1995年10月20日発行のART&CRAFT FORUM 2号に掲載した記事を改めて下記します。
ヌサ・トゥンガラの絣を訪ねる旅も10日目を迎え、日程の2/3が終了し、これまでに7島と11の村を訪れた。日本人のツアーは忙しく、入村の挨拶や儀式、あるいは歓迎の踊りに迎えられ、そのあと作業工程のデモンストレーションを見学し、好みと値段の折り合った布を見つけては買い、1~2時間程で村を後にする。席の暖まる暇もなく、訪れる村ごとに燥り返されるこのパターンに慣れてしまったせいもあるが、次第に疑問が浮かんできた。笑顔いっぱいに迎えてくれた村もあれば、少々冷めた表情が気になる村もある。もの好きな日本人グループがバスに乗ってやって来ては、布を買って去っていく……。現地の人々はいったいどの様に受け止めているのだろうかと、不安になってきたのだった。
東ティモールのロスパロス村でツアーガイドが別れの挨拶をした。「……私たちはあなた方の織物を見るために遠くからやってきた。この村の特色を大切にしてこれからも素晴しい布を織り続けてほしい。そうでなければこの村を訪れる人はいなくなってしまうだろう……」といった内容だった。それに答える村人の挨拶は「あなた方が布を買ってくれて大変嬉しい。それは、私たちが今までしてきたことが価値のあることだと認められたことになるからだ。これからも一生懸命織っていきたい……」とのことだった。確かに布が売れてこそ、それまでの作業が意味を持ち、価値ある織物となり、それでこそ技術が伝承されていくということも厳然たる事実であった。ならば“もの好きな日本人”が、たまにはやって来て布を買っていくことも、きっと必要なのだ……。そう思うことにした。
ディリからクーパンヘの帰路は450kmの道のりをバスで12時間、ティモール島縦断の1日となった。西テイモールの中央部にさしかかった辺り、戸外で作業をしている姿を見かけ、私たちはバスを降りた。村の広場の日除けの下で、母と娘が二人で整経をしていた。日除けの太い柱と地面に打った杭に棒を渡し、輪状に整経をする。はじめに絣の経糸を配置しておき、その隙間を色糸で埋め経縞を作っていく。それと同時に綜絖も取り付けてしまう。整経が終わった時点で中筒を入れ、腰にベルトを掛ければすぐに織り出すことができる。経糸の長さも織巾も、地面に打つ杭の位置によって自由に調節すればよい。シンプルであるが故に合理的な地機の特性を、改めて見ることができた。準備して待っていて、村中で歓迎してくれることはもちろん嬉しいけれど何気ない日常の風景に入り込んでいくのも、また格別なものがある。私たちが織物をしようと思う時に、織機や織道具に場所を取られるのが悩みの種となるが、明るい外に飛びだして涼しい日除けの下、地面に杭を打ち腰をおろす……。そんな自由な空間を彼女らが持ち得ていることが素晴しく、実にうらやましく思えてならなかった。(次号へ続く)
ヌサ・トゥンガラの絣を訪ねる旅も10日目を迎え、日程の2/3が終了し、これまでに7島と11の村を訪れた。日本人のツアーは忙しく、入村の挨拶や儀式、あるいは歓迎の踊りに迎えられ、そのあと作業工程のデモンストレーションを見学し、好みと値段の折り合った布を見つけては買い、1~2時間程で村を後にする。席の暖まる暇もなく、訪れる村ごとに燥り返されるこのパターンに慣れてしまったせいもあるが、次第に疑問が浮かんできた。笑顔いっぱいに迎えてくれた村もあれば、少々冷めた表情が気になる村もある。もの好きな日本人グループがバスに乗ってやって来ては、布を買って去っていく……。現地の人々はいったいどの様に受け止めているのだろうかと、不安になってきたのだった。
東ティモールのロスパロス村でツアーガイドが別れの挨拶をした。「……私たちはあなた方の織物を見るために遠くからやってきた。この村の特色を大切にしてこれからも素晴しい布を織り続けてほしい。そうでなければこの村を訪れる人はいなくなってしまうだろう……」といった内容だった。それに答える村人の挨拶は「あなた方が布を買ってくれて大変嬉しい。それは、私たちが今までしてきたことが価値のあることだと認められたことになるからだ。これからも一生懸命織っていきたい……」とのことだった。確かに布が売れてこそ、それまでの作業が意味を持ち、価値ある織物となり、それでこそ技術が伝承されていくということも厳然たる事実であった。ならば“もの好きな日本人”が、たまにはやって来て布を買っていくことも、きっと必要なのだ……。そう思うことにした。
ディリからクーパンヘの帰路は450kmの道のりをバスで12時間、ティモール島縦断の1日となった。西テイモールの中央部にさしかかった辺り、戸外で作業をしている姿を見かけ、私たちはバスを降りた。村の広場の日除けの下で、母と娘が二人で整経をしていた。日除けの太い柱と地面に打った杭に棒を渡し、輪状に整経をする。はじめに絣の経糸を配置しておき、その隙間を色糸で埋め経縞を作っていく。それと同時に綜絖も取り付けてしまう。整経が終わった時点で中筒を入れ、腰にベルトを掛ければすぐに織り出すことができる。経糸の長さも織巾も、地面に打つ杭の位置によって自由に調節すればよい。シンプルであるが故に合理的な地機の特性を、改めて見ることができた。準備して待っていて、村中で歓迎してくれることはもちろん嬉しいけれど何気ない日常の風景に入り込んでいくのも、また格別なものがある。私たちが織物をしようと思う時に、織機や織道具に場所を取られるのが悩みの種となるが、明るい外に飛びだして涼しい日除けの下、地面に杭を打ち腰をおろす……。そんな自由な空間を彼女らが持ち得ていることが素晴しく、実にうらやましく思えてならなかった。(次号へ続く)