ART&CRAFT forum

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絣の宝庫-ヌサ・テンガラの旅(2) 富田和子

2014-10-01 13:23:44 | 富田和子
1995年4月20日発行のART&CRAFT FORUM 創刊予告号に掲載した記事を改めて下記します。

 旅の4日目、鶏の鳴き声で目覚め、1泊2日の旅支度をして港へ向かった。小さなチャーター船に乗り込み、日の出とともにフローレス島のララントゥカを出発した。行<先はレンバタ島である。ソロール島とアドナラ島に挟まれた海はとても静かで、船はすべるように進む。朝食をとり、海と島と空を眺めながら、みんなは気ままに横になった。一眠りしてもまだ着かない。また海を眺める。片道5時間の船旅だった。
 島に着くと宿に荷物を置き、トラックの荷台に乗り込んだ。荷台にはベンチが設えてあり、天井には鉄の棒が渡されていた。車1台がやっと通れるデコボコの山道をガンガン揺られに揺られ、全身土埃にまみれながら、頭上の棒を両手で握りしめたまま1時間余、山の上のカリカサ村に到着した。
旅の一行11人は、イカットで正装した村人と、大はしゃぎの子供たちに迎えられた。
 レンバタ島のイカットは大小の幾何学模様が特徴で、手紡ぎの綿糸を天然染料で染め、織っている。茶色や黒の地に藍色と生成りの色で、三角形、菱形、X形などで構成された絣文様が布一面を埋め尽<した緻密なものである。ここでは、イカットは主に女性の衣服として用いられ、正装には筒状に縫い合わせた布を2枚使う。1枚はサロンとし、もう1枚は両肩に掛けて前に垂らしたり、あるいは布を中央で折り返し前から後ろへ流したりして、上半身を覆っている。ある本に、レンバタ島のイカットは「いぶし銀のような渋みが感じられる」と書いてあった。色合いも文様も地味ではあるが、確かにその布は深い輝きを持ち、魅力的だった。
 現地のガイドの話によると、インドネシアに原住民はいない。皆、渡来人であるという。そして2種類の人に分けられる。=山の人と海の人=。島では仕事の分担が決められていて、山の人は農業を、海の人は漁業と織物をする。山の人は島を移ったとしても、好んで山の方へ行く。海の人は追われて山へ行く場合もある。その人々は漁はできなくなるが織物は続けていく。音楽や踊りにも特徴は残り、山の人は激しいリズムで荒々しく、海の人は静かなリズムで穏やかである。山の人は物々交換に布を使ったので、いろいろな部族の織物を持っているが海の人は自分たちの織物しか持っていないという。
 ようやく辿り着いた山の上のカリカサ村に住む人々は、もとは海辺の人々だった。今も自分たちのイカットを織り続け、歌と踊りで私たちを迎えてくれた。男女一緒に手をつないで輪を作り、歌いながら踊る。私たちも手をつなぎ、踊りの輪に加わった。汗がにじみ再び土埃にまみれたけれど、嬉しかった。カリカサ村の人々は底抜けに明るくて、とても優しかった。       (次号へ続く)