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「Basketry Series 」  関島寿子

2013-02-01 09:21:08 | 関島寿子

Dsc04734 ◆関島寿子 作


1983510日発行のTEXTILE FORUM NO.2に掲載した記事を改めて下記します。 


Basketry Series ① 


バスケタリーについて

  関島寿子 


 かごを作る事を英語でbasketryといいます。1960年代終わりからアメリカでは、かごを繊維素材を使った造形だと解釈して、伝統的な作り方とは異なった考えで、かごを作るようになり、現在、バスケタリーという言葉にはその新しいニュアンスが含まれています。カリフォルニア大学のエド・ロスバックによって出されたこの考えが、技法・素材・用途の高度に完成された伝統的結合を解き放した為、その後多くの人々が、造形的な可能性を見直すようになりました。


 かごは、もともと容器として作られたので、内側に巧みに空間が作られています。身近かな素材にあまり加工をLないで素直に使っています。この空間の取り込み方や、種々の手法で組み立てられた繊細の動き、素材感が魅力です。編組のしくみや素材は、パターンやテクスチュアばかりでなくフォーム全体にも有機的なかかわりがあり、表現媒体としてのかごの可能性が特長となっています。


 さて、私は魚とりのかご((ふご))が好きです。どれも機知に富んだ美しい姿ですし、今夜のおかずを把える意気込みがあふれていて、高度な技術の他に、魚との知恵比べ、編む材料との協力等、人の心の動きや自然とのつながりをとてもよく表わしているからです。この様に、かごが豊かな表情を持っているという事はとりもなおさず、私達の表現したいものをかごに托する事ができる事だと思います。畚(ふご)や種々のかごを作った工人の生々しい想念と、それを静かに押えて、洗練された機能的物体に高め作り上げた技と習性に学んで、各自の個性の中に、現代人の美意識や感情を編み出せたらすばらしいと思います。


 今も私達の身辺にある日本の民具のかごや世界各地のかごの、磨き抜かれた無理のない美しさには大いに心を動かされるものの、それを見て少し淋しく思うことがあります。かってそれらは生産用具や日用品として人々の生活に抜き差しならぬつながりを持っていたはずです、それに比べ現代では、物と人の関係は、使う立場にしろ、作る立場にしろ、何か生ぬるいつながりしかないという気がするからです。ですから、ここで、昔からの技法に含まれているメッセージ-素材に対する愛しみの心、ものについての健全な思想、生き方そのものを現在とのかかわりで検討してみる必要があると思います。この意味で、かご作りには未知の世界が広がっていると言えるでしょう。



19831210日発行のTEXTILE FORUM NO.34に掲載した記事を改めて下記します。 


Basketry Series

 ② 


分類と定義           


 Basketry(かご)及びそれを作る技法・組織業ふくめて英語でBasketという。組織構造上から見て、かこがテキスタイルの一部であることは多くの人が認めるところである。しかるに、アイリン・エマリーの書いた、過去に存在した世界中の繊維品の主要組織構造の研究書によれば、特にかごだけに見られるという組織上の特殊例は極めて少なく、素材の特殊性によって派生した、他にも見られる組織構造の亜種、又は異相である場合がほとんどである。

 

かごはテキスタイルそのもの。


 世界各地に共通してみられる最も代表的なかごの構造は、プレイティング、コイリング、トワイニング、ウィッカワークの四つであると一般に考えられているが、この四つでさえ、それを基礎として他の様々のヴァリェーションが出来たというような、発生の系譜をふまえたものではなく、分類不可能な程の多彩な編み方の中から共通する点を拾って、大ざっぱに括弧でくくったのであって、はみ出た部分がかなり大きい。更に、かごだけに特有のものと考えられがちだが、他の繊維工芸の分野のものと同じで、呼び方が異なるだけのものも多い。従って、この四つは、構造の厳格な分野というよりは、素材の特殊性、立体性を持つというかご自体の形状の特性をも、あいまいに含めた技法・構造・形態上の名称と考えるべきであろう。ちなみに、レース組織とかご組織が多くの共有部分を持つことは、前のエマリーも特に指摘しているし、ブレイディング等、全く機を使わぬ技法や、多くの原始機による織物に見られる構造が、かごにも存在するのである。


 このことから、逆に、かごがテキスタイルそのものであることが明確になると同時に、単に組織論だけから、かごを捕らえて行くことが出来ないこともわかる。


かごとは何かをみんなで考えたい。


 では、一体かごとは何か。はっきり云って私には、数行では答えられない。ただ、組織構造だけから定義して行くのは意味がなく、他の繊維品の構造と関連づけて考え、それ以外に、素材としての植物特性の利用や、用途や技術の民族学的地域性や普遍性、純粋に物体としての美質等様々の相を見ていく時、初めて、各領域が重なりあって、一段と色が濃くなる部分が、かごの領域なのだと言える。


 これを証明するのに、私の微力では一つ一つの事例を丁寧に検討し、提出する以外方法がない。その積み重ねを手がかりに皆でかごとは何か考え、自ら手を染めて試めして行く誌上セミナーとして稿を進めたいので、意見、作品、事例文献研究等を積極的にお寄せ下さい。



1985710日発行のTEXTILE FORUM NO.5に掲載した記事を改めて下記します。

 


Basketry Series ③ 


バスケッタリー 


 この稿ではかごという語が、ある文化圏内で、ある用途の為に、ある方法で作られたものを呼ぶという限定した使われ方でなく、漠然としてはいるが、ある特徴を共有する物体の領域を予感させる語として用いられていることを、すでにわかって頂けたと思う。かごを作る事は、このあいまいな領域の魅力を探って顕視させるための、ごく個人的な方法であると考える。今まで“Basketry”の訳語を考えあぐねていたが、この意味から「かごの方法」としてみたい。


 さて今回から具体的に、かごの様々の相を見て行きたいと思う。かごは、繊維あるいは繊維状の素材からできている。銀や銅のような柔質の金属の細線もかご様のものになる。このようなものも広く含めて繊維素材と呼んでおこう。


 立体性のある形態を、繊維素材そのものの特性を用いてつくるのにはどのような方法があるだろうか。私がまとめた表に。クラス全体が検討を加えて次の表が出来た。ことわっておくが、決してこの表は分類表として固定的な考えで作られたのではなく、かごの一つの重要な相である組織構造の観点から、創作上のコンセプトを探す為の手掛りとして作られている。恐らくこの表の格段にまたがった特質をもつかごや、どこにも属さない物体が出来てきた時には、今まで気付かずにいたものが目の前に表現されるに違いないと期待している。


 次回は、一種類の形状の素材を様々の方法で立体に成型した実験について、掲載します。


繊維素材によって立体を形成する基本的な方法


Basketry_img