ART&CRAFT forum

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プライスプリット展2nd報告

2017-09-14 10:40:12 | プライスプリット展
◆ プライスプリット展2会場風景
会期:2007.4.23(月)~28(土) 会場:千疋屋ギャラリー

2007年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 45号に掲載した記事を改めて下記します。

プライスプリット展2nd報告


この4月に、前回から約一年半を経て、第二回プライスプリット展を第一回展と同じ千疋屋ギャラリーで開催することができました。当研究所のセミナーで出会ったメンバーを中心に、島貫先生を囲んでの隔月の研究会も軌道に乗ってまいりました。織、バスケタリーなどの他分野での経験の長いメンバー達は、それぞれの分野とプライスプリットを合わせて研究する事で独自の作品を生み出そうとしています。
プライスプリットは紐やロープの撚りを割って通していくという単純な技法ですが単純なだけに応用できる範囲が広く、まだまだ何か出てきそうです。亀の歩みの私たちに辛抱強くご指導くださる島貫先生をはじめご来場くださった皆さま、応援してくださっている東京テキスタイル研究所の三宅氏に改めて感謝したいと思います。
これからも研究会を重ねながら制作を続け、次回展覧会では更なる展開をお見せできるように一同励んでまいります。


雨森浩子 Hiroko Amemori
cross overは、プライ・スプリットによる、ある規則性を持たせたユニットを組んでいくことによって構成した作品です。1つ1つは単純で幾何学的な構造体でも連続性をもたせ組み合わせることによって広がりのあるかたちへ変貌していくことを意識して制作しました。そして見る人にさまざまなイメージを喚起させることを意図しました。プライ・スプリットは大変シンプルで素朴な技法であるができあがった組織・構造は大変しっかりしているので今後は実用的なものも制作していきたいです。今回「インド・ラバーリ社会の染織と儀礼」の著者上羽陽子氏に作品展を御覧頂きました。現在もラバーリ族の男性たちは、山羊の毛や身のまわりにある繊維を撚ってプライ・スプリットのらくだの腹帯を作っていると伺い、ますます興味を深めました。

◆cross over

杉山佳子 Yoshiko Sugiyama
 プライスプリットでは、作業中にそのまま途中で手を離しても組織が崩れることもなく、安定した平面を保ち続ける。その面に折り目をつけて曲げようとしても、まったくできない。しかし、安定した組織の均衡を破ってみると、平面が自ら鋭角に曲がってくる。糸が勝手に立ち上がったという趣が不思議で面白く、今回は角度をつけた形にしてみた。組織が平面上でジグザグに動くのに加えて、それが空間に起き上がってくれば、できてくるかたちは、 無限にある、かもしれない。

◆北へ

田中通子 Michiko Tanaka
 プライスプリット技法との出会いから、第1回作品展を開き、その後も島貫先生を中心にグループの方々と共に研究会を重ねてきました。その成果を今年第2回作品展で発表する機会を持つことが出来ました。
 今回私は作品創りをする上で、テーマを「新しい素材で」、「糸創りから形あるものを」、「表現の自由で立体を」などの可能性を作品展開に取り入れ、模索してみました。 「造形Ⅰ」の作品は異素材のステンレス線を用い、柔らかな光をもつ魅力が表現出来るようにと制作しました。「造形Ⅲ」の作品は二色の糸を四本撚りの糸に創り、表と裏の異なる色を表現し、立体作品に展開しました。それぞれの素材と色相のもつ魅力を表現する難しさを今回の作品をとうして学び、反省と共にこれからもこの技法のもつ魅力をひきだせる新しい作品が展開できるように研究を重ねたいと思っています

◆zokei Ⅲ

原すがね Sugane Hara
 テキスタイル素材の魅力は、曖昧ながらも空間を支配する力を持つところだが、そのフレキシブルなところが物足りなく感じる時もある。その点プライ・スプ リットは織組織のようにしっかりとした緻密な構造による可能性と、自由な造形性を併せ持っている。それらを活かし、今回の展示作品には用途性を持たせる ことにした。工業製品のロープで制作したアクセサリーと綿ロープを漆仕上げにする作品を試みた。プライ・スプリットの作品を型取りした陶器を焼く作業 は、残念ながらまだ成功していないが、いずれ「縄文土器」ならぬプライ・スプリット文の作品を完成させたい。自分の中に新しい面を発見できるこの技法へ の興味は尽きない。

◆黒い果実(ブローチ)

