続けます
先程、コメントに「白血病は徹底的に食事療法をすれば完治するものなのでしょうか」と頂きまして、御友人の心配をされていました。
僕のような若輩(けど、血液専門医)が書くのも限界があるかと思いますが、少しだけ「腫瘍」というものに関して書いてみようと思います。
一般的に腫瘍には6つの特徴があると言います
1、増殖シグナルの自立性:増えろという命令がなくても、勝手に増え続ける
2、増殖抑制シグナルの回避:増えるな、止まれ…という命令に従わないで増え続ける
3、アポトーシスの回避:お前は異常になったので、死になさい・・・と自殺命令が出ても従わない
4、無制限増殖:(普通の細胞は)一定以上増えると老化するけど、癌細胞は老化しない
5、血管新生:(例えば)地震で道路(血管)が寸断されて、栄養が届かなくなっても優先的に道路を作らせる
6、浸潤と転移:家の敷地をはみ出して、隣の家の庭に小屋を建てたり、遠くに許可なく家を建てたりしない
そういう特徴があります。
例えば低悪性度リンパ腫の代表格、濾胞性リンパ腫という病気があります。これだけでなくて、他の低悪性度リンパ腫(マントル細胞リンパ腫など)もそうですが、bcl-2という遺伝子の異常があることが多いです。
こいつの特徴は「抗アポトーシス」。
すなわち「死になさい」と言われても死なない。
通常悪性リンパ腫の発生には複数の遺伝子の異常がかかわるとされていますので、これだけで発症するわけではないと思いますが…なんとなくイメージできませんか?
「死になさい!」
と命令されても
「ほぇ?」
と、いって死なない。別に増える速度が速くなったわけではない。ゆっくり、確実に増えてくる。そんなイメージしませんか?
増殖シグナルが非常に高くなっている腫瘍といえば「慢性骨髄性白血病」でしょうか。
これはbcrとablという遺伝子が相互転座して、bcr-ablという遺伝子ができてしまいます。ablは増えなさい…という命令を出す物質ですが、これがずっと「増えなさい!」と命令し続けます。
「増えろ~、増えろ~」
「増えろ~、増えろ~」
・・・・、まぁ、増え続けますね。
それゆえ慢性骨髄性白血病の細胞は最初は「増えなさい」と言われて増え続けているだけなので、正常な機能を持った細胞です。しかし、増えているうちに「分化」の異常も起きてしまうと「急性転化」と言って、急性白血病の状態になってしまいます。
同じような「チロシンキナーゼ」というものが関連したものでは上皮細胞増殖因子(EGF)は有名ですよね。
増殖抑制シグナルに関するものとして有名なものはRb遺伝子やp53などでしょう。
ここら辺は「がん抑制遺伝子」と呼ばれているグループで遺伝することがあります。がん遺伝子が遺伝したらまともな発生はできないでしょう(増え続けるのですよ。細胞の塊にしかならないでしょう)から、遺伝するものはがん抑制遺伝子だと思います。
Rb遺伝子は細胞周期をコントロールします。p53もそうですが、細胞周期のコントロールができないということは「異常が生じた細胞」をストップさせて修復したりできないということです。
すなわち、通常なら腫瘍が発生するちょっと前の段階で
「君、君。君の遺伝子には異常が発生している。ここで修理して、修理できなかったら死になさい。修理できたら、また頑張りなさい」
と、言われています。
最近放射線の話題が出ていますが、放射線などで細胞にストレスがかかるとp53蛋白が活性化して、専門的に言うならば「細胞周期の抑制」「DNA修復」「アポトーシス」などに関与します。
無制限増殖というのは増え続けることができる…ということですけど、普通の人は老化しますよね。テロメアという細胞が増殖するときにだんだん減っていくものがあります。
通常はテロメアが減少して、短くなってくると細胞は死ぬようにできています。造血幹細胞など一部の幹細胞と言われているものにテロメアーゼという酵素があって、これを回復させているのですけど…同じような働きがあります。
がんの90%にテロメアーゼ活性があるという報告(悪性腫瘍の検体100のうち90、良性腫瘍検体50には活性上昇は一つも認めなかった)からはこれによる「不死化」があると思われます。
もしかすると自然に消滅したというごく一部の方々はこの「テロメアーゼ活性」がなかった10%程度の人なのかもしれませんが、確認のしようもないですね。
普通は10%に期待して手術しないというのもないでしょうし・・・・。治ったら、それで終わりでしょうから・・・。
血管新生に関しては理屈は説明するまでもないです。因みに有名な機序としては血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などがあり、これを抑える薬として大腸癌で使用されているアバスチンなどがありますね。
因みにサリドマイドにも血管新生抑制作用があって、これが奇形児が発生した原因です。
転移と浸潤はもういいですよね。理屈は書けますけど。
今、書いてきたような機序に加えて、免疫学的な問題もあります。今まで書いてきたのは「癌細胞の側」の特徴です。
例えば癌細胞を駆除する機構に問題があれば、もしくは癌細胞を見つけて駆除する免疫担当細胞から逃げる機構をもったら(いろいろあります)当然ながら腫瘍を駆除することはできません。
自然に治る可能性というのはかなり低いと思います。もちろん奇跡のようなことが起こる患者さんはいると思います。それは否定しません。
僕も外来で高齢者AMLの患者さんに内服抗癌剤+腫瘍熱を抑えるためのステロイド・・・で腫瘍量が減少し、輸血依存からも回復するなどの奇跡を診ています。
しかし、奇跡的なことは奇跡的だから驚くのであって、奇跡が起こることに期待して診療に当たる医師はいません。標準的なことができるなら標準的なことを行っていきます。
ですから、過去にも標準的な治療でいろいろやっても「もはや完治は難しい」という患者さんに限って、免疫療法や「食事療法」などをやりたいという希望を否定はしませんでした。その希望は患者さんが長生きするのに必要な希望だと思いましたので。
人の心というのは大事だと思っています
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だいたい、びっくりするようなことが起きる人は「前向きに生きようとして、毎日を一生懸命に歩んでいる人達。毎日を楽しんでいる人達」のような気がするので。
ですから、絶対に民間療法を否定をするつもりはないです。しかし、標準的なことを行ったうえで…の方がよいと思います。
民間療法というのは「根拠がない」から、民間療法なのです。だれそれに効果がありました・・・というのは根拠とは言いません。症例報告と言います。
医療現場においても「根拠がない」ことをやらざるを得なくなるときは多々あります。しかし、基本的な治療は「治験」などに基づいた根拠のあることをやっています。
民間療法で治った患者さんがいる。それは大いに結構なことだと思います。しかし、上記のような発生機序がある「悪性腫瘍」の患者さん、勝手に治る可能性があるとすれば
1、テロメア活性がない
2、実は免疫抑制が原因でなったタイプ(MTX関連EBV-LPD、PTLDなど)
3、免疫学的にたまたま使用した食物などが、その腫瘍(患者個人の腫瘍)に対してたまたま免疫活性を上昇させた
(きのこの抗原がたまたま腫瘍抗原と交差したとかですね)
そんなところではないかと思います。
それゆえ、まずは標準的なところを追求していくことをお願いしたいと思っています。
それでは、また。