ART&CRAFT forum

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移動する遊体 -ゲルとフェルトを中心に-

2012-11-01 10:02:49 | TEXTILE FORUM

Img ◆デザイン:久谷政樹

1991920日発行のTEXTILE FORUM NO.17に掲載した記事を改めて下記します。


【趣旨】

 世界の構図を大きく書き換えるきっかけとなった湾岸戦争は、アングロ・サクソン対アラブの闘いとも、あるいは遊牧民対定住民の闘いとも言われました。いずれにしても、遊牧の長い歴史を歩んできた人々が今、世界の桧舞台に踊り出ようとしていることは確かです。それとともに「遊牧」という文化概念が普遍性を得て、定住型文化の領域に進出してくるという推測も、あながち否定しさることができない予感もあります、事実、高度に管理された日本的都市生活を送る私たちのなかで、遊牧の民へ向けてのある種の幻想と憧が生れつつあるようです。このような雰囲気の中で、文化としての「遊牧」を日本の都市において体験し、考えてみようというのがこのプロジェクトの目的です。

 

 遊牧文化を象徴するものに、移動式住居である「ゲル」(中国語では「パオ」)と、羊毛があります。まず、ゲル(パオ)について。今、私たちがゲルをつくることの意味は、その実作体験を通して遊牧民野住習慣の在り方を知ろうと試みることであり、またそれを「定住型」住習慣と交錯させることによって、「住む」という営みをグローバルな視点から捉え直すことにもつながっていくでしょう。


 そもそもゲルの空間形態は円形を基本としています。ゲルの中に入ると、私たちが馴染んでいる四角い空間とは違って、視線は向かいの壁にぶつかるのではなく壁に沿って移動していきます。ここに潜在的な動態の空間構造が感取され、渦巻きやマンダラの始源的空間であることが理解されます。


 次に、羊毛について。羊毛と言えばセーターやウール製の洋服がすぐに連想されますが、フェルト加工されたものの利用範囲の広さについては必ずしも充分に認識されているとはいえません。歴史的には、中央アジアで発明され、遊牧民の間では紀元前から、衣料や敷物などに使われてきました。ゲルを覆う幕がフェルト製であることは言うまでもありません。日本では、遣唐使によってもたらされた正倉院御物の花氈が現存する最古のものです。以後、茶道や華道で用いられる緋毛氈などは私たちに馴染み深いものです。現代では、帽子や上履き、筆記用具など生活必需品に使われる他、楽器、電気機器、精密機械、ハイテク部品、土木建築などの分野で幅広く活用されています。

 

 更にまた、近年テキスタイルの表現方法の一つとして、自然な羊毛の特質を活かしたフェルト造形に情熱を注ぐ作家が内外に数多く見られるようになり、単純な技法ながら驚くべき多様な表現が出てくるようになりました。フェルト造形の一般的な特徴としては、その不定形性にあると言えるでしょう。不定形な造形性を、ここでは視線の移動に沿った精神の遊びの造形という意味で、「移動する遊体」と名付けておきます。

 

 映像を主体としたパフォーマンスは、遊牧民の文化と都市のメディア文化を交接させることによって、「遊牧」対「定住」の対立を超えたコスミックな精神世界を描き出していく試みです。映像やパフォーマンスを、時間と空間を交錯させていくメディアと考えると、これもまたひとつの「移動する遊体」と言えるでしょう。


 渦巻きやマンダラを内包するゲルもまた「移動する遊体」と捉えることができます。これら「移動する遊体」たちは、時間と空間、歴史と地理、民俗と神話、国家と伝統、都市と辺境、祝祭と生活、技術と表現の間を移動したり飛び交ったりするのです。それは人々の交流の中でおこなわれるのですが、交流の中心に「ゲルをつくる」ということが設定されるのです。


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◆上野正夫によるバンブー・シェルター 「太平洋に近い椎の木林から」



◆「遊体」との語らい

-ワークショップ安房鴨川-

★日時:19911019日(土〉午後1時より20日(日)午後4時

★会場:千葉県鴨川市林浄院他

★指導:上野正夫 他

★募集定員:10

★参加費:¥20,000.(宿泊、食事は別途)

★内容:※椎の木ばやしの木の下に山を作る    

                ※椎の木ばやしの採集計画    

                ※「塩の音楽」装置群のマルチメディア・コラボレーション                          (アルゴン・レーザー使用) 

★その他:※BAMB00 SHELTER他は東京でのフェルトワーク展に展示る。

          ※詳細はワークショップ要項参照


Img_3 

◆伊豆・熱海市山中での天幕設営のワークショップ








-ワークショップ伊豆-

★日時:19911021日(月)~27日(日)

★会場:伊豆、熱海・賀泉窯

★内容:本間一恵・手塚のぶ子の指導によりフェルトを編んで天幕を張る。

★協力:アタミ・アート・アソシエイツ  河西力 他

★募集定員:50

★参加費:¥10,000.(宿泊、食事は別途)

★その他:

 ※自然空間との対話を制作趣旨とし、伝統的なゲルの形状にこだわらない。東京でのフェルトワーク展に展示する。

 ※「塩の音楽」をキーコンセプトにした「パオの唄」ライブ(シンセサイザー:吉川ハヂメ他)

 ※詳細はワークショップ要項参照


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◆大石義一研究室によるゲルの復元(岩手県・八幡平)





-ワークショップ京都-

★日時:19911115日(金)~17日(日)(予定.

★会場:川島テキスタイル・スクール

★指導:ジョリー・ジョンソン、野田涼美

    中村彦之‥‥‥‥フェルト制作指導

    京田誠 ……ベルト制作指導

★募集定員:フェルト制作……25

      ベルト制作…… 25

★参加費:¥20,000. (宿泊、食事は別途)

★内容:※ゲルを包むフェルト制作

    ※フェルトを固定するベルト制作

★その他:※制作したゲルは京都芸術短期大学でのフェルトワーク展と同会期に短大キャンパスに展示



スライドレクチャーとシンポジウム

ゲルからはじまるディスクール

-スライドレクチャー-


★テーマ:「ゲルをつくる」

★講師:ジョリー・ジョンソン

★日時・会場:

    ☆東京/118日(金)   午後3時~午後5

          青山・小原流会館2F第一教室

    ☆京都/1122日(金)  午後1時~午後230

         京都芸術短期大学講堂


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