの “12のステップ” が科学的なプロトコールであると確信するに至りました。

 ただし、AAでは “心の落ち着き(serenity)” を体得するという肝腎要の部分を “霊的な目覚め” としており、そこでは “自分なりに理解した『神』” という表現で『神』の概念を打ち出しています。『神』による奇蹟として、宗教色を出した方が得策だと判断したのだろうと理解しました。

 私は新薬の臨床開発責任者として治験プロトコールを何10本も立案した経験があります。そこで、回復プログラム “12のステップ” にプロトコール風の体裁を採らせてみることにしました。“12のステップ” の原文の時制は過去形ですが、プロトコールらしく現在形に改めました。自分史を叙述した体験も加味し、実際には同時進行で起こりうることを想定して現実的な手順となるように改め、具体的な留意点も加えてみました。“12のステップ” の中では、ステップ4と5が特に重要だと思います。アルコール依存症の方には、被験者として “12のステップ” の再現性確認に是非挑んでいただきたいものです。科学的な用語としては不適当なものもあるとは思いますが、切にお許し下さい。


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        AAの回復プログラム・12のステップを実践する試験計画書

  1. 目的
   断酒を決意したアルコール依存症者を対象に、Alcoholics Anonymous(AA)の回復の
   プログラム「12のステップ」のうちステップ4~10を(順に)実行してもらい、酒害体
   験を叙述(言語化)することによって“心の落ち着き”を体得してもらうことを目的と
   する。
  2. 対象
   アルコール依存症者
  2.1 選択基準
   ○もはやアルコールには抗えない、断酒しかないと観念している人
    (つまり、ステップ1~3を満たす人)
   ○“底着き体験”を経験したと固く信じている人
   ○年齢、性別は不問とする。
   [参考]
    ステップ1:私たちはアルコールに対し無力であり、思い通りに生きていけなくなっ
     ていたことを認めた(人)。
     “We admitted we ware powerless over alcohol―that our lives had become
      unmanageable.”
    ステップ2:自分を越えた大きな力が、私たちを健康な心に戻してくれると信じる
     ようになった(人)。
     “Came to believe that a power greater than ourselves could restore us to sanity.”
    ステップ3:私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神の配慮にゆだねる決心
     をした(人)。
     “Made a decision to turn our will and our lives over to the care of God as we
      understood Him.”
  2.2 除外基準
   ○再び酒を飲めるようになれる(かもしれない)と考えている人
  3. 試験デザイン
   対照群を設定せず、非盲検とする。
   本試験のエンド・ポイント(達成目標)が被験者の“心の落ち着き”という主観的な心理
   状態であり、被験者本人の申告によるものでもあるので、申告後の被験者の認知行動を
   観察することが何よりも重視される。
  4. 手順及び方法
   被験者は以下の手順に従って自身の過去の思い出を叙述する。なお、ステップ4と5は
   同時進行で行ってもよいし、むしろ普通は同時進行で実行される。
  4.1 ステップ4を実践
   ステップ4:恐れずに、徹底して、自分自身の棚卸しを行い、それを表に作る。
    “Made a searching and fearless moral inventory of ourselves.”
  4.1.1 個人年表を作成
   被験者はアルコールに親しみ始めた時期以降の自身の個人年表を作成する。
  4.1.2 出来事ごとの叙述
   1)出来事を叙述する順番は年表にある年代順でなくてもよく、重要なものから始めて
     よい。
   2)個人年表中の思い出の中で、被験者自身の酒にまつわるすべての出来事それぞれに
     ついて叙述する。
   3)飲酒した誘因を他者の所為と責任転嫁している場合は、なぜ責任転嫁するような
     心理状態(マイナス感情)になったのか、被験者自身の性格が起因してないか、
     を被験者はよく省察する。
   4)被験者は思い出を叙述する作業の中で、自身が犯した酒害の原因を省察し、酒害を
     誘発したと思われる自身の性格上の欠点(思考の歪み)を特定する。
   【叙述する際の留意点
   ○被験者は的確な言葉と適切な表現に徹底してこだわり、誤魔化すことなく、
    ありのままを正直に
叙述すること。
   ○思い出ごとに、因果関係や繋がりに重点を置くこと。“どのような時に(when)”、
    “誰が(に)(who)”、“何処で(where)”、“何を(what)”、“なぜ(why)”、
    “どうした(how)”、の5W1Hを意識的に叙述すること。
    特に“なぜ(why)”については必ず言及すること
  4.2 ステップ5~7を実践
   ステップ5:神に対し、自分に対し、そしてもう一人の人に対して、自分の過ちの本質
    をありのままに認める。
    “Admitted to God, to ourselves, and to another human being the exact of our
     wrongs.”
   ステップ6:こうした性格上の欠点全部を、神に取り除いてもらう準備をすべて整え
    る。
    “Were entirely ready to have God remove all these defects of character.”
   ステップ7:私たちの短所(性格上の欠点)を取り除いてくださいと、謙虚に神に求
    める。
    “Humbly asked Him to remove our shortcomings.”
  4.2.1 スポンサーを選定
   被験者は本試験開始後ステップ5を実行するまでの間にスポンサーを選定し、就任を
    依頼する。
   【スポンサー選択の際の留意点
    スポンサーは、被験者とは個人的に利害関係のない第三者であり、専門職のソーシャ
    ルワーカーや医師など、被験者の相談に乗ってくれる人物で、被験者の体験を分かち
    合ってくれ、被験者を助言や指導できる人物が望ましい。
  4.2.2 叙述文書をスポンサーへ提示
