晴天に恵まれ、しかも冷え込みが遅れた11月下旬に入る北信州は
紅葉が里に下りる頃。小春日和とも言いたくなるような外を歩いても
心地よい日中は、輝く日を受けて赤いもみじに黄色い落葉松がどこへ行っても
色を重ねて青い空を背景に印象的な絵を描いてくれます。
歩いているだけでも楽しい2日。
訪ねた3つの地域がどこも地を良くしようと整えられ、
建物の外観を眺めやるだけでも、印象深い旅となりました。
通り過ぎたことがあるだけで、いつかはゆっくりと歩きたかった小布施。
栗と葛飾北斎の地をアピールの核にして、街が店が整えられています。
小布施堂に竹風堂、桜井甘精堂の東京から見ても栗の御三家が
黒い瓦屋根がどっしりと落ち着いた店構えで、行き交う人を招きます。
栗金団に栗羊羹、おなじみの和菓子に季節の栗ソフトクリームなども。
私たちが桜井甘精堂の店先で頂いたのは栗シュークリームですが、これがほっこりと香りよく、
乳製品の濃いクリームに溶け込んで楽しめます。
食べた後の散策も心地いいのは、木道が伸びる小径のおかげと思います。
泊まったのは野沢温泉の名旅館となだかい村のホテル・住吉屋さん。
山沿い標高550m程の地に立つ、年月を重ねた旅館です。
名旅館の誉れを受けているのは、迎えてくれる皆さんの
行き渡った礼儀作法と見受けました。来て良かったと思わせる
笑顔とねぎらいで軒をくぐり、2階の奥へと案内してくれた仲居のKさんは、
荷物を運んで私たちが可愛いこたつに腰を落ち着けると、
しっかり指をそろえて頭を低く畳み近くに寄せて、歓迎の挨拶を
「改めて」という言葉と共に始めてくれます。
堅苦しくなりすぎず、教科書的でもない、ちゃんと私たちに話してくれている
という言葉のまろみがありました。
これでもう、滞在の気分は上々。
お茶を一杯頂いた後は、野沢の村に12カ所あるという外湯巡りにでかけます。
それぞれ街の人たちが湯組を作り、維持管理している温泉公衆浴場は、
いわば村の人たちが守ってきた物を旅人にも使わせてくださるもの。
お賽銭という呼び名で、多少の心付けを入れる箱が入り口に設置してあるのですが、
それに多少の小銭をいれたくらいではもったいないくらい、いいお湯があふれています。
最初に出かけたのは、大湯という名もたくましい、熱さも刺激も体にしみいる
温泉です。地元の人も旅行者も多く、今回の風呂巡りでは一番の賑わいでした。
2湯目は少し坂を上がって行った先、野沢には学生時代から良く通ったという
(めす)がなんとなく記憶の光景をたどりながら進んだ道の奥にありました。
松葉の湯。こちら最高の贅沢は、独り占め。つまり他に湯客がいなかったのです。
そこで失礼ながら湯船を撮影。
静かにたたえられ続ける温泉は新鮮そのもの、じっくりつからせてもらいました。
そのころになると、遠い信濃の山々が赤く色づき始めます。
坂を下りて見やる空 こころ遠くに湯野香る川
街の道沿いにはどこも小川があって温泉が流れています
お香をたくように、どこか幽玄な雰囲気がありますね。
そして3湯目の横落の湯で温まった後、
再び坂を登って
住吉屋さんに戻り、今度はお宿の風呂へ。
ここもまた独自の源泉をもっているので泉質が違います。
食事前にすっかり体は軟体になり、小布施の栗でふくれたお腹も
さすがに隙間が大きくなっています。
夕飯は、蔵を改装したという掘りごたつの部屋へ。
華美な料理よりも、村の家に伝わるような料理を、と聞いていましたが、
どうやら私たちが一休という宿サイトで予約した新館プランは
料理も少し、今の旅行好きたちを迎えるように、今風をアレンジしている
様子です。一品一品が熱いうち冷たいうちにと運ばれて、
お腹はもう半ばでぱんぱん。
だって、これだけあるのですよ、メニューが。
甘いすり身が食欲を招くもみじの前菜。
サーモンの肉厚と、細胞に蓄えられた味わいが含む毎に広がるお刺身。
カブの苦みをほっこり感と一緒に丸ごと蒸し上げた一品。
レンコンを蛇籠に見立てた、ゆり根やムカゴを餡にした揚げ物。
そうした印象に残る料理とは別に、最も驚いたのは
白いご飯の滋味深さ。噛む毎に日本の田園を誇りたくなるような
お米の粘りの中につきないうま味が、最後の最後に
さらなる食べる幸せを呼び寄せてくれたのです。
胃にまだ隙間があれば、口と舌の欲求はとどまることを知らなかった
ことでしょう。
そんな幸せな夕飯を18時30分から1時間30分かけていただき、
お部屋に戻って、今度は部屋風呂に温泉をためます。
これが熱くて熱くて、冷ますのに1時間近くかかりました。
でも、新鮮な湯は実に染みいるということも実感。
柔らかい指が、血流を静かに高めてくれる、40分ではまだまだ
帰って欲しくなかった上手なマッサージ師さんにほぐしてもらって
11時には床についた一日目の旅行でありました。