新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

腫瘍の特徴:これが自然に治ると思いますか?

2011-06-05 13:39:01 | 医療

続けます

 

先程、コメントに「白血病は徹底的に食事療法をすれば完治するものなのでしょうか」と頂きまして、御友人の心配をされていました。

 

僕のような若輩(けど、血液専門医)が書くのも限界があるかと思いますが、少しだけ「腫瘍」というものに関して書いてみようと思います。

一般的に腫瘍には6つの特徴があると言います

 

1、増殖シグナルの自立性:増えろという命令がなくても、勝手に増え続ける

2、増殖抑制シグナルの回避:増えるな、止まれ…という命令に従わないで増え続ける

3、アポトーシスの回避:お前は異常になったので、死になさい・・・と自殺命令が出ても従わない

4、無制限増殖:(普通の細胞は)一定以上増えると老化するけど、癌細胞は老化しない

5、血管新生:(例えば)地震で道路(血管)が寸断されて、栄養が届かなくなっても優先的に道路を作らせる

6、浸潤と転移:家の敷地をはみ出して、隣の家の庭に小屋を建てたり、遠くに許可なく家を建てたりしない

 

そういう特徴があります。

 

例えば低悪性度リンパ腫の代表格、濾胞性リンパ腫という病気があります。これだけでなくて、他の低悪性度リンパ腫(マントル細胞リンパ腫など)もそうですが、bcl-2という遺伝子の異常があることが多いです。

こいつの特徴は「抗アポトーシス」。

すなわち「死になさい」と言われても死なない

通常悪性リンパ腫の発生には複数の遺伝子の異常がかかわるとされていますので、これだけで発症するわけではないと思いますが…なんとなくイメージできませんか?

 

「死になさい!」

と命令されても

「ほぇ?」

と、いって死なない。別に増える速度が速くなったわけではない。ゆっくり、確実に増えてくる。そんなイメージしませんか?

 

増殖シグナルが非常に高くなっている腫瘍といえば「慢性骨髄性白血病」でしょうか。

これはbcrとablという遺伝子が相互転座して、bcr-ablという遺伝子ができてしまいます。ablは増えなさい…という命令を出す物質ですが、これがずっと「増えなさい!」と命令し続けます

「増えろ~、増えろ~」

「増えろ~、増えろ~」

・・・・、まぁ、増え続けますね。

それゆえ慢性骨髄性白血病の細胞は最初は「増えなさい」と言われて増え続けているだけなので、正常な機能を持った細胞です。しかし、増えているうちに「分化」の異常も起きてしまうと「急性転化」と言って、急性白血病の状態になってしまいます。

同じような「チロシンキナーゼ」というものが関連したものでは上皮細胞増殖因子(EGF)は有名ですよね。

 

増殖抑制シグナルに関するものとして有名なものはRb遺伝子やp53などでしょう。

ここら辺は「がん抑制遺伝子」と呼ばれているグループで遺伝することがあります。がん遺伝子が遺伝したらまともな発生はできないでしょう(増え続けるのですよ。細胞の塊にしかならないでしょう)から、遺伝するものはがん抑制遺伝子だと思います。

Rb遺伝子は細胞周期をコントロールします。p53もそうですが、細胞周期のコントロールができないということは「異常が生じた細胞」をストップさせて修復したりできないということです。

 

すなわち、通常なら腫瘍が発生するちょっと前の段階で

君、君。君の遺伝子には異常が発生している。ここで修理して、修理できなかったら死になさい。修理できたら、また頑張りなさい

と、言われています。

最近放射線の話題が出ていますが、放射線などで細胞にストレスがかかるとp53蛋白が活性化して、専門的に言うならば「細胞周期の抑制」「DNA修復」「アポトーシス」などに関与します

 

 

無制限増殖というのは増え続けることができる…ということですけど、普通の人は老化しますよね。テロメアという細胞が増殖するときにだんだん減っていくものがあります。

通常はテロメアが減少して、短くなってくると細胞は死ぬようにできています。造血幹細胞など一部の幹細胞と言われているものにテロメアーゼという酵素があって、これを回復させているのですけど…同じような働きがあります。

