177条の第三者の範囲 |
最判平成18年1月17日 百選56事件、最判平成10年2月13日 百選59事件
【最判平成10年2月13日】
一 通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。 (一)登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない者は、民法一七七条にいう「第三者」(登記をしなければ物権の得喪又は変更を対抗することのできない第三者)に当たるものではなく、当該第三者に、不動産登記法四条又は五条に規定する事由のある場合のほか、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事由がある場合には、当該第三者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。 (二)通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、要役地の所有者が承役地について通行地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができ、また、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査することができる。したがって、右の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らないで承役地を譲り受けた場合であっても、何らかの通行権の負担のあるものとしてこれを譲り受けたものというべきであって、右の譲受人が地役権者に対して地役権設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反するものというべきである。ただし、例えば、承役地の譲受人が通路としての使用は無権原でされているものと認識しており、かつ、そのように認識するについては地役権者の言動がその原因の一半を成しているといった特段の事情がある場合には、地役権設定登記の欠缺を主張することが信義に反するものということはできない。 (三)したがって、右の譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないものというべきである。なお、このように解するのは、右の譲受人がいわゆる背信的悪意者であることを理由とするものではないから、右の譲受人が承役地を譲り受けた時に地役権の設定されていることを知っていたことを要するものではない。 |
・乙土地の一部が通路として利用されていることが物理的状況から客観的に明らか(使用の継続性と客観性要件)であること,Cがそのことを知っていたか,知りえたこと(認識可能性要件)という2要件をみたすときは,Cは通行地役権の設定を知らなかったときであっても,原則としてAの登記欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないとする。
・上記2要件が満たされれば,通行地役権の負担は適当な調査により容易に知る事ができる。仮にCが通行権の負担を知らなかったとしても,Cが登記欠缺を主張することは信義に反するというのである
→ 通行地役権の存在可能性が認識可能であれば、所有者に照会をすることで確認ができる。その可能性があるにも関わらず、照会せずに後から地役権の登記の欠缺を主張するのは禁反言に反する。
・通行地役権は,問題の土地を実際に見るだけで,その土地の一部を他人が通行の為に使用していることが明らかになる可能性が高い。また,通行地役権の負担も,Cにとってはそれほど重大なものではないと言える(所有権と異なり全面的に土地の利用が排されるわけではない)。Cは通行地役権を否定しても,隣地通行権の負担は避けられないであろうし,他方,通行地役権が認められない場合の不利益は非常に大きい。
【最判平成18年1月17日】
(1)時効により不動産の所有権を取得した者は,時効完成前に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,時効取得した所有権を対抗することができるが,時効完成後に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者に対しては,特段の事情のない限り,これを対抗することができないと解すべきである。上告人らは,被上告人による取得時効の完成した後に本件通路部分A ̄を買受けて所有権移転登記を了したというのであるから,被上告人は,特段の事情のない限り,時効取得した所有権を上告人らに対抗することができない。 (2)民法177条にいう第三者については,一般的にはその善意・悪意を問わないものであるが,実体上物権変動があった事実を知る者において,同物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、このような背信的悪意者は,民法177条にいう第三者に当たらないものと解すべきである。 そして,甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判断することができないものであることにかんがみると,乙において,甲が取得時効の成立要件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきであるからである。 (3)以上によれば,上告人らが被上告人による本件通路部分A ̄の時効取得について背信的悪意者に当たるというためには,まず,上告人らにおいて,本件土地等の購入時,被上告人が多年にわたり本件通路部分A ̄を継続して占有している事実を認識していたことが必要であるというべきである。 ところが,原審は,上告人らが被上告人による多年にわたる占有継続の事実を認識していたことを確定せず,単に,上告人らが,本件土地等の購入時,被上告人が本件通路部分A ̄を通路として使用しており,これを通路として使用できないと公道へ出ることが困難となることを知っていたこと,上告人らが調査をすれば被上告人による時効取得を容易に知り得たことをもって,上告人らが被上告人の時効取得した本件通路部分A ̄の所有権の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者に当たらないとしたのであるから,この原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。(差戻し) |
・時効による所有権取得の対抗について,占有が相当長期間継続していることを知っていた第三者は,取得時効の完成を知らなかったとしても悪意者と認めることができ,更に背信性が認められるならば,他人の登記欠缺を主張することができない旨示唆した。これは、第三者の悪意認定を緩やかに行うことを意味するが,悪意の認定が緩やかになされるのであれば,背信性の認定も緩やかになされる可能性はある。
→ 本件で言う,「多年にわたる占有継続」の認識云々は,「悪意」かどうかの認識対象のことをさしているので注意。
→ 「背信的」「悪意者」というためには、まずは「悪意者」であることが認定されることが大前提である。「悪意者該当性」→「背信性」、という認定になる。