建築途中の建物への第三者の工事と所有権の帰属 |
① 建物の建築工事請負人が建築途上において未だ独立の不動産に至らない建前を築造したままの状態で放置していたのに、第三者がこれに材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合においての右建物の所有権が何びとに帰属するかは、243条の規定によるのではなく、むしろ、246条2項の規定に基づいて決定すべきものと解する。 ↓ ② このような場合には、動産に動産を単純に附合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異なり、右建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当であるからである。 |
最判昭和54年1月25日 百選72事件
・土地と建物は別個の不動産であり、新築建物の所有権は土地提供者たる注文者が「附合」により取得するものではない、という原則が導かれる。
・原則は材料主義。
→ 請負人が材料を提供した場合は、請負人に帰属した後、「引渡し」によって注文者に移転する。但し特約による調整あり。
→ 注文者が提供した場合は、竣工と同時に注文者に帰属する。このケースでは、246条1項但書と同条2項は適用されないので注意。
→ 注文者と請負人が一部ずつ材料を提供した場合は、246条による。
→ 請負人が材料を全部提供していても、注文者に帰属するという遠く役がある場合には、建物所有権は完成と同時に注文者に帰属する。そして、注文者が受け多い代金の全部または大部分を建物完成前に支払済みである場合には、注文者帰属の特約の存在が推認される(最判昭和44年9月12日)。
・本判決は、246条2項の価格比較をする時点について、独立の不動産としての要件を満たしたときではなく、完成時としている(実際には、仮処分申請時とされたが、仮処分執行がなければ完成時であろうとされる)
建物の附合 賃借人のした増築 |
① 本件第三建物は、第二建物の一部の貸借人Bが昭和33年以前に自己の費用で第二建物の屋上に構築したもので、その構造は、四畳半の部屋と押入各一箇からなり、外部への出入りは、第二建物内の六畳間の中にある梯子段を使用するほか方法がないものであることは、原審が適法に確定した事実である。 ↓ ② そうとすれば、第三建物は、既存の第二建物の上に増築された二階部分であり、その構造の一部を成すもので、それ自体では取引上の独立性を有せず、建物の区分所有権の対象たる部分にはあたらないといわなければならない。 ↓ ③ たとえBが第三建物を構築するについて右第二建物の一部の賃貸人Aの承諾を受けたとしても、242条但書の適用はないものと解するのが相当であり、その所有権は構築当初から第二建物の所有者Aに属したものといわなければならない。 |
最判昭和44年7月25日 百選73事件
・本件そのものは、土地の賃貸人Xから賃借人Aに対して、賃借権の無断譲渡または転貸を理由に契約を解除し、土地の明渡しを請求した事件である。
→ 借地上建物の譲渡の賃借人Bが増築した第3建物を所有するものとすると、借地上建物の譲渡は借地権の譲渡または転貸を伴うという判例法理(大判明治33年12月17日)により、Aの借地権の無断譲渡・無断転貸が認められるので、Xからの解除が認められることになる(612条)
→ 第3建物が借家人Bの所有ではないとすると借地上建物の賃貸は借地権の譲渡・転貸を伴わないとする判例法理から(大判昭和8年12月11日)、Aには借地権の無断譲渡・無断転貸の事実が認められないことになるので、Xからの土地賃貸借契約の解除は認められない、ということになる。
・本判決は、以上の問題を、増改築部分の附合の成否という形で処理をしたが、信頼関係破壊の法理が進展している今日では、借家人による当該増改築が、地主・借地人間の信頼関係を破壊して借地契約の解除事由となるほどのものかによって判断すべきであろう。
・242条但書の「権原」には、不動産賃借権が挙げられることが多いが、本判決は、借家人に対する増改築に対する家主の承諾は242条但書の権原を与えるものではない、としている。
→ 従来の「附合」議論は、賃借人が付着物を採取・収去する農地や山林の賃借権を想定していたことによる。これに対して、借家人が増改築部分を「収去」できるとするのは相当ではない。したがって、建物の賃借権を242条但書の権原には含めないのが一般である。そもそも、242条但書の「権原」は、別個の所有権を認めるものである。その権原は、付着した動産に対する別個の所有権を認めるようなものでなければならない。しかし、建物の賃借権はそのようなものではない。また、家主の増改築に対する承諾は、増改築が用法遵守義務違反にならないための承諾に過ぎない。増改築部分に対する借家人の所有権を認めるものではないのである。従って,増改築の承諾が増改築部分の所有権を賃借人に帰属させる趣旨を含むときに限って賃借人は「権原」を有すると認めるべきであろう。この場合の「承諾」の内容は,単なる増築の承諾では足りず,増改築部分を所有するための土地利用権の設定についてまで含まれるものでなければならないであろう。
→ 242条は、元々は不動産に付着した有体動産の分離引渡しを動産の所有者から不動産の所有者に請求する紛争を想定していたのである。そこで通説は、分離復旧が事実上不可能、あるいは社会経済上著しく不利益であることを「附合」の基準通してきた。しかし借家紛争で問題となる事例は、増改築部分の分離引渡しや動産所有権の確認ではなく、増築部分に対する別個の占有権原の有無が問題となる。そこでは社会経済的な価値の保存とは異なる根拠が妥当しよう。