   1)被験者は4.1で実行した叙述文書をスポンサーに提示する。
   2)被験者自身が、酒害を誘発したと思われる自身の性格上の欠点(思考の歪み)を
     未だ暴き切れていない気分が残っている場合は、被験者はその旨をスポンサーに
     相談する。
   3)相談結果に基づいたスポンサーの助言に従い、被験者は自身の思い出を再省察し、
     自身の性格上の欠点(思考の歪み)を含め叙述内容を改訂する。
   4)被験者は、酒害を引き起こした自身の性格上の欠点(思考の歪み)を認め、ありの
     ままに受け入れる。
  4.3 ステップ8~9を実践
   ステップ8:私たちが傷つけたすべての人の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合
    わせをしようとする気持ちになる。
    “Made a list of all persons we had harmed, and became willing to make amends
     to them all.”
   ステップ9:その人たちやほかの人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに
    直接埋め合わせをする。
    “Made direct amends to such people wherever possible, except when to do so would
     injure them or others.”
  4.3.1 埋め合わせ(謝罪)対象者の特定
   ステップ4で作成した叙述文書に基づいて、謝罪が必要と思われる人物を特定する。
  4.3.2 埋め合わせ(謝罪)を実行
   客観的に状況を判断し、被験者による酒害を謝罪しても差し支えないと判断した対象
   者に直接謝罪する。実施に際し、言葉によるよりも行動や態度による贖罪の方が適切
   な場合があり、慎重に考慮すること。
  4.4 ステップ10を実践
   ステップ10:自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認める。
    “Continued to take personal inventory and when we were wrong promptly admitted
     it.”
  4.4.1 不断に実践する省察
   心に思い当たる出来事ごとに、その都度省察を実践し、過ちがあれば、ありのままに
   受け入れる。開始時期はステップ5以降の何時でもよい。
  5. スポンサーからの助言・指導
   本試験中、スポンサーは被験者の求めに応じて助言や指導ができるものとする。
   ただし、スポンサーの方から積極的に助言や指導はしないものとする。
  6. 中止基準
   再飲酒した時点で本試験を中止する。
   中止後、改めて本試験を初めから開始してもよいものとする。
  7. 主要評価項目
   本試験のエンド・ポイント(達成目標)は、被験者が“心の落ち着き”を体得することで
   ある。本試験期間中、“心の落ち着き”を体得できた時点で被験者はスポンサーにこの旨
   を申告する。
   通常、ステップ4~5を実行中に“憑きモノが落ちた”感覚を実感するものである。
   “憑きモノが落ちた”感覚とは、何かに執着したり、固執したりして、雁字搦めの状態に
   自分を追い込んでいた“思い込み”の原因を悟り、解放された感覚のことである。
   “憑きモノが落ちた”ことにより情緒(情動)不安定から解放された状態の続くことが、
   “心の落ち着き”を体得できたことである。
  8. 安全性の評価
   本試験では何ら介入がないので、有害事象の調査は行わない。
  9. 試験計画立案責任者
   Alcoholics Anonymous(AA)
  (参考)
   ステップ11:祈りと黙想を通して、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを
    深め、神の意志を知ることと、それを実践する力だけを求めた。
    “Sought through prayer and meditation to improve our conscious contact with God
     as we understood Him, praying only for knowledge of His will for us and the
     power to carry that out.”
   ステップ12:これらのステップを経た結果、私たちは霊的に目覚め、このメッセージ
    をアルコホーリクに伝え、そして私たちのすべてのことにこの原理を実行しようと
    努力した。
    “Having had spiritual awakening as the result of these steps, we tried to carry this
     message to alcoholics, and to practice these principles in all our affairs.”
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 ステップ11~12については、“心の落ち着き(serenity)” を体得した各人に対して、社会的な運動としてAA活動をさらに広めるための心構えを述べた部分と解釈し、参考として掲示するに止めました。
                *      *      *    
 この記事を書いた当時は私の考えも生煮え状態で、回復の達成目標が “心の落ち着き(serenity)” にあると考えていました。時が経つにつれ、 “心の落ち着き(serenity)” は常時あり得る状態ではなく、むしろどんな時でも “平常心” を保っていられることこそ回復の意味するところ、と考えを改めました。多少のストレスを受けても柳に風と受け流す心のことです。「思考の歪み」という言葉も、可笑しな「思い込み」に代表される “認知のゆがみ” とした方がより適切だろうと思っています。
 “憑きモノが落ちた” 感覚は、誰にでも味わえるものではないとしても、恐らく誰もがAAのミーティングで経験できる “気づき” と置き換えれば当てはまります。体験談でよく語られる “気づき” とは専門家がいう自己洞察のことで、悩みを一瞬浄化してくれるカタルシスのことでもあります。これを繰り返し体験することで、早めにアルコールの残渣が抜けることも期待できると考えています。
(2016.12.12追記)


以下もご参照ください。
AA Twelve Steps and Twelve Traditions
“心の落ち着き(serenity)”が分かる


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