かごめかごめ
籠の中の鳥は いついつ出やる 夜明けの晩に 鶴と亀が滑った
うしろの正面だあれ?
「絶対に後ろを見てはいけません」
小さい頃、加世は姉からよくそう言われた。目をふさいでしゃがみ、歌が終わった時の自分の真後ろの子が誰か当てる。
当てられたら鬼は交代
でも、後ろをこっそり見たら、大変なことがおこる。姉にはそう言われていた。
加世はこの遊びが怖くて仕方がなかった。 歌詞の意味がよくわからない。でも、なんだか気味が悪い。
うしろの正面だあれ?
その日、歌が終わるとうしろで声がした。
「加世ちゃん」
誰かに呼ばれたと思って目を開けて振り返った。うしろに姉がいた。
姉は加世を睨むようにして話す。
「うしろを見たわね」
加世は泣きそうになって答えた。
「だって誰かが私を呼んだ」
「誰も呼ばないよ」
「・・・」
「知らないよ、大変なことになるわよ」
それから何年も経った。加世が高校生になったある日の夕方、一人部屋の机の前でうとうとしてしまった。
加世は夢を見ていた。夢の中では、白い着物を着た女の人が竹の籠に閉じ込められ、板の上に乗せられて数人の男たちが板を運んでいた。
女は手足を縛られ、口の周りも縛られている。
時代は江戸時代だろうか。みんな着物を着て、男たちは髷を結っている。
薄暗い寒村を一行は進んでいく。
はっとして目を醒ます。もう夜になっていて、灯りの点いてない部屋は真っ暗だった。
「加世ちゃん」
うしろから誰かの声がした。あの時と同じだ。子供のときのかごめのあの声…
加世はゆっくりとうしろを振り返った。
「今度はあなたが鬼よ」
一瞬にして自分の部屋にいたはずの加世は竹の籠の中に閉じ込められていた。
手足を縛られ、夢で見た寒村の中を運ばれているのだった。
加世は何故か白い着物を着ている。あの女の人が来ていた着物だった。声を出したかったが、口も堅く縛られている。
え!? どうして?
何故か夢の中の女と入れ替わっている。きっと夢だ。そう思おうとした。でも、縛られた手足から痛みが伝わってくる。
夢ではない。
かごめは籠女のこと
籠に入れられた罪人は人に見られないように夜明け前に処刑場に運ばれる。
鶴と亀がすべる…
それはもっとも最も不吉なことを表す。
籠の中から鳥が出やるとき、
それは処刑するときのこと。
そう、かごめは処刑の歌
処刑場で加世は籠から出された。
目の前には刀を構えた男がいる。
抵抗したが、数人の男たちに無理やり連れていかれた。
私は違う!そう叫びたかったが声は出なかった。
処刑場の柵の外から女が加世を見ていた。加世の前に籠の中にいた女だ。
うす笑いを浮かべてつぶやく。
「うしろの正面だあれ?」
処刑場で加世は男たちに押さえつけられ、地面に座らされた。
刀が振り下ろされる。
首が胴体を離れて地面に転がり落ちる。首を刎ねられた加世が薄れいく意識の中で最後に見たうしろの正面、それは首のない自分の胴体だった。
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