食卓は日々全国を駆け回ります。
朝ごはん中に、ドアのチャイムが鳴りました。
あれ、宅急便。私は???彼女はうきうき。
長崎旅行に行っていたお母さんから、豚の角煮を中華饅頭に挟んだ、
「豚の角煮まん」が送られてきたのを、彼女は気づいていたのでした。
届いた箱を見ると、彼の地の名店・吉宗さんの品です。よっそう・さんです。
ガイドブックを開けば必ず載っていて、茶碗蒸しと蒸し寿司が紹介されています。
冷凍で届いた角煮マンを冷蔵庫に入れ、今日の晩ご飯は決まりです。
あとは、昨晩のせいろ蒸しで残った豚の三枚肉がありますから、茄子と豚のショウガ炒めを
おかずにすれば、楽しい晩ご飯になることは間違いありません。
私にとって、夕ご飯のメニューが決まって会社に行く朝ほど、嬉しいことはありません。
といおうか、気分が楽なことはありません。
たとえ帰るのが遅くなろうと、求める物が家にあると決まっていれば、空腹もほとんど
気にならず、必ずや食欲は満たされるという未来への期待が膨らむからです。
案の定、早くは帰れなかった、でも12時間後。
少しだけ早く帰った彼女が、ちゃんと準備を整えていてくれました。
すぐに蒸し器に吉宗・豚角煮マンを加熱して10分。
おお、中華饅頭らしくさわれないほどに熱くなった饅頭の間で、
しっかり醤油味で煮込まれた分厚い豚の角煮が、甘い香りを放っています。
ホフホフ言いながら口に放り込むと、柔らかい弾力の間から蒸気とラードの混じる
ふくよかな気体が立ち上り、一瞬であらわれる甘い角煮も、かむと言うより
粉々に砕けて広がり、甘辛い煮汁に口は満たされるのでした。
いっかい、にかい、3かい。
口に入れた回数はそれだけで、ぺろりと一つの饅頭が胃の中に消えていきました。
ようこそ、長崎。
先にこちらもお母様から届いていた、長崎でしか買えない岩永梅寿軒のカステラも一本あります。
こちらも、口に甘く広がる、深みと速さは一級品。
東京でも各店のカステラを買い、各地の人形焼きやら釣り鐘焼きといった、卵と粉の焼き菓子はずいぶん食べましたが、
この色は見たことがありません。
もっちりと、肌理も細やか。つやがいいでしょ。
オランダ伝来。甘さの賞賛。卵の共鳴。気泡の芳醇。
あらぬ言葉が立体的な味となって、味覚の中枢を圧倒してくれました。
一昨年に長崎を訪ねたとき、売り切れて手に入らなかった不幸を、今更ながらに
悔しくおもうような、2年待った甲斐があったと喜びもひとしおのような、
心を波立たせてくれる、なかなかに感動的なカステーラなのでした。
シンプルな原材料なのに、本当に不思議なお菓子です。
とにかく、我が家で、確かに幸せを感じた月曜日、長崎とお母さんに深く感謝をいたします。