1985年7月10日発行のTEXTILE FORUM NO.5に掲載した記事を改めて下記します。
この企画はスタートから大変異例づくめで常識的な皆様には不愉快な思いを懐かせたかと思います。反省を含めて最後に経過を補足させていただきます。
我が国は経済大国になりましたが、いまだ政府や自治体が広い視野で文化行政を施すに至っていない現状では文化後進国と言っても過言ではないでしょう。特に染織の分野では諸外国との広範な入的交流や情報交換を望むべきもないことで、今日迄は作家ないし教育者等の私的交流に依存した形でなされてきました。このような民間主導型の交流は今後共、出来る範囲で続けていかなければならないし、そう願望するものです。
昭和57年9月当研究所のイギリス研修旅行でピーター・コリンウッド氏宅を訪問し来日の要請をしたのが、この企画の始まりでした。氏はヨーロッパ・アメリカ等に於いては再三講演会やワークショップを開いているが日本には一度も訪れてなく、我が国の染織家や教育者は氏の著書に於いて学んでいたのですが、是非直接作品を見たいし、又指導を受けたいとの願望が根強くありました。しかしながら氏の広範な活動からも当研究所の単独企画でなく教育者・作家・教育機関・織機メーカー・専門雑誌社等の、ご意見を頂戴すると共に協力を得、皆様の要請に答える必要がありました。こうした折、幸運にもピーター・コリンウッド氏より以下の条件で来日の快諾を得ました。
①昭和59年7月オーストラリアからの帰途に立ち寄り2週間滞在する。
②作品展にはマクロゴーゼを出品し、販売する。
③旅費はB・Cの援助を受ける。
この条件を受けて私共は具体的に種々の検討にはいりました。
●スケジュールの決定
折角の来日の為、日本の多くの方々に作品を見ていただくと共に講演を聞き、直接指導を受ける機会を関東だけでなく関西でも持てないか、という事で作品展、講演会、ワークショップの会場を捜しました。会場費が出来るだけかからず、しかも、この催事にとっての種々の条件を満たす場所でなければなりませんでした。普通アーティストの場合は作品の販売を、あまり考慮しませんが、氏の場合は大きな要素なので、公の施設は使用出来ず、むしろ百貨店の画廊で開催出来るように運動しました。しかし百貨店に於いては、この種の染織催事の経験が薄く、又催事は半年前にスケジュールを決定する事などで最後の最後迄、東京に於ける作品展の会場と会期が決定せず、最終的に西武百貨店・渋谷店・美術画廊となりました。この決定を受けてワークショップは当研究所と川島テキスタイルスクール、関西の作品展と講演会は京都芸術短期大学の協力を得、東京の講演会も日仏会館に落ち着きました。このようにして催事スケジュールは関係者の絶大なる尽力によって決定されたのです。この結果、62才の氏にとっては大変ハードなスケジュールになり、最後迄体調が気掛かりなことでした。
●ワークショップの内容は
氏はラグの他マクロゴーゼ、スプラング、タブレットなど幅広い制作と研究をされているので、今回、短期間のワークショップで何を指導してもらうか検討されました。まずマクロゴーゼは作品展で紹介されますが、技術的指導となると大変簡単な原理で、すでに氏がほとんどと言っていい程、この可能性を追求し尽しています。すなわち、この技法を使って我々が展開する可能性が、ほとんどないのです。シャフトスイッチンダによるラグは特殊な装置を付けた織機が必要で、デモンストレーション用に装置を作る事は出来ても、ワークショップ用に道具を用意するには経費がかかりすきる。スプラングについては氏は研究はしたが、この技法作品の制作をあまりしてしない等々の理由で、これらを主たる指導の対象から外しました。この結果タブレットウィービングを重点的な指導内容にし、シヤフトスイッチによるラグのデモンストレーション、マクロゴーゼ・スプラングの解説という事に決めました。
●経費負担
今回は氏が直接B・Cに旅費の援助を申請し受理された事により渡航費用の負担がなく、この企画を現実のものにしましたが、関東、関西に於ける2回の作品展、講演会、延8日間のワークシップ等で氏に支払う謝礼と夫婦の宿泊、国内交通費等の直接費の他に案内状の印刷費、通信費等々を予測すると、講演会、ワークショツプでの収入を100%見込んでも、とても収支が合う可能性はありませんでした。今回は最終的な帳尻は当研究所が負うことにしましたが、今後共、同様の企画は出来ないと思います。今日、スポーツの大会で代表されるような催事に於いて協賛を求める事は珍しいことではありませんが、ほとんどの場合、縁故又は企業の広告宣伝の一環として損得勘定により賛助を得ているのが実情ではないでしょうか。このような状況で実現出来うる企画ならば良いのですが、そうでない場合は、どうすれば良いのでしょう。私共は最悪の状態を予測して、協賛依頼を催事の案内と共に郵送しました。ある見方からすれば消極的で失礼な方法を選んだのです。結果は収支報告にあります様に、思いもかけず、多くの個人、団体から暖かい心のこもった援助の申し出を受けました。この事により私共はどれだけ勇気づけられたことでしよう。
