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「ゆらぐ業」三宅哲雄

2011-06-19 15:41:29 | 三宅哲雄

Dsc02529 2007子供造形教室夏期合宿(群馬)

生活空間の選択 -どこで生きていきますか-  三宅哲雄  


 「これ君だよね!」と学生課の職員からデモの風景を撮影した写真を提示されるが即座に「ちがう!」と写真をほとんど見ることもなく否定したが数日後には授業中の教室から応援団員に連れ出され部室で拷問に近い状態で詰問された。多くの友人の協力で卒業に必要な単位は三年の終りには修得でき、四年になると卒業制作の単位を残すだけになったので友人と共同でアパートを借り卒業制作をすることで学校には月に一・二回しか通学しなくなり応援団の恐怖から回避することができた。


 歳を重ねることで生活空間や人的交流が拡大することで人は生きていく多様な知恵を学び、又、どこの、どのような環境で生れ育ったかによって一生を決定づける重要な要因になることもある。今日、人類の多くは生命を維持することに多大なエネルギーを使う必要が少なくなり文化的活動などに関心が増加する傾向にあるが特に先進国といわれる社会では安定した経済状態をいかなる方法を駆使してでも確保することを学び考えることが大人になることだという常識が定着している。我が国の家庭や学校教育では「嘘をつくな」「泥棒をするな」「命を大切に」などなど多くを教えられてきたが「金持ち」になるには綺麗ごとを言っていてはなれない、嘘も方便。「政治家」は国民のためでなく私利私欲のために選挙に勝つことだけに夢中だ、医者も教師も先生という職業に埋没している。「上級官僚」に合格すれば一生努力せず経済的心配をしなくてすむ。など子供の頃に学んだ常識や夢を履がやされながらも大人への道を進めば進むほど現実を知らされる機会が増え、感受性が高い思春期にはあまりにも刺激的で落胆や失望を抱かせることになり、多くの人々は何とか自己と折りあいをつけ将来の経済的安定のために多くを考えず一生懸命勉強や努力をすれば結果がついてくるというサクセスストーリーを夢みると共に自分が大人になる頃にはきっと平和で嘘のない心豊かな社会になると微かな期待をもち頑張ったように思われる。


 誰もが自分の身が可愛い!これは簡単に否定できることではないが…。これだけではかなしい…。


 私が幼少から青年期の頃は情報を入手するには新聞やラジオに限られ現在のように水面下の活動や世界の出来事がリアルタイムで伝えられ表面化するようなことはなかった。国会議員や大学教授などは雲の上の人で実情は知るよしもなかったが実際に国会や大学などに身を置かなければ知ることが出来ないようなことはどの社会でも同様である。アルバイトの鬼と言われるほど多様なアルバイトに従事したのは遊びの大切な資金稼ぎであったが夢の実現や進路選択に大きな役割を私の場合は果たしたようだ。将来、建築や都市計画の仕事に従事したい思いは固まっていたが就職という道は実感に乏しく都市計画の頂点に身を置き、その実体を知りたいという気持ちへ動いた。グランドデザインは国や地方自治体の仕事と勝手に決め付けていたので選択肢は東大か京大、たが国家権力の中枢である東大への道は政治活動の影響からか迷うことなく消え、京大にした。幸い卒業前年には東大と京大で大阪万国博共同設計チームが原宿に開設され私は卒業制作の傍ら京大チームの一員として参加することができた。国家プロジェクトを動かす現場は想像を超える魅力的な場であったが反面夕方には「日米安保反対」「ベトナム戦争反対」などのスローガンと並んで「大阪万博反対」を唱えるデモに連日のように参加していた。この矛盾は京都に居を移してからも日本共産党の下部組織である「民青」から強力な批判を受け続けたが、万博シンボルゾーンの実施設計そして施工現場管理と未来都市が具現化する場に身を置き報酬を受け取る美味しい仕事をしながら自己を問う日々が続いた。「夢に近い仕事に従事し金銭を得る」という欲の実現と「戦争反対」など思想との整合性をつけることは大変困難であるがその現実に背を向けてはいけないという思いが強くなり、よりどころである建築を否定する行動を自ら起こすことになった。内部矛盾に正直に向き会えば向き会うほど辛い選択が求められる。他から与えられたり押し付けられたりしたものでなく自己の内面に両立する闘いであるからで内面に留めておけば他人は気づかず問題は生じないが、その矛盾に正直であろうとすると内面の対立を外部に現すこともあり、回りの人々は大変迷惑で、子供のすることのようだ。