水谷恵子 Keiko Mizutani
 今回の私の作品は、前回のプライ展で出品した作品の延長にあるもので、より大きくユーモラスになるように展開しました。織りの制約では表現できない形を、プライによってどれだけ自由に形にすることが出来るかが今回のテーマでした。これからのプライの可能性としては、また新たな形に取り組んでみたいと思っていますが、少しの形の面白さの発見が次の可能性へと繋がり広がって行くのではないかと思います。其の枝葉はプライ以外の表現をプラスする事もあるかもしれませんが・・・今はまだプライの制約の中の可能性を見つけているところかと思っています。

◆green circle 共生


石橋みな美 Minami Ishibashi

 編む技法とプライスプリットとを組み合わせて制作してみた。まだまだ試作である。
素材について考える必要があるし技法の組み合わせ方についてももっと複雑にしなければならない。
まだまだ面白い事が眠っていそうである。焦らず追及していこうと思う。

◆……

高宮紀子 Noriko Takamiya
 PSは『通し、通され』という二つの技術だけというのが面白く、その意味、機能を形にしたいと考えた。『通し、通され』というのを、お互いの動きや方向という点で考えてみると、『通し』の場合は動きに余裕があるが、『通され』の場合はそれまでの動きが止まる、このことを構造として捉えたいと思い、組織の間を長く開け、20mのきつく撚ったロープの両端を動かして『通し、通され』を繰り返した。翌朝、形を見てみると、少し動いている! 一晩の間にお互いのエネルギーが関係して少し動いたようだった。全体の形は限られたスペースの中で『通し、通され』の関係を繰り返した結果の形となっている。偶然か必然か、どちらともいえる形だろうか。

◆Twined connection

林 真紀 Maki Hayashi
 数年前、知人に韓国のちょ麻をいただきました。いつかこの糸を使い作品を制作したいと思いつつなかなか実行できませんでした。今回、織りとプライ・スピリットの技法を組み合わせ、風が通りぬける透けた作品をイメージした時、この糸を使ってみようと思いました。作品 uf ちょ麻の扱いに苦戦しながらも小さな正方形の布ができ、赤木のふし糸で織った布と重ねました。三方の房に撚りをかけ、そこに別に用意した2種の撚りをかけた糸を足し、プライをしました。この時に糸の違いによって生じる膨らみ、縮みの面白さが現れ、思いもよらない造形が生まれました。作品 uff 平織りの布の透明感を生かし、撚りを開いて通す間隔をあけることで織り布と一体となり、軽快な作品になりました。

◆uff

星野泰子 Yasuko Hoshino
 今回試みたことのひとつは、手漉き和紙を積層することである。これは、フェルト造形の時に何層も積層した経験から着想したものだ。積層した和紙をテープ状に切って撚りをかけると、和紙にシワができて立体になってゆく。撚りヒモ同士でプライ・スプリットを行うと、更に複雑なシワが生まれた。切り込みの穴の部分の変形と、ヒモが組まれていく部分の変形の対比が面白い。
 もうひとつは、リンキングである。編み袋のリンキングのように組み目が動くものとは異なり、プライ・スプリットのリンキングは組み目が固定されて、空間のドローイングのような楽しさがあった。緻密な面の構成や、ドローイング等様々な可能性がありそうだ。

◆Lost and found

渡辺由紀子 Yukiko Watanabe
 プライスプリットの魅力は撚りのある糸であれば、どこでも作業できること、道具も使わずに持ち運んで行え、平面も立体もひも状ののものも、袋もいろいろな形を作ることができることです。
特に織物をやっていたことのある人は道具とスペースを必要とする作業から開放され、平面から立体への変化ができ、糸の動きの自由さから魅力を余計に感じられると思います。
しかし、なかなか思いどうりにはたやすく作らせてくれません。造形の可能性は限りなく広く、素材との組み合わせなど、これから探っていきたいと思っています。

◆花びらのかご


松岡るみ  Rumi Matsuoka



◆さだまらないもの


●プライスプリット(Ply-Split)とは
 インド北西部の遊牧民に古くから伝わる、この地域独特の技法です。撚り合わせた繊維(主に山羊)の撚りの間にもう一本通し入れる「撚り割り」技法で、この地方ではラクダの腹帯に用いられてきました。実用的な面と、お祭りに用いられる等装飾的な側面を持っています。現代ではその技法を活かし、世界各地で様々な素材により造形作品が生まれています。日本では嶋貫昭子先生が先駆者として研究・制作発表なさっています。



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