最後に、このような企画を催すと数多くの問題点や検討事項がおこります。本来ならば、これらを詳細に分析し、ご報告しなければならないのですが、紙面の都合で割愛させていただきます。又この企画のスタートから最後迄ご尽力いただいた冨田夫妻、ピーター・コリンウッドを迎える会に加わっていただいた先生方、会場を提供していただいた、京都芸術短大、川島テキスタイルスクール、西武百貨店渋谷店の皆々様、後援をいただいたブリティシュ・カウンシィル、染織と生活社、協賛をいただきました個人・団体の皆々様、そして舞台裏で働いて下さった当研究所のスタッフ一同に厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。 三宅哲雄
資料>
ピーター・コリンウッドの世界
◆主催
ピーター・コリンウッを迎える会
●島貫昭子(東京造形大教授)●やだ尭子(染織と生活社)●堀内紀子(ファイバーアーティスト)●岸田幸吉(東京手織機)●小名木陽一(京都芸術短大教授)●木下猛(川島テキスタイルスクール)●冨田潤(織作家)●三宅哲雄(東京テキスタイル研究所)●中野恵美子(跡見学園短大講師) 順不同
◆後援
●英国大使館文化部(ブリティシュ・カウンシィル)●染織と生活社●川島テキスタイルスクール●東京テキスタイル研究所
◆協賛
●中川千早●神宮司洋子●青木葉子●川崎紅子●波脇郁子●松本美智子●中山恵美子●コバヤシテキスタイル●山中良子●菊地寿子●大住正子●自由学園工芸研究所●川瀬和子●芦田尚子●ハル建築設計事務所●藤本經子●高田寿子●櫻田迪子●ヴェブスコーラン●海外旅行開発㈱●熊井恭子●東谷美保●小石原焼陶器共同組合●嵯峨美術短大●成瀬満紀●東京テキスタイル研究所スタッフ一同●武蔵野美術大学●インテリアセンタースクール●㈱ラゴ●興たかね●関谷和子●橋本京子●黒須玲子●西村和子●市嶌千枝子●吉田由美●わたなぺひろこ●島貫昭子●㈱川島織物●中野恵美子●水野真砂子●金内明枝●他●広島文化女子短大●川島テキスタイルスクール●㈱東京手織機●新井清太郎商店●田中直染料店●東京テキスタイル研究所 順不同
京都スケジュール
◆作品展
会期:1984年6月4日(月)~23日(土) 午前10時~午后6時
日曜休館 入場無料
場所:京都芸術短期大学附属ギャラリー楽>
住所:京都市左京区北白川瓜生山2-116
(TEL) 075-791-9121
延入場者数 2247名
◆ワークショップ
会期:1984年6月20日(水)~23日(土) 午前10時~午后4時
定員及会費:30名 ¥45,000.
場所;川島テキスタイルスクール
住所:京都市左京区静市市原町418
(TEL)075-741-3151㈹
内容;ラグ及びカードウィービィング
受講者数:14名
◆講演会
期日:1984年6月22日(金) 午後6時30分~8時30分
入場無料
場所:京都芸術短期大学興心館
住所:京都市左京区北白川瓜生山2-116
(TEL)075-791-9121
聴講者数:約400名
東京スケジュール>
◆作品展
会期:1984年6月28日(木)~7月3日(火) 午前10時~午後6時
水曜休館 入場無料
場所:西武百貨店渋谷店A館7階 美術画廊
住所:東京都渋谷区宇田川町21-1
(TEL)03-462-0111
延入場者数:約6000名
◆ワークショップ
会期:1984年7月4日(水)~7月7日(土)午前10時~午後4時
定員及会費:30名 45,000円
場所:東京都目黒区碑文谷5-15-1
(TEL)03-710-1211㈹
内容:ラグ及カードウィービィング
受講者数:32名
◆講演会
期日:1984年6月27日(水) 午后6時~9時
定員413名
受講料: 一般 1,500円 前売り一般 1,300円
前売り学生 800円
場所:日仏会館ホール
住所:東京都千代田区神田駿河台2-3
(TEL)03-291-1143
聴講者数: 506名
◆収支報告
●収入の部
東京講演会聴講料(506名) \583,100.
ワークショップ受講料(46名) \2,060,000.
協賛金(協賛広告共) \1,179,100.
作品、図書、図録売却益 \958,012.
計 \4,780,212.
●支出の部
講演、通訳、宿泊、交通費 \1,276,350.
会場費、作品展搬出入費、パーティ費 \1,376,553.
広告宣伝、印刷費、通信費 \2,276,740.
不参加者返金、その他雑費 \477,572.
計 \5,407,215.