がんの90%にテロメアーゼ活性があるという報告(悪性腫瘍の検体100のうち90、良性腫瘍検体50には活性上昇は一つも認めなかった)からはこれによる「不死化」があると思われます。

もしかすると自然に消滅したというごく一部の方々はこの「テロメアーゼ活性」がなかった10%程度の人なのかもしれませんが、確認のしようもないですね。

普通は10%に期待して手術しないというのもないでしょうし・・・・。治ったら、それで終わりでしょうから・・・。

 

血管新生に関しては理屈は説明するまでもないです。因みに有名な機序としては血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などがあり、これを抑える薬として大腸癌で使用されているアバスチンなどがありますね。

因みにサリドマイドにも血管新生抑制作用があって、これが奇形児が発生した原因です。

 

転移と浸潤はもういいですよね。理屈は書けますけど。

 

今、書いてきたような機序に加えて、免疫学的な問題もあります。今まで書いてきたのは「癌細胞の側」の特徴です。

 

例えば癌細胞を駆除する機構に問題があれば、もしくは癌細胞を見つけて駆除する免疫担当細胞から逃げる機構をもったら(いろいろあります)当然ながら腫瘍を駆除することはできません

 

自然に治る可能性というのはかなり低いと思います。もちろん奇跡のようなことが起こる患者さんはいると思います。それは否定しません。

 

僕も外来で高齢者AMLの患者さんに内服抗癌剤+腫瘍熱を抑えるためのステロイド・・・で腫瘍量が減少し、輸血依存からも回復するなどの奇跡を診ています。

しかし、奇跡的なことは奇跡的だから驚くのであって、奇跡が起こることに期待して診療に当たる医師はいません。標準的なことができるなら標準的なことを行っていきます。

 

ですから、過去にも標準的な治療でいろいろやっても「もはや完治は難しい」という患者さんに限って、免疫療法や「食事療法」などをやりたいという希望を否定はしませんでしたその希望は患者さんが長生きするのに必要な希望だと思いましたので。

人の心というのは大事だと思っています

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なかのひと 

だいたい、びっくりするようなことが起きる人は「前向きに生きようとして、毎日を一生懸命に歩んでいる人達。毎日を楽しんでいる人達」のような気がするので。

 

ですから、絶対に民間療法を否定をするつもりはないです。しかし、標準的なことを行ったうえで…の方がよいと思います

 

民間療法というのは「根拠がない」から、民間療法なのです。だれそれに効果がありました・・・というのは根拠とは言いません。症例報告と言います。

医療現場においても「根拠がない」ことをやらざるを得なくなるときは多々あります。しかし、基本的な治療は「治験」などに基づいた根拠のあることをやっています

 

民間療法で治った患者さんがいる。それは大いに結構なことだと思います。しかし、上記のような発生機序がある「悪性腫瘍」の患者さん、勝手に治る可能性があるとすれば

1、テロメア活性がない

2、実は免疫抑制が原因でなったタイプ(MTX関連EBV-LPD、PTLDなど)

3、免疫学的にたまたま使用した食物などが、その腫瘍(患者個人の腫瘍)に対してたまたま免疫活性を上昇させた

(きのこの抗原がたまたま腫瘍抗原と交差したとかですね)

そんなところではないかと思います。

 

それゆえ、まずは標準的なところを追求していくことをお願いしたいと思っています。

 

それでは、また。

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アウレーリウスやセネカを見習えと言いたい:政局の話

2011-06-05 12:58:10 | Weblog

こんにちは

 

相変わらずの毎日ですが、最近は僕の担当の入院患者さんの数を減らしている(それでも12名はいますが)ので時間的には余裕があります。

異動の可能性がある上に、同種移植を計画している人が多いので…僕と入れ替わりに来るだろう後輩や患者さんのことを考えると、「質も量も多い」ではちょっと大変だと思い・・。

