◆“IN/OUT-SIDE”(41×41×41cm) ヒロロ
◆秩父日野田・石橋政義作「スカリ」
2000年12月20日発行のART&CRAFT FORUM 19号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご-5-
「縄のかご」 高宮紀子
2000年12月20日発行のART&CRAFT FORUM 19号に掲載した記事を改めて下記します。
民具のかご・作品としてのかご-5-
「縄のかご」 高宮紀子
埼玉県秩父郡吉田町で9月から11月にかけて行われたスカリの講習会に行ってきました。スカリとは秩父地方で昔から作られてきた背負い編み袋のことで、山仕事などの道具や弁当を入れたようです。イワスゲと呼ばれる草の葉を縄になって作ります。初めに30mぐらいの縄をない、枠にかけてタテ材とし、編み材の縄でもじり編みをして作ります。
長くて均一の縄を早くなうのは、熟練の技術が必要です。縄ないの方法は両手の平に2つの束を挟み、逆にずらして繊維を転がします。この時点では、同じ方向のよりが繊維にかかっているにすぎませんが、この後、2つの束をよりの方向とは反対に合わせることで縄目ができます。縄ないの名人はこれらの作業をとぎれることなく、すばやく行うので、動きを見ていても何がどうなっているのかわかりません。またたく間に縄をなってしまいます。さらによりを固定するため、より合わせた同じ方向に再度よりをかけ、草の束などでこすってよりの間隔をつめます。名人の縄は、よりの密度が高く丈夫なので、スカリの枠にかけても、よりが戻って切れることありません。
縄をなうのには、もう一つ方法があります。それは指で繊維をまわして回転を与え、より合わせる方法です。時間がかかりますし、指の指紋は薄くなるでしょうが、よりがしっかりかかりますので、手の平でなうのに慣れないうちはこの方法が安心です。縄をなう方法はまだあります。オーストラリアのアボリジニの例を本で読んだことがあるのですが、それは太腿の上に繊維を置き、その上から手の平らを押し付けて転がし、よりをかける方法でした。長い縄をなうのにはたいへんそうですが、短い縄ですと片手でもなえる便利な方法だと思います。
縄は1本の太さを変えたり本数を増やすことができます。巨大なものの例としては神社の注連縄(シメナワ)がありますが、縄が太くなるにつれて、いろいろな工夫がされています。例えば正月用の注連飾りで元は細いのに、真ん中あたりが太くなっているものは、膨らんでいる中に詰め物を入れてないます。縄ないの作業はシンプルですが、いろいろな技術を見ることができます。
縄ないの途中で手を休めてゆっくりと観察すると、縄自体もなかなか美しい形じゃないか、という気がしてきます。スカリを作る場合には、縄ないの行為は編み袋を作る過程であって、それ自体で完成ではありませんでした。しかし、縄で造形作品を作ることを考えますと、ただ縄をなってたくさんぶら下げても、縄のれん?といわれてしまいそうです。縄を巨大に拡大してその構造を見せる、という作品が70年代の、Francoise Grossenや八木マリオさんによって発表されました。縄のもっている構造としての面白さ、躍動感や力強さ、繊維をいろいろな箇所に結合させる自由さが魅力でした。用途から解き放された技術がいきいきと語りかけている、という感じでしたが、それは同時に「技術はもともと自由なものなのだ」、と再認識することにつながりました。
左は’94年にヒロロという草で作った私の作品です。このシリーズでチョマの作品も作りました。ヒロロというのは、福島県の伝統的な編み袋の素材です。秩父のイワスゲと同じ植物だとは思いますが、もう少し短く柔らかめです。同じように丈夫で柔軟な縄ができます。両方とも地方の呼び名ですので、植物名はカンスゲか、その仲間だと思いますが確証はありません。この作品は棒を何本か結んで枠を作り、それを頼りにして縄をかけて作っていきました。縄は手の指でよって、既に縄がある場所は、その縄を縄目の中に鋏みこんで表面を覆っていきます。指でなっているので、方向を変えたり、狭い場所にも縄を渡すことができました。in/side-outというタイトルをつけたのですが、枠の中に入ったり、外へ出たりして縄を渡した作業に因んでいます。面を作る、というよりは、線をたくさん作って領域を埋めるという作業になりますので、縄が進む方向は、自由というか、行き当たりばったりです。
この作品を枠から外した後、少しずつ渡した縄がたるんだり、緊張したりして、それぞれの線の様子が違っていき、しばらくして落ち着きました。その後、ヒロロの縄が持つ弾力とネット状に編まれている組織のおかげでが変形することはありません。輸送のために少々形がゆがんでも、弾力で復元します。
先日、山歩きをした時に、うっかり蜘蛛の巣にかかってしまいました。人間にとって蜘蛛の巣ははかないものですが、ネット状の巣は虫の世界では頑丈なトラップです。もし、蜘蛛が立体的に巣をはれるとしたら、私の作った枠にどんな巣をはるだろうか、とふと考えました。きっと形の無い面白い構成になるかもしれません。