194条に該当する善意占有者の使用収益権 |
① 盗品又は遺失物(以下「盗品等」という)の被害者又は遺失主(以下「被害者等」という)が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が194条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である。 ↓ ② けだし、194条は、盗品等を競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人から買い受けた占有者が192条所定の要件を備えるときは、被害者等は占有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復することができないとすることによって、占有者と被害者等との保護の均衡を図った規定である。 ↓ ③ 被害者等の回復請求に対し占有者が194条に基づき盗品等の引渡しを拒む場合には、被害者等は、代価を弁償して盗品等を回復するか、盗品等の回復をあきらめるかを選択することができるのに対し、占有者は、被害者等が盗品等の回復をあきらめた場合には盗品等の所有者として占有取得後の使用利益を享受し得ると解されるのに、被害者等が代価の弁償を選択した場合には代価弁償以前の使用利益を喪失するというのでは、占有者の地位が不安定になること甚だしく、両者の保護の均衡を図った同条の趣旨に反する結果となるからである。また、弁償される代価には利息は含まれないと解されるところ、それとの均衡上占有者の使用収益を認めることが両者の公平に適うというべきである。 |
最判平成12年6月27日 百選67事件
・①占有者が占有中に受けた動産の使用利益は誰に、また、どの期間分が帰属すべきか(回復の訴え提起後は、占有者は被害者等に使用利益相当額を支払うべきか、という問題でもある)、②被害者等から代価弁償を受けることなく占有者が動産を返還した後であっても、占有者はなお代価弁償を請求できるか、またその履行遅滞となる時点はいつか、が争点となった。
・193条・194条に基づき善意・無過失の占有者から盗品等の回復をするまでの間、その動産の所有権は原所有者に残っているのか占有者に移転しているのかという問題がある。
原所有者帰属説 |
本権者が無権利者からの転得者(占有者)に対して、動産の占有を回復する関係として処理される。 → 使用利益の返還については、703条・704条または189条以下の適用の問題となるが、契約の巻き戻しの関係ではないので、189条以下の処理によるというのが一般。
→ 善意占有者は使用利益を取得できるが、回復の訴え提起後は悪意占有者として返還が義務付けられる(189条2項・190条1項) |
占有者帰属説 |
占有者は返還するまでは、所有者として使用利益を取得する。 |
・本判決は、占有者の使用収益権を認めており、占有者帰属説から説明しやすい。しかし、所有権の所在につき全く触れていない。占有者の使用収益権の根拠を、所有権の所在ではなく、194条の立法趣旨に求めている(被害者等と占有者の保護の均衡を、動産の回復は認めるが、代価弁償をさせることで図ろうとしている)。
・占有者の使用収益権の根拠を194条に求めるのであれば、193条においては、動産の回収の訴えの提起後は占有者は使用利益の返還を義務付けられよう。
・代価弁償の法的性質
→ 請求権として考える(先に占有者側から、動産を返還するから代価を支払え、という請求ができるわけではない)
→ 代価弁償債務はいつから履行遅滞になるのか。本判決は、期限の定めのない債務とし、占有者側から履行の請求を受けたときから遅滞の責めを負うべき(412条3項)とした。本件においては、反訴提起時に遅滞になるのではなく、当初から本訴における抗弁として代価支払請求をしていたとして、履行遅滞の時期を原審の認定時よりも前倒しにした。