 

かといって、人事は僕の関係のないところで起こってますしね。去年もいろいろ計画を変更することになったので、今は早々といろいろな調整をしないように見極めをしています。

 

さて、この1週間…政治はいろいろと混乱しましたね。あまり政治的な話を書くつもりはないのですが、「自省録」や「人生の短さについて」なども好きなので、こういう偉人(古代の政治家)と思わず比べてしまいます。

 菅直人首相は4日夜、民主党の石井一副代表と首相公邸で会談し、「今は復旧のために最大限努力し、一定のめどが付けば職を辞したい」と述べ、東日本大震災からの復旧対策に道筋が付いた段階で退陣する意向を明言した。首相は具体的な時期には言及しなかったが、政権中枢では今夏までの早期退陣で事態を収拾する動きが拡大。首相はこれ以上の混乱を回避するためには退陣を明言する必要があると判断したとみられる。党内では今後、「ポスト菅」をめぐる動きが加速しそうだ。
 首相は2日の段階では、東京電力の工程表で来年1月が目標とされる福島第1原発の原子炉安定化まで政権を担う考えを示唆していた。しかし、4日の石井氏との会談では、政権の重要課題として2011年度第2次補正予算編成や特例公債法案の成立を挙げつつ、原発事故収束には触れなかった。石井氏は会談後、「首相は(地位に)恋々としがみつくことは考えていない」と語った。
 民主党の安住淳国対委員長は記者団に「首相は早晩、重大な決断をすると思う。夏を区切りにするというのは一つある」と指摘。首相退陣と引き換えに、11年度予算執行に不可欠な特例公債法案などの成立へ野党の協力を取り付けたいとの考えを示した。
 また、首相を支える立場である枝野幸男官房長官と岡田克也党幹事長もそれぞれ「首相はそんなに長く居座る気持ちはない」などと発言した。
 ただ、辞意を表明した首相が山積する中長期的課題に取り組むのは困難。自民党は「レームダックの首相では物事が進まない」としており、退陣の時期が早まる可能性もある。 

