犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

飛翔体

2009-04-06 23:17:53 | 韓国の漢字語
 北朝鮮が,ミサイル発射実験を強行した事件を機に,日本の報道で「飛翔体」という耳慣れない言葉が飛び交っています。昔はあまり聞かなかった気がしますが,最近出来た言葉なんでしょうか。

 試みに,ネットの大辞林,大辞泉で「飛翔体」を検索してみると,見出し語にはなっていない。

 同じ大辞泉で「ミサイル」を引くと,

「通常、軍事目的のため、爆発物を遠距離に放擲するための飛翔体。…」

とあり,ミサイルの語釈の中では「飛翔体」という言葉が使われています。大辞林の「ミサイル」のほうは,

「ロケットあるいはジェット推進による飛翔爆弾」

となっていて,「飛翔」という言葉は使われているが,「飛翔体」はない。どうも航空工学で使われる専門用語のようです。

 わざわざそんな専門用語を使わなくても,「ミサイル」と言えばいいのにと思いますが,北朝鮮はあくまで「人工衛星」だと言い張っているので,「ミサイル」と決めつけるのは外交上まずい。

 じゃ,「ロケット」と言えばいいじゃないか。

 しかし,日本にも「H2ロケット」というのがあって,「人工衛星打ち上げのためのもの」というイメージが定着している。北のミサイルを「ロケット」と言ってしまうと,日本のH2ロケットも軍事転用可能で,要するに日本も北と同じようなことをやっているんだという正しい認識を日本国民に持たせる結果となるのはよろしくない,という高度に政治的な判断が働いたのでしょうか。

 同じような言葉に,「飛行物体」というのもありますが,こちらは「謎の」というイメージがあり,明らかに北朝鮮が発射したことがわかっているものには使いにくい。

 なお,韓国の報道を見ると,「ロケット」という言葉がいちばん多く,次に「ミサイル」。自前のロケットも持たない韓国には,配慮の必要のない言葉なのでしょう。

 韓国のサイトで「飛翔体」を検索すると,ヒットするのは日本の報道を伝える記事ばかり。飛翔体という言葉は韓国で使わないことがわかります。

「飛翔」を韓国最大の国語辞典で引くと,

「空中を飛び回ること。「飛ぶこと(ナルギ)」に醇化。」

とあります。「醇化」とは,日本で造語された怪しからん言葉を,純粋な韓国語に改めること。「飛翔」は,日本起源の漢字語と見なされ,言い換え対象用語なのですね。

 韓国語で,「飛翔」はピサンと読み,同音異義語に「非常」「飛上」がある。「非常」も「飛上」(日本では使わない?)も日本語では「ひじょう」で,「飛翔」(ひしょう)とは発音が違う。韓国では一般に多用される「非常」との同音関係を嫌って,避けられているという事情もあるのかもしれません。

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