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 民主党の岡田克也幹事長は5日、NHKの討論番組などに出演し、菅直人首相の退陣時期に関し、「多くの人の思いとかけ離れれば、お辞めくださいと言うつもりだ」と述べ、首相が引き延ばしを図った場合は退陣を進言する考えを表明した。ただ、「(退陣が)いつなのか言えば、たちまちレームダック(死に体)になる」とも語り、具体的な時期の明言は避けた。
 これに対し、自民党の石原伸晃幹事長は「首相には一日も早く辞めてもらいたい」とした上で、「月内(に退陣すべき)ではないか」と述べ、6月中の退陣を要求した。
 また、岡田氏は今後の与野党協力について「(東日本大震災からの)復興、税と社会保障という大きなテーマを乗り越えることが大事だ。大連立までいった方がいい」との見解を明らかにした。参院では民主党も、自民、公明両党も過半数に足りないことから、大連立を組んだ場合は2013年の次期参院選まで続く可能性があると指摘した。
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 枝野幸男官房長官は3日午後の記者会見で、菅直人首相が退陣時期を明言せず、与野党から反発が出ていることについて「国民に心配をかけ、政治不信を強める方向になっている。内閣の一員として申し訳ない」と陳謝した。
 首相の退陣時期をめぐっては、2日に首相と会談した鳩山由紀夫前首相との間に食い違いが生じており、枝野長官は「二人の会談が端緒」として再会談を含め対立解消に努めるよう要請。「二人の間の心情的な溝が縮まることを望んでいる」と語った。 
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 菅直人首相は3日午後の参院予算委員会で、2日の内閣不信任決議案採決前の鳩山由紀夫前首相との会談で退陣に言及したかどうかを問われたのに対し、「何かの条件の下で約束をしたかと言えば、そういう約束に全くなっていない」と述べた。みんなの党の小野次郎氏への答弁。
 鳩山氏は、首相が月内にも退陣するとの認識を示し、早期退陣を否定した首相を「ペテン師」と批判。首相と鳩山氏の主張のずれが一段と鮮明になった形だ。
 また、公明党の谷合正明氏が「首相は鳩山氏をだまし、不信任案否決に利用した」と追及したのに対し、首相は「決してどなたもだましたり裏切ったりしたという思いはない」と反論した。 
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なんか、張り付けていて馬鹿みたいに感じてきたので…そろそろやめます。
自省録を書いたマルクス・アウレーリウスはローマ皇帝という立場で政治・軍事などの政務に携わる中、少しでも自分の時間を見つけて・・自己内省をしていたといいます。
本来、そういう時間を多く取りたいと望んでいた人です。
セネカも同じような話をしています。
セネカは友人にあてた手紙の中で「人生の短さ」を語っていますが、その中で公職につき…その地位を目指して頑張っていた人たちが夢をかなえた後に、自分の時間があまりにもなくなることに気が付き「今年の任務はまだ終わらないのか?」「もう退任することにならないだろうか?」「休みはいつ取れるのだろうか?」と、言い続けてこの地位から離れることを望むと書いています。
これがおそらくその地位を目指してやってきた、「真面目な公僕」の姿なのでしょう。
いろいろ意見はあるかと思いますが、僕は小泉純一郎元首相をそういう意味で「公僕の姿なのだろう」と評価しています。
一番上の地位にしがみつきたいとは普通は思えない…と思います。
一番上の地位につけば…その「プレッシャー」と「やるべきことの多さ」に「休みのなさ」に驚き、そして「小泉元首相」のように明確な目的がなければ…なかなかやり遂げられないのではないかと思うのです。
人のために尽くすというのは・・・おそらく人間の時間の使い方の中でもっとも素晴らしいものの一つだと思います。
多くの人間が(僕も含めてですね)時間を無駄にしている中で、本当に有意義な時間を過ごしている人がどのくらいいるのだろうかと思ったりします。
小泉元首相って今何をしているんですかね?
たまに話を聞くことがありますが、何か趣味でもしながら悠々と過ごしているのでしょうか?
話が脱線していますね。
僕は「政治家」というのは人のために尽くすからこそ素晴らしいと思っています。その最たるものが「首相」という地位だと思うのですが、日本人すべてのために身命を投げ言って尽くせる時間は…どう考えたって限られています
日本人すべてのためにいろいろなことを考えていれば・・・今回であれば被災地の人が主体でしょうけど、それを考えていれば今の日本の政界で起こっているような茶番劇は生じてこないのではないかと思っています。
そういう意味で…ほぼすべての政治家に幻滅します
おそらく政治の頂点を目指し、多くの人のために尽くそうとして活動していれば・・・それはあるところで限界を迎えると思っています。
それは実は医者も同じだろうと思ったりもしていますが。
僕らはまだ範囲が少ない。患者さんのために身命をなげうって今は働いていますが、自分の時間をすり減らしているというのはいつでも自覚するところです。
その限界が来るのは当たり前のことで、哲学者ならずともわかるというものです。
次の衆議院選挙ではおそらく民主党は負けるのでしょうけど・・・・というか、勝ち負けなんかは二の次ですね。薩長同盟じゃないですけど、今は「日本のため」に古い体制を壊すために「過去のしがらみ」をすてて動いていかなくてはならないのでしょう。
もうひとつ書きますと、セネカは
多くの人は自分の能力が低下してきても、働き続けたがるもの
と言っています。
おそらく・・・働き続けることにしか・・アイデンティティを見いだせないとのでしょうけど(自分を確立させることができない)、今も昔も同じなんでしょうかね。
むしろ、今の方がひどいものです。
65歳過ぎたら…悠々自適でもいいと思うのですけどね。アドバイザーとして存在して、多くの人が自分の好きな時に好きなことをして、人のために尽くせるときに人のために尽くせるようなアイデアを提供する。
まぁ、65歳という年齢には意味はないですけどw
では、また。
コメント
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